第5話 盗賊襲来

「きゃぁぁぁぁぁ」


 図書館の外から悲鳴が聞こえた。


「何事だ!? 賊か!?」


 ゲーハさん何をそんなに慌てているのだろう。

 賊なんて入ってこれるわけ────。


「賊だ! 王都が襲われている!」


 えっ? なんで? そんなのおかしい……。


「私は外を見てくる! 中の人の避難誘導をしなさい!」


「はい!」


 今はそんなの考えている場合ではないわね。

 利用者の安全を確保しないと。


 図書館の中を駆け回り、避難するように誘導する。


 でも、避難?

 どこに?

 王都は賊がいるんでしょ。

 それならまだ、ここで固まっていた方がいい。


「こっちよ! こっちに固まって!」


 利用者を一カ所に集める。

 あとは、私が守る。


 入口に陣取り外を警戒する。

 やってきたのはゲーハさん。

 様子がおかしい。


「たっ! 助けてくれぇ! 賊が追ってきたぁ!」

 

 なんかわざとらしい気が。

 わざわざ連れて来たんじゃないでしょうね。


 私は、術式を待機させる。


「ヒャハハハハ! 女がいるぜぇぇ!」


「ホントだなぁ。ラッキーだぜぇ!」


 はぁぁ。ホントに下品な人たち……。


「いっちょ、弱らせようぜぇ! ウィンドカッター!」


 風の無数の刃が迫る。

 利用者の前に立ちふさがり。

 術式を作動させる。


「リフレクション!」


 ブンッと現れた魔法陣。

 その魔法陣が光を放って風の刃をはじき返す。


 面食らったように盗賊達は体中に傷を作る。

 血を流しながら片膝をついて息を切らしている。


「なんだぁ!? 魔法士かぁ!?」

 

 私は答えない。

 敵には情報は渡しません。


「くそがぁ! 建物ごと吹き飛ばしてやる! ウインドストーム!」


 魔法陣が輝き、竜巻が小さいものから段々と大きくなってくる。

 魔力液を取り出してサッと魔法陣にかけ、魔力を流す。


「くそ! 陣正士か!?」


「くらいなさい!」


 ゴウゴウと鳴り響く竜巻を横にして盗賊達を吹き飛ばした。

 図書館の出入り口から出て通りをそのまま突き進みどこかへ消えた。


「よし! じゃあ、入り口も塞ぎましょう」


 入口に魔法陣を描いて結界を張る。

 カウンターに戻ってくるとゲーハさんがしりもちをついて何かを言っている。


「こんな……こんなことがあっていい訳がない……」


 何をブツブツ呟いているのかわからないけど、何か関りがありそうな気がするのよね。

 問い詰めるのは後にして、図書館は安全。

 あとは、外の人達を避難させなきゃ。


 裏口から出てガッチリ結界を張っておく。

 これでよしっっと。


 街の中を人が残っていないか探す。

 子供が逃げていた。

 盗賊に追われている。


「ヒャハハハ! それそれぇ!」


 私の魔力はそんなに多くない。

 こんな時に魔法が使えれば……。

 だから魔法士ではなく、陣正士なのだけど。

 そうだ!


 魔力液を取出して賊に向かって投げる。

 ビシャッと目にかかって視界を塞いだ。


「ぐわぁぁぁぁ! なんだぁ!」


「今のうちに! こっちよ!」


 子供の手を引っ張って逃げる。

 建物の陰に隠れる。

 路地の入口の両脇に魔法陣を描く。


「どこいったぁ! くそがぁぁ!」


 ドスドスと音をたてながら私達を探している。

 段々と音が迫って来ていた。

 子供を包み込むように守りながら願う。


 なんとかこれで乗り切れますように!

 盗賊をやっつけて!


「はっはっはっ! 見つけたぜぇ! カワイ子ちゃんよぉぉ!」


 一歩、二歩と近づいてくる。


ゴォォォォ


 魔法陣が発動したようだ。

 発動したのはファイアーウォールという炎の壁が現れる魔法だ。


「ぐわぁぁぁ! あちぃ! あちぃ!」


 暴れ回っているが火だるまになっている。

 私は子供になるべく声を聴かせないようにギュッと抱きしめた。


「あぁぁぁ! ぐぞぉぉぉ!」


 男はまだ生きていてこちらに向かってきた。

 目をギュっと瞑り衝撃に備える。

 足音は通り過ぎて行った。


ゴォォォォ


「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ」


 反対側のもう一個の魔法陣を発動させてしまったようで、運よくそのまま丸焼きになった。

 バタッと倒れ、動かなくなった。

 恐る恐る目を開けてみる。


 悲惨な光景だった。

 これは子供には見せられない。

 子供の目を塞いで立ち上がる。


「さぁ。目隠しゴッコしてあっちに歩きましょ」


「うん!」


 子供は素直についてくる。

 少し離れるまではそのまま目隠しで歩いた。


「よし! オッケー! 図書館に逃げましょう!」


「うん!」


 子供を連れて図書館へ向かった。

 向かう最中に見つけた女性も一緒に連れていく。


「恐くてどこに逃げたらいいか困ってたのよぉ」


 そう言い涙を流した。

 いきなり盗賊が襲ってきたらそうなるわよね。

 私だって恐いもの。

 

 建物の陰から様子を伺っていないことを確認しながら図書館へ駆ける。

 子供の速さに合わせて一緒に向かう。

 周りを見ると少し落ち着いたのか、静まり返っている。


 もうすぐ図書館だ。

 ようやく着いた。


 裏口の結界を一度解いて中に入り、張り直す。

 カウンターの所に歩いていくとゲーハさんが顔を真っ赤にして待っていた。


「アヤメくん! 君はなんてことをしたんだ!?」


 えっ!? なに?


「君が盗賊を王都に入れる手助けをしたんだってぇ!?」


 何言ってるの?

 ゲーハさん。


 そんなわけな────。


「あなたがアヤメさんですか!? 国家転覆を目論んだ容疑で捕縛します!」


 そこにいたのは防衛軍の兵士。

 はぁ。この国の先が心配ね。

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