第8話 首謀者確定
バッカス防衛大臣の指示で私は取り急ぎ防衛用魔法陣の陣正に取り掛かるのであった。
「ふぅ。入口を作るには陣の外側の何処かに穴を開ける修正が入っているはず……」
陣の周りをゆっくりと歩く。
見逃さないように。
穴を開けるということはあの陣が。
「あった!」
この陣を……。
これだけ。
「出来ました」
私は終わったことを告げた。
「なんだと!? そんなに早く特定出来るわけが無い!」
「何故ですか?」
それに反応したゲーハさん。
その反応に不思議そうに何故かと問いただすおじ様。
ゲーハさん、自分の首を締めたんじゃないかしら?
「そ、それは、そんな巨大な陣の中からそんなにすぐ穴が空ける箇所を特定するなんて!」
「不可能だと?」
「そうですよ! デタラメだ!」
「ふむ。何が不可能だと言うんでしょうか? この魔法陣は王都を守る為にアヤメさんが昔描いたそうですよ? 国の記録にも残っていました」
おじ様がそう言うと、顔を真っ赤にしたゲーハさん。そんなに赤くなるまで怒って疲れないのだろうか?
「そんな! アヤメくんはそんな……」
「そんななんですか?」
「そんなことできるわけない!」
「はっはっはっ! 何故です? 彼女はこの国で唯一の特級陣正士ですよ? ね? アヤメさん?」
おじ様に話を振られちゃ正直に答えない訳にはいかないわね。仕方ない。
胸ポケットに入っている陣正士証をみせた。
アダマンタイトで作られたその証明書は鈍く光っていた。
これは、壊れないように頑丈に作られている。
身につけてる人を守ってくれるんだとかなんとか。
「なっ!? 本当に!? 実在したのか……特級陣正士!」
「はい。隠していてごめんなさいね。ゲーハさん。私みたいなのが持ってるとイチャモン付けてくる人がいるので、なるべく隠しているのよ」
特級陣正士が実在したことに驚いているようだが、まだ驚くには早い。
「ログリスト!」
ブンッという音がして何かの一覧が出できた。
日付と修正箇所、そして、魔力波紋が記録されている。
私が入ったのはこの日の夜ね。
ということは、この日の後を見ると。
「この魔力波紋の人物が最後に魔法陣を陣正しています。今回の穴を開けた犯人かと」
「何を根拠にそういうんだい?」
おじ様が不思議そうに聞いてくる。
教えてあげるわ。
「それは、この魔法陣を作成した際に陣正した人の履歴を取るように機能を追加していたのです。それにより、陣正した人の魔力波紋が残っています」
「それをどうするんだい?」
ある魔法陣を展開。
そして魔力波紋をなぞる。
「魔力サーチ」
波のように私を中心に魔力が放たれる。
ポワーンとゲーハさんが光った。
「なんだ!? これは!?」
狼狽えるゲーハさんとローヤカバ前防衛大臣。
「どうやら、この魔力波紋はゲーハさんのもののようですね? そういえば、図書館でも悲鳴が聞こえたとこに出た第一声が「賊か?」でしたよね? 普段は侵入してくるわけがないのに、なぜ最初にそう思ったんですか?」
「なんだと!? またデタラメを!? アヤメくんは司書官をクビだ!」
ゲーハが取り乱して暴言を発する。
「クビになるのは君だ。ゲーハ。ローヤカバ前防衛大臣とともに牢屋行きだ」
おじ様のその言葉に反応したのはローヤカバ前防衛大臣だった。
「なぜ私もなのだ!? やったのはコイツだろう!?」
そう言って自分は逃れようとしている。
呆れた人ね。
「セキュリティ魔法陣の方も履歴を調べた。そしたら私の後に君が入室していた。なぜだね?」
「そりゃ、点検の為だ!」
「はぁ。前防衛大臣が何の点検をする必要があるんです?」
「私は防衛用魔法陣が心配で……」
「見苦しいですよ? 諦めなさい。もう終わりです。ガイル、牢へ」
もう聞きたくないとばかりに兵士さんに連れて行くように命じるおじ様。
「はっ!」
敬礼をすると二人を縄で捕縛している。
「私は! こんなところでくたばっていい人間ではなぁーい! このゲーハだけ罰すればいいだろう!? 実行犯だぞ!? 私は指示をしただけだ!」
あーぁ。話しちゃった。
「ローヤカバ殿! それを話しては……」
ゲーハも共犯である事が確定した。
これで国家転覆を目論んだ二人の計画は終わりね。
暴れる二人に兵士さんは困っているみたい。
少し助けてあげましょう。
魔法陣を展開して、ゲーハさんとローヤカバ前防衛大臣にぶつけた。
すると急に大人しくなったかと思ったら、寝息をたてていた。
「こ、これは!?」
兵士さんが目を見開いて驚いている。
「ふふふっ。それはスリープ。眠くなる魔法。この程度の魔法の行使はできるの。魔力をあまり使わないのよ」
「凄い」
「この程度どうってことはないわ。魔法士の人達はもっと凄い魔法を放つのだから。それと、おじ様? この前の転移魔法陣の方も後で履歴を見てもいいでしょうか? 恐らく同じ犯人かと……」
「あれもか!? なるほど、軍を閉じ込めようとしたんだな?」
「そうようですね。なんと罪深い」
「奴らは死刑確定だ。では、連れて行って今日は終わりだ。賊とワイバーンは我が防衛軍が鎮めたから安心したまえ」
「さすが、おじ様の部下だわ」
「そんな事は無いさ。ちょっと孫が居なくなってしまって探しに行かねばならんのだ」
おじ様も気が気じゃなかったでしょうね。
あら? 孫って……。
「おじ様? もしかして会わせてあげられるかもしれないわ」
「本当か!?」
「えぇ。着いてきて」
防衛基地を後にすると図書館までやってきた。
ここでは利用者の人達が肩を寄せあって待っていた。
そこには、私が助け出した子が。
「マリア!」
「おじいちゃん!」
中央で抱き合う二人。
やっぱり。目元が似ている気がしたのよね。
良かった。
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