第4話 俺のおかげで、トレンド入り?!
その日の夜、学校から帰った俺は、ベッドの上に横たわった。
「今日は、予想外のことで疲れたな」
そんな時は推しの配信を見るに限る。最推しの愛猫ミケの配信は、残念ながら今日はおやすみ。しかし、
今日は色々あったが、Vtuberである彼女のことは変わらずに推していきたいと思っている。
『ご機嫌よう、愚民ども。今日も配信を始めていきますわ』
コメント
;ご機嫌よ〜
;ごきげんよう
;王女、ご機嫌麗しゅう
;今日なにするん?
配信が始まった。画面には、銀髪の女の子が髪を揺らして、お決まりのセリフを言っている。リスナーのコメントは彼女の隣で流れており、次々とコメントが入れ替わっていく。
『今日は、みんなの要望に応えながらイラストを描いていこうと思いますの』
コメント
;マ?!
;王女、イラスト描けるの?
;新しい特技?!
彼女の言葉に、コメント欄がざわつく。
一方の俺は、朝、自分が言ったことを思い出していた。俺は愛猫ミケについて聞かれた時、確かにこう言ったのだ。
“イラストが上手いところとか尊敬してるな”と。
「まさか、たまたまだよな‥‥‥?」
自分の自意識過剰な考えに呆れてしまう。
確かに王女は、これまでイラストを描く配信をしたことはなかったし、絵が上手いという話も聞いたことはない。
しかし、それは明かしてこなかっただけなのだろう。これが初お披露目で、素晴らしい絵を、彼女は見せてくれるはずだ。
と、自分を無理矢理納得させて、配信を見ていたのだが。
コメント
;王女‥‥‥
;おいたわしや
;いや、草
王女のイラストは、お世辞にも上手いとは言えなかった。
よく言えば、芸術的。悪く言えば、爆発している。コメントには『よく見れば上手くなくもなくもない』『ジャ○アンの歌を連想させる』などの辛辣な言葉が並んでいる。
悪戦苦闘しながら、イラストを描く王女は非常に可愛らしかったのだが、急にこんなことを始めた理由が気になる。
そして配信の最後。彼女は言った。
『今日は、お粗末なものを見せて悪かったですわ。‥‥‥こんな配信に来てくれて、ありがとう』
最後に口角を上げ、目を細めて、彼女は配信を終わらせた。王女として偉そうにしている普段とは違った様子に、コメント欄は沸き立った。
コメント
;え?!
;王女がデレた?
;なに、この世界線
リスナーがコメント欄で絶叫する中、俺は冷や汗を垂らしていた。
俺は、雨宮に最推しの好きなところを聞かれて、こう答えたのだ。
“視聴者に笑顔で感謝してるところ、とか?”
「いやいやいやいや」
ちなみに、その日は、ツブッターで「デレ王女」が日本のトレンド1位になるほど、彼女が話題になった。
彼女が急にデレを見せてきた理由を巡って、ネットは考察合戦が繰り広げられていた。
その考察を見ながら、今日出会った、雨宮との会話を振り返る。
そして、振り返れば振り返るほど、俺の言葉が彼女の配信に影響を与えたのではないかという考えが強くなっていった。
助けてくれた俺に惚れて、少しでも気を引きたくて、配信で俺の好みの女の子を演じたとか‥‥‥?
「喝!!!!!!!!」
俺は座禅を組み、一人で叫んだ。どうやら声を出しすぎてしまったらしく、隣の部屋にいる妹が俺の部屋に顔を出した。
「おにいちゃん、どうしたのって‥‥‥本当にどうしたの?」
「神々しい、あの推しが!!!俺に惚れるなんてあるわけないだろう!!」
「お兄ちゃん?」
「ギャルゲーか、もしくはハーレム系のラノベか?!」
「お兄ちゃーん」
「なんて妄想力!俺は俺が恐ろしい!!」
「私もお兄ちゃんが恐ろしいよ!」
……とにかく、偶然か、もしくはたまにはリスナーの意見も聞いてみようという彼女の気まぐれだろう。
気にすることはない。
その時は、そう思っていたのだ。
しかし、それから毎日、雨宮は俺の1番の推しを聞いてくるようになっていた。また、俺が愛猫ミケを好きな理由も。そして彼女は、俺が愛猫ミケを好きだと言った理由に合わせた配信をするようになっていった。
ある時は、俺が好きだと言ったゲームを使った配信をしたこともある。
もちろん、「氷雨氷海子」のイメージを崩さない範囲であり、新たな一面を見れたリスナーは喜んでいた。
が、王女がそのような行動をする一端を担っている俺としては、その意図が分からず困惑するばかりなのである‥‥‥
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