第7話 筋(すじ)とは

 僕はその前にと正気に戻ってレイニー先生に説明を始めたんだ。


「レイニー先生。僕が図書室で独学で勉強してたのはお伝えしましたよね。その勉強中に僕は気がついたんです。1から10の間に2から9という数があるのなら、0から1の間にも数があるんじゃないかって!」


 僕は【筋力の極意】によって得られた筋の通った話をレイニー先生にしたんだ。

 そう、実際は前世の記憶によって小数点を知っていたんだけど、それをレイニー先生には説明する事が出来ない。ならば納得してくれる筋の通った話をすれば良いんだ。

 僕の説明にレイニー先生が女性とは思えない唸り声を上げたよ。


「グムムグゥ〜…… ピタゴラスッチー教授ばりの天才がまさかここに居たなんて! 素晴らしいわ! スージェくん!! もう少し先生に詳しくその話を聞かせてちょうだい!!」


 興奮しすぎです、レイニー先生。あの父上がドン引きしてます。


「あ〜…… そのだな、レイニー先生よ。スージェの家庭教師の件はどうなのかな?」


 父上はドン引きしながらも本来の目的であった件を先生に確認する。


「何を仰ってるんですか! アベレージ様! スージェくんにはいえ、スージェ先生には家庭教師どころか、これから私に算学を教えて貰わなければならないですからっ!」


 何を馬鹿な事を問いかけてるのかって感じで父上に言うレイニー先生だけど…… 

 えっと先生。それは困ります。僕は少しでも力をつける為に家庭教師は必要ないんだって事を証明する為に先生の試験を受けたんですから。


「何と! 我が息子は算学の申し子とも呼ばれるレイニーにしてここまで言わせるのか!?」


 父上もそこで乗っかっちゃダメですよ。僕は自分を鍛える時間が欲しいのですから。


「あの、父上にレイニー先生……」


わたくしの事はどうか愚かな雌豚とお呼びくださいませ! スージェ大賢者様!!」

  

 いやいや、女性にそれも既婚されててお子さんもいる淑女の方をそんな呼び方出来ませんからね!


 僕はそう思いながらもレイニー先生の言葉を無視して続けた。


「父上、僕に家庭教師は必要がないことをコレで証明出来たと思います。それについては賛同していただけますか?」


 僕の問いかけに父上は力強く頷く。

 

「うむ、まさしく! スージェには算学、語学については家庭教師は必要ないようだ。だが、歴史についてはどうかな?」 


 そう問われたので僕はこの国どころか大陸の歴史をそらんじてみせたんだ。図書室で覚えたからね。それはもう10才から学園で学ぶ歴史を飛び越えて、歴史研究者レベルの筈だよ。


「むむう! 私ではスージェの言ってる歴史が正しいのか分からん!!」

 

 はい、父上。そうですよね。でも安心してください。母上がいます。


「スーちゃん凄いわ! 私の研究書まで読破してくれてるなんて!!」


 そう、ティッツ·ボーンリバーの名は歴史研究者としてこの国では広く名が知られてるんだよ。僕の母上はすごい人なんだ。


「なんと、ティッツの著書を! 5才の子供が!? むむっ! 相分かった、スージェについては家庭教師は必要ない事を認めよう!!」


 ふう〜、コレで当初の目的は果たせたよ。その後、レイニー先生が必死になって僕に算学の授業を〜ってごねてたけど、父上や母上、それに兄様に説得されてその日は帰っていったよ。

 今まで完璧な淑女だったレイニー先生の違う面を見て兄様の恋も冷めたんじゃないかな?


 そして僕は秘密の場所で自問自答している。


「う〜ん、すじってなんだろう……」


 僕は考える。例えば食材として大きな肉の塊があって、食べやすくする為にすじを取り除くよね。って考えると【筋力の極意】によって、僕の脳内と身体にどのすじをどのように切り取ればいいのかが叩き込まれたんだ……


 うん、僕は自分でそんな大きな肉の塊を調理する事がないと思うから……


 また例えばレイニー先生に説明をしたようにすじの通った話をと考えると筋道すじどうという言葉と共に僕の脳内と身体に叩き込まれたんだ。普通は筋道すじみちだよね?


 また更に前世ではそのすじの人って呼ばれる人たちがいたんだけど……

 いや叩き込まなくて良いから!! ダメだって!! いやーっ!?


 こんな感じで僕の脳内と身体にはありとあらゆる【すじ】が叩き込まれてしまったんだよね……


 僕ってこれからどうなるんだろう?


 で、今の僕は何故か兄様、姉様と一緒に剣術の稽古を受けてるんだけど、教えて下さってるのはレイニー先生のご主人であるコウ·ボーンレス騎士爵だ。正統な騎士の剣術を教えて下さってるんだけど、僕から見るとその動きはすじが通ってないっていう型がいくつかあるんだ。

 だって振り下ろした剣を斬り上げずに手元に戻すなんて、振り下ろした剣が相手に当たってなかった時は致命的な動きだと思うんだよね。


 でもこちらは教わる身だから今はグッと我慢して言われた通りに型を繰り返しているんだけど。


 父上には剣術の稽古も必要ないですって伝えたんだけど、貴族の嗜みだからダメだって言われてしまったんだ。


 こうして型を繰り返していたらいつの間にか僕の動きは教えられた型の動きの、筋の通ってない部分を筋の通った動きに変えてしまっていたようなんだ。

 コウ先生が僕の型を注視しているからどうしたんだろうって思ってたんだ。僕は気づいた途端に元の教えられた通りの動きに直そうとしたんだけど。


「あいや、待たれよ、スージェ殿。それがしがお教えした動きではなく、先程までされていた動きを繰り返して頂けるかな?」


 ってコウ先生に言われたから、僕は変えた型の方をやってみたんだ。


「むう、そのほうが良いですな! それではスージェ殿、次の型をお見せしますので、直す所があれば教えて頂けるかな?」


 って、いやコウ先生。教えるのは貴方ですよ。


 とは思ったけど既に先生は型を始めてるから仕方なくしっかりと見て、筋の通ってない動きは変えて僕が型をやっていくというのを最初の型を入れて7つの型でやらされたんだよ。で、先生は兄様と姉様に、


「これより、今までお教えた型はこちらの型に変えます。私の未熟な型を押し付けてしまっていたのをお2人には謝罪いたします」


 頭を下げて僕が変えた型を2人に教え始めたんだ。

 その日の稽古後にコウ先生は父上の元に行って僕に稽古は必要ないって言ってくれたんだよ。

 父上もコウ先生が変えた型を披露して、僕がその動きを編み出したって聞いてからは納得してくれたんだ。

 そして、ボーンリバー家での正式な型としてその7つの型を騎士たちに教えて行くことも決まったんだよ。


 良し! これでまた5才までと同じように秘密の場所で鍛える事が出来るようになったよ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筋を極め筋に生きる しょうわな人 @Chou03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ