その司書官、この国唯一の特級陣正士なり

ゆる弥

第1話 司書官アヤメ

「あの! 初心者用の魔法書ってありますか!?」


 私の目の前には十代の女の子。

 初心者用の魔法を勉強したいと言う。


 んー。初心者用だと、その人の傾向によって決まるのよね。

 感覚系か理論系か。


「あるわ。本を選ぶ為に、最初に質問させてもらってもいい?」


「あっ、はい!」


「あなたの得意なことある?」


「あっ、料理が好きです!」


 料理なら分かりやすいわね。


「得意料理はどうやって作るのかしら?」


「得意なのは、肉とイモの煮付けなんです! 肉をダンダンダンって切って、イモはシャーッと剥いてゴロゴロ入れて、ビシャーッて水につけてコトコト煮ます! 最後に味付けをショーユをジャッと入れて、砂糖ドサッと入れて酒をチョロッと入れたら出来上がりです!」


 これは、間違いなく感覚派ね。

 感覚派には、あの本の方がいいわ。


「うん。美味しそうね。魔法書の所へ案内するわ」


 少し奥の右側だったわ。

 少し上の段から一冊を抜き出す。


「はい。これなんかどうかしら? 少し開いて見てみて?」


「はい!」


 目の前で開いて見ている。

 パラパラとめくって目を輝かせた。


「こんなにわかりやすい魔法書があるなんて! ありがとうございます!」


 本を抱えて入口に戻る。


「借りた本は私が記入するわ。あなたの名前を書いてもらっていい?」


「はい!」


 名前を書き込んだ女の子は礼を言ってかえっていった。

 その用紙に借りた本の名前と列番号と何段目の物かを記載する。


 こうやって求められた本を探し出して渡したり、時には本を修復したりするのが私の仕事だ。

 でも、この質問して選ぶ私のやり方を気に入らない人がいる。


「アヤメくん! また変な質問して本を選んでたでしょ!? 余計な事をお客様にさせないで、さっさと選んであげなさい!」


「でも、あの質問は────」


「口答えはいいから「はい!」でしょ!?」


「……はぃ」


 その人にあった本を選びたいと私は思っている。だから、ここにある本は全部に目を通しているわ。


 私は小柄で華奢な体型に、ピンクの髪をポニーテールにしているの。メガネもかけているから、その見た目がか弱くて虐めやすいみたい。


 あの頭が物理的に明るいゲーハさんよりここにある本を理解している自信があるのに。

 司書長で権力があるからってあんな言われ方をするのは気に入らない。


 でも、私は雇われている身。あの人がクビと言ったらクビだ。本に囲まれている生活が好きな私はこの仕事以外は考えられない。


 この世界の魔法は発動すると魔法陣が形成されて魔法を放つという法則がある。

 その事から、物に魔法陣を描いても発動するように開発され、魔法陣による発展を遂げているのがこの世界なのだ。


 私は魔法陣が好き。

 どこの部分が何を意味しているのか。

 それを研究するのが楽しいから。


 今日も新しく発行された魔法書を借りてゆっくりと帰ってから家で読むことにしたのだ。

 閉館してから開館するまでに戻せば問題ないから帰る時によく借りている。


 そんな時一人の男の人が現れた。

 カチッとした感じの服を着て大柄な態度で歩いてくる。


「この図書館で、転移魔法陣に関しての魔法書はあるか?」


「はい。あります。得意なことは────」


「すみません! その子が失礼を! 私が案内しましょう! 何をお探しで?」


「転送魔法陣の書を探している」


「こちらです!」


 ゲーハが張り切って案内している。

 あぁいう権力ありそうな人に媚びるのがゲーハのいつもの日常だ。


 さっきの女の子みたいな人には見向きもしないくせにね。私へ任せるくせにさっきみたいに意味のわからない文句は言うし。


 ホント、嫌になっちゃう。

 嬉しいのは、返しに来た人達が「分かりやすかった」とか「これ面白かった」とか言って喜んでくれる時。


 この前一番嬉しかったことがあった。

 ある男性が私が選んだ本を返しに来た時に言われた言葉。


「あのハゲてる人に勧められたのは分かりにくくてダメだったのに、君に勧められたのは分かりやすかったよ! 今度からは君にお願いするよ」


 これは、何より嬉しかった。

 しかもその人はあのゲーハさんの好きな権力を持っている感じの人だった。


 ふふふっ。

 ざまぁ無いわね。


 さっき案内された人はゲーハさんに勧められた本を借りて行ったみたい。

 ゲーハは基本理論系の魔法書ばかりすすめるのだ。それは、自分が理論派で自分が分かりやすいから。


 全部自分基準。

 そんなんじゃ借りたい人が求めている本は探せないと思うんだけどね。


「アヤメくん、あぁいった方は私が案内するから、私を呼びたまえ。君には荷が重いだろうからね!」


「はーい」


 適当に返事をしてやり過ごす。


「ふんっ!」


 鼻息を荒くして去っていった。

 何でそんなに私に突っかかって来るんだろう?

 そんなに気に入らないのかな。


 さっきの人は大丈夫かな?

 まぁ、私が心配することじゃないわね。


 その日は新規で発行された魔法書を借りた。


 内容が魔法陣の修復の仕方。

 これは私が普段研究している事を補足してくれるような内容で凄く勉強になった。


 こういう本を出す人に修復を頼むのって凄くお金がかかるらしいのよね。


 だから、たまに頼まれて修復してあげたりしてるの。

 

 この本を返した次の日。

 タイミングを見計らったように魔法陣の修復依頼が来たのだった。

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