第2話 三才だよおっかさん

 僕の名前はスージェ・ボーンリバー。子爵家の次男として生まれた。長男のマッスールは七才。長女のウィズは五才。次女のクレバーは一才だ。


 なんて言ってるけど、そうです! お久しぶりです。骨川筋右衛門こと堀川砂削ほりかわすざくです。ご無沙汰しております。新たな世界に生を受けて三年、無事に記憶が戻りました。これもひとえに皆様のおかげです。


 なんて心の中で言いながらペコリと頭を下げたらウィズ姉様にその頭をはたかれてしまった…… 痛い。


「なにやってるの、スージェ? 新しい遊び?」


 お姉様、頭をはたく前にその質問が欲しいです。


「違います、姉様ねえさま。目に見えない聖霊様たちに今日も無事に過ごせますようにとお祈りしてました」


「ふーん、変なの? それよりもスージェ、遊びましょう! 早速、前にあなたが考えたキントレをやりましょうよ!」


 叡智ウィズという【名前に恥じない脳筋】な姉様によって姉様の部屋で今日も日課である筋トレが始まった。


「先ずは腕立てよ! 目標は今日は三十回ね!」


 姉様、幼い頃から筋肉をつけすぎてしまうと背が伸びませんよ……

 そう考える僕はパパッと手抜き腕立てで三十回を終わらせてしまう。僕の中には【筋力きんりょくの極意】があるから、それが先ずは柔軟が必要だと囁いてくるのだ。だから僕は腕立てをしてる姉様の横で柔軟体操をしていた。姉様ならば直ぐに食いついてくる筈だよ。


「スージェ、何してるの?」


 ほら来た。僕は落ち着いて姉様に説明をしたよ。


「グニュグニュ体操です、姉様」


「グニュグニュ体操? 何その気持ち悪い名前」


 くっ、三才の子供の語彙力で話したのに……


「スライムみたいに体を柔らかくする体操です、姉様」


「えっ、やだ、気持ち悪い!」


 姉様はそう言って僕の頭をはたいた。痛いです、姉様。


「姉様、何を言ってるんですか、固いだけだと人は怪我をしやすくなってしまうんです。だから、柔らかくしなやかにする必要があるんですよ」


 もう、三才の語彙力を超えてしまっているが、ココは大事なトコだからしっかりと伝える。


「えっ! そうなの? 柔らかくないとダメなの? それじゃ私にもグニュグニュ体操を教えてよ!」


 三才の弟のいう事を素直に信じてくれる姉様は本当に可愛いと思います。さすがは叡智ウィズという名前に恥じない脳筋です。


 こうして柔軟体操を筋トレ遊びの最初と最後に行う事になって姉様も僕もしなやかな筋肉を手に入れられるようになる筈だ。姉様は既に魔法の力に目覚めていて、火と土の魔法に適性があるみたいだ。だけど、コレで決定というわけしゃなくて、十五才まではいろいろな可能性が残っているらしい。

 兄様は七才で水と土、癒しの魔法に目覚めている。


 僕? 僕は生活魔法に目覚めたよ。【着火、飲水、土壁、微風、手入、治療、清潔、浄化、暗幕、時計、灯明、地図、収納】と全ての生活魔法を使用出来るんだ。コレはコレで珍しい事らしいんだけどね。それと、やっぱり魔力を増やすのはギリギリまで魔力を使用して寝るのが一番だったよ。

 お陰で僕の魔力は兄様よりも、もちろん姉様よりも多いんだ。



名前:スージェ・ボーンリバー

年齢:三才

性別:男

種族:人族

称号:子爵家次男

祝福:前世の記憶・筋力の極意

位階レベル:1

体力 18 魔力 80

魔法 生活魔法(全)


 ムッフッフッ、三才にして魔力80は凄いんだよ。兄様が魔力48で、姉様が魔力35だからね。

 ああ、ちなみにだけど僕の能力値については他人が見る事が出来るのはレベルと体力と魔力だけなんだ。それも僕が開示って言わないと見えないんだよ。


 祝福が見えなくて助かったよ。僕はそのまま続ける姉様と別れて自分の部屋に戻る事にしたんだ。

 部屋に入ると直ぐに母上の侍女がやって来て母上がお呼びだと言うんだ。アレ? 何だろう? 何かやったかな? そう思ったけど取りあえず呼びにきた侍女と一緒に母上の部屋に向かう。


「母上、お呼びですか?」


 僕は侍女が開けてくれた扉から部屋に入りながらそう問いかけた。


「スーちゃーん! 助けてーー」


 そう言われて見ると母上は化粧台の前で派手にやらかしていた。僕の父上、アベレージ・ボーンリバー子爵夫人である母上の名はティッツ・ボーンリバーだ。


「ハア〜、またですか…… 母上。あれほど侍女にお願いして下さいって言ったのに……」


 母上の顔にはありとあらゆる化粧品がのっていた。口紅は唇を通り越して耳まで(口裂け女か!)伸びてるし、白塗りは歌舞伎役者よりも白くなっているよ。横で侍女が


「私どもにお任せ下さいと申し上げたのですが、奥様がどうしても仰って……」


 と申し訳なさそうに僕に言ってきた。母上は壊滅的に不器用だから化粧は自分でやっちゃダメですよって言ったのになあ。僕は取りあえず母上に向かって生活魔法の浄化をかけてあげた。

 お化け化粧が全て消えたのを確認して母上がニコニコ顔になる。


「有難う、スーちゃん!! 今度は失敗しないからね!」


 僕は慌ててダメ出しをする。


「ダメですよ、母上。侍女に任せるんです。次は浄化をかけませんよ」


 僕が真剣な顔でそう言うとショボーンとする母上。十六才で兄上を産んだ母上はまだ二十代前半だ。子供の僕から見てもとても可愛らしい女性だけど、手指を使っての細かい作業はかなり苦手なようだ。


「でもスーちゃん、侍女が居ない時だってあるし…… 私も自分で出来た方が……」


「母上は化粧なんてしなくても綺麗なんですから、大丈夫ですよ。それに侍女が居ない時なんて無いでしょう?」


 そう、母上の元には常に侍女が居るのだ。居ない時なんて無い筈だ。


「まあ! 何才になったの、スーちゃん! 女性にそんな甘い言葉を言うなんてっ!?」


 食いつくトコが間違ってますよ、侍女が居ない時が無いっていう言葉に反応を期待していたのに。


 それに僕は三才ですよ、母上……


「まあ! まだ三才なのにそんな口説き文句を言うなんて! 旦那様に似たのかしら?」


 父上は母上にしか甘い言葉をささやきませんよ。自分の伴侶を女性を口説きまくっていると勘違いしてるのはダメだと思いますよ、母上。


 それから侍女にも味方をしてもらい、母上の化粧は侍女が必ず行うという事を決定事項とした。


 母上の部屋を出て自室に向かう前に妹の部屋に行ってみたけどどうもお昼寝中らしく会うことは出来なかった。仕方なくそのまま自室に向かおうとしたら、剣術の稽古を終えた兄様と出会った。


「スージェ! 汗いっぱいかいたからお願い!」


 はいはい、兄様。


「浄化! 清潔!」


 浄化で体をきれいにし、汗腺に溜まった汚れも消し去り、清潔で汗を吸い込んだ服もきれいにしてあげた。


「有難う、スージェ。サッパリしたよ!」


 兄様は本当に頑張っているんだ。姉様と違って運動は苦手だけど、子爵家嫡男として苦手な運動も率先して取り組んでいる。魔法の方が得意なんだけどね。


「兄様、お疲れ様です。今日のお稽古はどうでしたか?」


「うん、今日は先生に褒めていただけたよ。スージェも五才になったら一緒に稽古だね」


 そう、五才になったら僕も剣術の稽古が始まる。姉様は稽古を受けたいけど、女の子だからって受けられないのを怒っている…… 何とか父上を説得しろって僕に言うのはやめて欲しいんだけど、説得しないと延々と言われそうなんだよね。今晩の食事の時にでも父上とお話してみよう。


「兄様、姉様も剣術のお稽古をしたいそうなんですよ。兄様からも父上にそう言ってもらえますか?」


「アハハ、そうだね。ウィズが僕のところに来てそう言ってたから。分かった、僕からも父上に話してみるよ」


 本当に兄様は優しい人だ。今日の夕食の時に父上と話をしようって決めて僕は自室に戻ったんだ。


 優しい家族に恵まれて今世の僕は本当に幸せです。

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