第2話 転生魔法陣の陣正依頼
ある依頼が飛び込んできた。
それは突然の来訪者からだった。
「おぉ。君がアヤメさんかな?」
「はい。なぜ名前を?」
「いや、すまないね。ちょっと困ったことになってね、それで知り合いに陣正できる人を探しているって言ったらアヤメさんを紹介されたのだよ」
きっとお偉いさんだろうにぺこりと頭を下げられた。
この年頃の人はあまり年下に頭を下げることはしないと思うから。
ウチの上司はまさにそれ。
「そうだったんですね。たまに依頼されると陣正に出向いてます。一応料金を頂いてますし、キチッと仕事はさせて頂きます」
「えぇ。そうでしょうねぇ。私はアヤメさんの腕がこの辺では一番いいと聞いてきたんだ」
「それは、ありがとうございます」
ドンッと封筒を目の前に置いた。
なんだろう?
不思議に思い中身を見ると札束だった。
「えっ!? これ……」
「それが今回の報酬でどうかな? 古代陣の陣正なんだが」
札束は嬉しいが、出来ない依頼は受けられない。そんな適当に金儲けだけでしている訳では無いから。
この世界で陣正士というと給金が高い職業の五本の指に入る職業だ。
それだけ、知識と経験が必要な仕事だということ。
生半可な知識では魔法陣を使用不能にする事だってある。
魔法陣には種類があって、ここ百年位に開発された魔法陣を現代陣といい、百年以上前の物が古代陣と呼ばれている。
なぜわかるかと言うと、魔法陣の構成が全然違う。古代陣の陣正には現代陣の知識では太刀打ち出来ないのだ。
今回の依頼はそんな古代陣の陣正の依頼らしい。その為、この札束ということなんだろう。
「なるほど。大丈夫です。でも、詳しく見て見ないと陣正出来るものかの判断ができません。見せて頂いても?」
「あぁ。場所が内部のものしか入れない場所でね。出来ればここが閉館した後くらいにお願いしたいんだが?」
「分かりました。では、閉館した後に噴水広場で待ち合わせということでいかがでしょうか?」
「はい。お願いします」
仰々しくお辞儀をした後に、図書館を出ていった。
「なんの話をしていたんだい?」
ゲーハさんが現れた。
あなたには関係の無いことよ?
そう言いたいが言えない。
「ちょっと本のことで相談を受けていただけですよ?」
「ふむ。そうか」
去っていったゲーハさん。
一々権力を持っていると思われる人が来ると、顔を出すのをやめて欲しいわね。
その日の閉館後。
ゲーハさんが帰宅したのを確認して噴水の広場に行く。すると、既に依頼者が待っていた。
「あっ、すみません! お待たせしました」
「いえ。閉館時間は分かってましたから、先程来たばかりですよ。それでは、行きましょうか」
そう言われ、案内されるがままに着いていく。
こんな女性がホイホイついて行っては。
と思うかもしれないが、それにも理由があるのはもう少し後にわかるわ。
着いたのは大きな建物。
そこは、この国の建造物である。
「ここって、防衛基地ですよね?」
「えぇ。そうです。王都の守りの要ですね」
「こんな所に入って大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。私は関係者ですから。こちらです」
案内されるがままに中に入り、奥に入っていく。中は部屋が沢山あり、兵士が休む部屋になっているんだろう。
その他にも武器庫のようなところがあったり、あまり見てはいけないようなものが沢山ある。
これ、見て大丈夫なの?
見たからって後から命を狙われたりしないわよね?
「ここです」
扉を開けた先には光を失った魔法陣があった。
これは……転移系の魔法陣。
うーん。なんか破壊されてるわね。
「分かりますか?」
「あっ、はい。大丈夫です。直せますが、これは……」
「もしかして、原因まで分かりますか?」
言っていいものかどうかを少し迷ってしまう。
でも、これを隠すと私も犯人の仲間だと思われてしまうかもしれない。
それは勘弁して欲しい。
「実は、発動できなくすることを目的だと思うのですが、魔法陣が発動できないように少しだけ魔力線を上書きされています」
「魔力線……ですか?」
そうね。
普通に考えて知らない方が当然だわ。
「すみません。説明不足でした。このような書いている魔法陣というのは魔力線という魔力が通った線で描かれています」
「ほぉ」
「それで、一番破壊しやすいのが、魔力線で上からめちゃくちゃに描くのが一番簡単です」
「でも、これめちゃくちゃなんですか?」
そう。それが巧妙に弄ってないと見えるように描かれているのよね。
これは、陣正士の犯行ね。
けど、恐らくは古代陣の陣正までは出来ない人ね。それは、一発で発動を阻止できていない点で分かるわ。
それさえ囮の可能性もない訳では無いけど、それにしたって、分かってる人ならもう少し上手くやる。
「これは、形上は成り立っているように見えますが、実際は、ここの線が原因で魔力の供給を遮られています。他にもこことここが改竄されているので、陣正が必要です」
「私には全然分かりませんな。なんとか陣正をお願いします!」
「はい。少しお待ちください」
少し時間をもらうと魔力線を引くための魔力液を用意する。
それともう一つ。
魔除液はこういった修復の時に必須なのだ。
魔力線を除去して自然の魔力に変換する力を持った液だ。
上書きされた線の部分に魔除液を塗っていく。
五分位待つと、塗った部分が魔力化して自然に返った。
そこから元の転移魔法陣に修正する。
オーソドックスな転移魔法陣で、対になる魔法陣が設置されているところに転移するものだ。
その対になる魔法陣との結び付きの部分が弄られていなかったのが幸いした。
陣正し終わるとブンッと魔法陣が発動された。
これは重要な役割をする魔法陣なのよね。
「これで、陣正は終わりです。転移できるか確認しても宜しいですか?」
「それは、私がやりましょう」
そういうと即座に魔方陣を作動させて戻ってきた。
「完璧です。ありがとうございました。ここに入ったことはくれぐれも内密にお願いします」
「はい。畏まりました」
こうして古代陣の陣正が無事終わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます