最終話 ネコミミ王女、台パンする
さて。問題はその日の配信である。
動画のサムネには、氷雨氷海子の顔と「ゲーム配信 ※罰ゲームあります」との文字があり、配信前からコメント欄は盛り上がりを見せていた。
『ごきげんよう、愚民ども。今日も配信を始めていきます』
コメント
;待ってました!
;王女、ご機嫌麗しゅう
;ご機嫌麗しゅうですわ〜!
『今日、見せるのは巷で流行りのゲーム、スプレトゥーンです』
スプレトゥーンとは、イカがスプレーを撒き散らし、より広い面積を塗れた色のチームが勝ち、という人気ゲームだ。
ちなみにこれも、俺が雨宮との雑談の中で好きだと漏らしたゲームだった。なんたるこった。
『そして、今回。罰ゲームを設けたいと思っているの。試合で負けたら‥‥‥』
ごくりと喉を鳴らす。彼女はどんな罰ゲームを用意しているのか。
『次の試合の間は、この猫耳をつけて“にゃ”を語尾につけなければならない縛りを設けますわ』
氷雨氷海子は、猫耳のフリー画像を画面に出す。彼女はまだそれを頭につけてはいないが、コメントはすこぶる沸いた。
コメント
;うおおおおおおお
;マジか!!
;最近の王女、前衛的〜
;ネコミミ王女をトレンドに入れるぞ!
『こんな屈辱的なこと、絶対にしたくない。でも大丈夫です、全試合に勝てばいいんだもの』
コメント
;これは絶対負ける
;確定演出
;自らフラグ立てるの草
;フラグ回収待ってます
『失礼な愚民が多いですね。いいでしょう、目にものを見せてやるんだから』
思いっきりフラグを立てた王女。
以下、彼女の配信をダイジェストでお送り致します。
キルされるイカ、塗られていく敵陣営の色、キルされるイカ、王女の台パン、キルされるイカ、キルされるイカ、イカ、イカ‥‥‥
結果、彼女はほとんどの試合で「にゃ」をつけるハメになった。
『本当に屈辱的です‥‥‥にゃ。‥‥‥なんで私が‥‥‥こんな目に遭わないと、いけないのかしら、にゃ』
コメント
;やばいやばいやばい
;目覚めそうや
;子供は帰れー!!
;王女に屈辱的とか似合いすぎる
王女は、顔を赤くさせてながら、ネコミミを頭につけている。更に、「にゃ」とつけることが恥ずかしいからか、彼女は息を途切れさせながら話していた。
その姿がとても扇動的で、えっっっっ‥‥‥だった。(察し)
『今日の恥辱は忘れないですわ。こんなことをさせたあなた、覚えてなさい!』
こうして、本日の氷雨氷海子の配信は終了した。ツブッターのトレンドには「ネコミミ王女」や「台パン」がトレンド入りを果たしていた。
今日を振り返り、俺は天を仰いだ。
“では、須藤くんは、猫耳をつけて「にゃ」と言っている女の子が好きなんですね〜”
昼間、雨宮はそう言っていたが。
本当に実現するとは夢にも思わなかっただろ!
次の日。朝8時。気だるげな空気の漂う中、艶やかな黒い髪をたなびかせ、今日も彼女は俺の元にやって来た。
「須藤君。あなたの最推しは誰ですか?」
そして、俺は当たり前のようにこう答える。
「愛猫ミケに決まってるだろう」
「なんでですか!!」
彼女は心底ショックを受けたように叫んだ。彼女が動揺を見せるのも珍しい。
「なんでって理由を聞かれてもな」
「あんなにしたのに‥‥‥!」
「なんの話だ?」
「恥ずかしかったけど、我慢したのに!」
「ちょっと待て!その言い方は、誤解を受ける!!」
クラスメイトがこっちに注目してるから!俺が彼女に変なことをさせたみたいな誤解を受けるから!!‥‥‥いや、ネコミミをつけさせるきっかけになった点では、あながち間違ってないのか?
クラスメイトの視線をものともせずに、彼女はべっと舌を出した。
「本当に覚えておいてくださいよ!」
彼女のその言葉が昨日の氷雨氷海子の言葉と重なり、俺は少し笑ってしまった。
「なんで、笑ってるんですか」
「いーや。別に?」
「なんかムカつきますね。ネコミミの女の子が好きな癖に」
「それは、関係ないだろ!!」
かくして、彼女と俺の攻防戦は続く。
しかし、彼女は未だに分かっていない。
初めは、彼女の行動に戸惑うだけだったのに、必死になって俺の好みに寄せようとしてくる彼女が段々と可愛く見えてきてしまっていることに。
そんな彼女の姿を見たくて、俺は最推しを「愛猫ミケ」だと言い張っていることに。
確かに俺にとって彼女は、かつて2番目の推し
「電車で助けた美少女が、2番目の推しVtuberだった件」終
電車で助けた美少女が、2番目の推しVtuberだった件 夢生明 @muuumin
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