蛇足

※この話はタイトルの通り、本編には一切含まれない完全な蛇足のお話です。

 DVDについてくる特典映像くらいの感覚で読んでいただけたらと思います。








 まどろみの中、ゆっくりと目を開いた。

 まるで長い夢でも見ていたみたいだ。

 見上げると崩れ去った石の天井から心地のいい朝日が僕を見つめてくれていた。差し込む日差しと壁の隙間から吹く風の暖かさが春の気配を感じさせた。

 そのおかげか、埃っぽくて硬い石畳の上でも、なんだか草原に寝転んでいるみたいな暖かさがあった。

 それにしたってなんでこんなところで寝ていたんだろう。

 周りを見渡しても瓦礫の山ばかりで、天井だって壁だって穴だらけ。強い風が吹いたらすべて崩れてしまいそうな、そんな場所だ。

 僕はそんな場所で瓦礫を背もたれにして眠っていたみたいだ。

 まだ頭がぼんやりしていてここにいるわけは思い出せなかった。


「ちょっと!何やってるの!?」


 ふいに声が聞こえた。

 その声を探して、きょろきょろとしているとひときわ大きな壁の穴から女の子が顔を出した。

 キレイな金髪に大きな瞳をした女の子だった。少女は人懐っこい笑顔を浮かべてこちらをまっすぐ見ていた。

 なぜかその笑顔を見た瞬間に、頬を涙が伝っていた。

 僕に向けられた屈託のないその笑顔に胸を締め付けられた。だが、それ以上に言いようのない達成感のような、安心感のような不思議な気持ちが沸き上がった。

 けど、それも一瞬のことで、意識した瞬間には消えてしまっていた。


「すみません。なんだかここから差す日差しが気持ちよくって」

 ごまかすように座っていた場所から腰を上げ、少女に笑いかけた。

「だからって、こんなところにずっといたらそれこそ魔女に呪われちゃうよ」

「大丈夫ですよ。もう魔女はいないんですから」

 ここに住んでいた魔女は数年前に英雄によって倒された。そんなことは国中が知っている事実だ。でなければ、事件の当事者がいるからと言って、こんなところまで入っては来られない。

「君が連れて行ってっていうから連れてきたのに、ほんと何やってるんだか」

 そういえばそうだった。

 僕の希望で連れてきてもらったものの、城に入った瞬間に何かが降りてきたみたいに眠気に襲われて、そのまま眠ってしまったんだ。

「まあいいや、気は済んだでしょ。私はあんまりここにいたくないから、早く次に行こうよ」

「そうですね。なんだか気もすんじゃったんで。次に行きましょうか」

 少女が足早に外へ出て行ってしまったので、置いて行かれないように追いかけた。


 外に出ると、ひときわ強い日差しに視界が一瞬真っ白になった。見上げた空は青く澄んでいて、真っ白な雲は高いところで流れている。とてもいい天気だ。

「そういえば次ってどこ行く予定なんですか?」

「ん~、わかんない」

 前を歩く少女が気楽な声で答えた。

「どこだっていいじゃない。————今からどこへだっていけるんだから」

 歩いていた足を止めると少女が振り返って笑っていた。


 ————そうだった。そのための旅だったんだ。


「おーい、がきんちょ達!もういいのか?」

 城の外、森との境のほうから男の声が聞こえた。

「さぁ!いこうよ!」

 少女がこちらに手を伸ばした。

 僕はその手を掴んで、二人で男の方へ駆け寄っていく。

 そのはずだったのに、少女は男の横をすり抜けて森の中へと勢いのままに走って行ってしまう。手をつないでいる僕も止まるに止まれず、そのまま引っ張られて森へと突入した。

「おい、待っててやったんだから置いていくなよ」

「あははははっ!やーだよー!」

 置いて行かれた男が後ろから非難の声を上げながら追いかけてくる。だけど、少女は全く意に介さず、というか、逃げるために速度を上げた。

「ねぇ、次はどこに行こっか?」

「どこに行きましょうね。どこにでも行けるんでしょ」

 少女が笑いながら問いかけるものだから、僕の頬も自然と緩んでしまっていた。

「俺は、カジノに行きてぇなあ」

 いつのまにか真横に追いついてきていた男が、自然に会話に混ざってきていた。

「もう!あなたには聞いてない!」

「はあ?保護者役の俺がいるおかげで旅で来てるんだろうが!」

「しらなーい!おいていかれないように気を付けてね!」

 少女は、あはははっと笑い声を上げながらまた速度を上げた。

 相当全力疾走なのか、僕を掴む手は痛いくらいに握られていた。けど、それは嫌な感覚じゃなく、楽しそうな少女の声もあって僕も楽しくなってきてしまっている。


「……なあ、がきんちょ。あれがお前が守ったものだぜ」

 男が僕にだけ聞こえるくらいの声でつぶやいた。

 それでまた視界がにじんできた。

「カジノ、いいじゃないですか!行きましょうよ!!」

 流れそうになった涙は走る風に吹き飛ばされた。

「わかった。じゃあ競争だね!誰が一番にカジノまでつくかな?」

「おい!それは無茶だろ。カジノの街まで何日かかると思ってるんだよ」

 少女の提案に男がまた文句を言い始めた。それも少女は全く意に介さず、走る足も緩める気配はない。

 競争といったはずなのに、少女はつないだ手は離そうとはしなかった。

「いいじゃないですか。どうせ街まで行ったら忘れてますよ」

「絶対、覚えてるもん。けどじゃあ、街に一番についた人が勝ちね!」

「よっしゃ、それなら俺様が一番だ!」

 男が勢いよく前に出た。

「僕たちも負けられませんね」

 つないだ手をぎゅっと握った。それに返すように少女も僕の手を握り返した。

「うん!行こう!」

 そこから僕たちは少女の故郷の街まで全力疾走で帰った。

 結果は男の一人勝ちだったけど、僕たちはみんなで笑っていた。


 ————そんな何気ない。けど、かけがえのない、いつかの日々の記憶。





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 あとがき的なやつです

https://kakuyomu.jp/users/Nun1121/news/16817330655646261741


 修正報告と裏話

 (https://kakuyomu.jp/users/Nun1121/news/16817330665216459594


 サポーター限定ですが、設定資料を公開しています!

https://kakuyomu.jp/users/Nun1121/news/16817330660934587644


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魔女の森 ~僕と少女のたった10日間の旅~ ヌン @Nun1121

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