第一話がめっちゃ怖い

  • ★★★ Excellent!!!

ここを見ている方は、できればこのレビューを読む前に、小説本編に移動して第一話だけでも読んでほしい。

本作は、怪異を題材にしたホラーアクションだ。
ある夜、ラフホテルの一室で人間ではない異形の男女が交わっている最中、得体の知れない不定形の化物が現れ、男の方を惨殺する。女は必死で化物から逃げる中、彼女と同じく怪異である「S」と名乗る青年と出会い、共に行動することになる。


まず言っておきたいのは、何の説明もなく始まる一話がとても怖いということだ。
ラブホテルで人間ではないバケモノ同士が交尾してる、という状況からしてもう異常で怖い。人間をだまして捕食してる、とかならまだ分かるんだよ。わざわざラブホテルでやるところに、中途半端に人間社会に溶け込んでる感じがして、その得体の知れなさが怖い。

そこに現れた陽炎のようなぼんやりした姿のバケモノ。その見た目は怖くないが、触れたとたんにバケモノの男の方の身体は爆ぜて飛び散る。絶叫して逃げる女のバケモノを、陽炎が笑いながら追っていく。
バケモノ同士の殺し合い。人間社会の倫理と隔絶した異様な世界を垣間見た思いがして怖い。たとえるならジャングルの奥地で野生動物同士の殺し合いを見た時のような。人間にとって恐ろしいバケモノもここでは狩られる側になる無常さも怖い。

ここまでわけのわからない怖さのある、ホラーとしてつかみは満点の始まり方だった。

大抵の小説のジャンルでは、説明不足でどういう状況なのか読者にはさっぱり分からない、というのはマイナスにしかならないが、ホラーは違う。むしろ分からないからこそ読者の原始的な感情を刺激し、恐怖はより深まるのだ。


その後の話で、話の真相は次第に明らかになっていく。女の正体、Sの正体など、バックグラウンドは作り込まれており、なるほどと納得のいく筋立てで、オカルト的にも既存の妖怪の伝承や都市伝説が設定に上手く取り入れられている。

だが、恐怖のピークはこの一話にあると思う。

何よりも「分からない」ほど怖いことはないのだ。

この文章をここまで読んで、まだ一話を読んでいない人は、ブラウザバックして読んでみることをおすすめする。
得体のしれない恐怖が、あなたを襲うはずだ。


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