筋を極め筋に生きる

しょうわな人

第1話 骨川筋右衛門、転生す 

 僕の名前は堀川砂削ほりかわすざく。今は高校二年生だ。

 身長百七十八センチ、体重四十二キロ……


 ついたあだ名は骨川筋右衛門ほねかわすじえもん……


 僕はどれだけ肉を食べても、食べても、食べても、食べても太らないんだ。

 女子からは羨ましいなんて言われるけど、僕にしてみたら食べたらちゃんと肉になる方が羨ましいよ。

 ヒョロガリだからか不良ワルの生徒たちから目をつけられて恐喝されたり、下級生からも先輩として見てもらえなかったり……


 まあ、恐喝してきた不良ワルの生徒は返り討ちにしてるから良いんだけどね。


 僕の趣味はきんトレだ。トレーニングで少しでも筋肉が太ればこのガリ体型もマシになるだろうと期待してるんだけど、プロテインも併用してるのに一向に筋肉が太る気配もない。

 それでもトレーニングの成果としては、バーベルは六十キロを五十回は上げ下げ出来る。腹筋は百五十回は余裕だよ。

 そうなんだよ、見た目と違って力はちゃんとついてるんだ。そこが自分でも不思議なんだけどね……


 そんなある日の事……


「キャーッ!!」


 女性の悲鳴が後ろから聞こえたから振り向いて見るとベビーカーを押した女性に包丁を持ったオッサンが襲い掛かろうとしていたんだ。

 僕は五十メートル五秒台の俊足を活かしてオッサンとベビーカーの間に割り込んで、包丁を持った手をはたいた。オッサンの手から包丁が飛び、そのすきに女性に声をかけた。


「今の内に逃げて下さい!」


 僕の言葉に反応して女性はベビーカーから赤ちゃんを抱えて逃げ出す。そして、僕がオッサンの方を向いた時には遅かった。


 オッサンの手には新たな包丁があって、それが僕の胸に突きたち、さらに引き抜かれお腹に刺さる。

 痛いーっ!! けど、オッサンがこれ以上暴れないようにと僕も気力をふり絞って腹筋に力を入れて包丁を抜けなくさせ、オッサンの手を両手で握りしめ、思いっきり力を入れて骨を折ってやった。


「グギャーッ! う、腕、腕がーっ!! な、何てことをしやがる! この餓鬼がっ!!」


 オッサンが折れてない方の手で僕のお腹に刺さったままの包丁を抜いて、僕を滅多刺しにする。薄れゆく意識の中で、お巡りさんが見えた僕は安堵の笑みを浮かべたまま意識を手放した。赤ちゃんとお母さんを助ける事が出来て良かったな……



 

『ホーイ、骨川筋右衛門くんやーい! そろそろ起きんかのー?』


 ノンビリとした声にますます眠たくなる僕だけど、どうにか起きてみた。


『ホイホイ、やっと起きたかい。君が死んでから五十秒も待ったぞい』


 いや、五十秒ぐらい待って欲しいなぁ…… って、聞捨てならない言葉が聞こえたような? 僕が死んでから?


『そうじゃよ、君が死んでからじゃよ』


 あっさりと認められたよ。そうか、僕は死んだのか。なのに何で意識があるんだろう?


『ワシが呼んだからじゃよ。骨川筋右衛門くん』


 僕の名前は堀川砂削ほりかわすざくで骨川筋右衛門では無いのですけど…… って僕も意外と冷静だな。


『まあのう、魂だけになっておるからのう。それがきみ本来の性質じゃよ。骨川筋右衛門くん』


 あくまで僕は骨川筋右衛門なんですね……


『そうじゃよ。それでは忙しいから本題に入ろうかの。ここから見ていたら君の取った行動は素晴らしいものじゃと思ったワシは、ちぃとばかし力があるもんじゃから、君を呼び出した訳なんじゃ。それでじゃな、骨川筋右衛門くん』


 はい! ゴクリ!


『君、違う世界に転生してみんか? 嫌なら嫌で輪廻の輪に戻してやるがの』


 おお! 転生! 両親も居ないし、恋人もいないし、天涯孤独だったから違う世界では家族が居たらいいなぁなんて思うのですが。


『おう、そうじゃったな。施設でも無視されておったしな。対外的に仕方なく高校までは面倒を見ておってくれるようじゃったが……』


 そうなんですよ〜。だから家族が欲しいなぁ、なんて…… ダメですかね? チラッ!


『フォッフォッフォッ、もちろん次の世界では家族が居るぞ。三才で記憶が戻るようにしてやろう。その方が便利じゃろ? それで、何か一つ能力をやるが、欲しい能力などあるかの?』


 おお! チートですか? チートですね! そうだなぁ…… 何がいいかなあ? あっ、魔法とかってあるんですか?


『うむ、剣と魔法の世界ではあるな。じゃが、あちらに転生したら魔力が芽生えて自然と適性ある魔法は使用できるようになるぞ。じゃから魔法系は必要ないと思うがのう』


 そうか、魔法は適性があるのが自然に使用できるようになるのか。それなら剣か、剣だな!


『剣は生まれ持った才能が幅を効かせるからのう…… 転生した骨川筋右衛門くんが剣の才能を持っているかどうかはワシにも分からんぞ』


 な、何だって! 男子のロマン、剣と魔法のチートは難しいって事か…… あ、そう言えばコレも確認しておこう。

 レベルとか、ステータスがあって、現地の人はその確認ができるんですか?


『おう、出来るぞい。そういう世界観になっておるからのう』


 そうか、出来るのか。僕だけ分かる系のチートもコレで潰れたか……

 うーん、どうする…… ハッ、そうだ!

 

 この体(今は体は無いけど)は鍛えても鍛えても筋肉がつかずに、あだ名の通りに僕は骨川筋右衛門状態だったんですけど、次の人生せいではそんな事が無いようにして貰えませんか?


『おう、そうか。そうじゃのう。確かにのう。それじゃ、骨川筋右衛門くんにはコレを送ってやろう。【筋力の極意】じゃ! コレは筋を理解し、効率的に鍛える事が出来るのじゃ。鍛える努力は必要じゃが、中々の能力じゃと思うぞい』


 (会話してるようになってるけど、実際には僕の頭の中に目の前の力あるお爺さんの言葉が文字として現れているんだ。だから、僕は【筋力きんりょくの極意】だと思ってたんだけど……)


 分かりました、それでお願いします。それで、僕が転生する世界は何ていう世界なんでしょうか?


『うむ、創世世界【チラリズム】じゃ!! 楽しんで生きてくれい! さらばじゃーーーっ!』


 何か異世界の名前がアレなんですけどーーーっ!?

 

  

 

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