今度こそ
西しまこ
第1話
「お待たせ!」
あたしは駅で待つ彼に手を振った。最近、肉体労働をしているから、腕が筋肉痛だ。痛い。でも、そんなことは見せずに彼の腕をとる。
「今日はどこに連れてってくれるの?」
「美術館なんてどう? 絵を見たあと、桜を見ながら散歩して、そのあとごはんを食べに行こう」
「うん! 嬉しい」
あたしは精一杯かわいい声を出す。今度こそ、失敗しないように。
彼は今までつきあった男たちの中で、きっと一番いい。いや、今までがひど過ぎた。今までのことは全て忘れてしまおう。部屋に残った、元カレのごみも、早く捨てなくちゃ。でももうあと少しでおしまい! あたし、頑張った! あたしは嬉しくなって、ふふふと笑った。
「どうしたの?」
「嬉しくて」とあたしは答える。「貴大と……つきあうことが出来て」
貴大にぎゅっと抱きしめられる。あたしも貴大の背中に手を回す。
「僕はずっと、あゆみがYESと言ってくれるのを待っていたんだよ」
「うん。……待たせてごめんね」
「……今日は、夜、あゆみの部屋に行ける?」貴大はじっとあたしの顔を見た。
ああ、ほんとチャンスなのに、あの生ごみがまだ残ってるからまずいんだよね。
「ねえ、あたし、貴大のことが本当に好きなの。だからね、まっさらな気持ちで貴大と向き合いたいの。あの部屋は色々あったから……引っ越ししてから、貴大を呼びたい」
「あゆみ」貴大はとても大事そうにあたしを抱きしめた。
「じゃあ、あゆみ、僕といっしょに暮さない?」
「ほんと⁉」
「ああ。……僕、あゆみを大事にする。約束する。あゆみのこと、絶対に傷つけない」
「貴大」
よかった。今度こそ、あたしは幸せになるんだ。
あたしは貴大と手を繋いで歩きだした。明るい太陽があたしたちを祝福してくれている気がした。
それにしてもうまく収まってよかった。部屋に呼べないいいわけもだんだん苦しくなっていて。部屋にあんな生ごみがあったら、ちょっとひとは呼べないよね。いくら消臭剤をまいても漂白剤で掃除しても、なんだか血のにおいが残っているような気がして。
でもあたし、ちょっといいこと思いついちゃったんだ。肥料にしちゃうの。コンポストっていうやつ。もし要らなくなったらそのまま捨てちゃえばいいし。肥料になってたら捨てやすいよね。あたし、すっごく頑張って、ほとんど解体して捨てちゃったけど(他の生ごみといっしょに)、頭って捨てにくくて、困ってたの。大きいオーブンがあるから、入る大きさにして焼いてみたけど、微妙なんだよね。途中で止めて、どうしようかと思ってたところ、コンポストを知って、いま元カレの頭はコンポストに入っている。
あのオーブン、不燃ごみで捨てなくちゃな。さすがにもう使えない。あれ、リサイクルだっけ? 頭入りで捨てるのはまずいよね。頭見つけられたら、うまいいいわけなんて出来るはずもない。
でも、見つからなければ大丈夫!
今度こそ、いいわけの要らない人生にするんだ。ね、貴大!
了
「切断」https://kakuyomu.jp/works/16817330654253558372
「男運の悪いオンナ」https://kakuyomu.jp/works/16817330654381384117
の続編です。
一話完結です。
星で評価していただけると嬉しいです。
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今度こそ 西しまこ @nishi-shima
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