第6話 筋力は筋肉に非ず

 僕は五才になった。

 

 結局、あの【筋力の極意】の教えの真意は未だに理解できてないんだけどね。


 そして今の僕は算学の試験を受けているんだ。父上と母上に算学の勉強は必要ないですって言ったんだけど、それを証明してみせろって父上から言われたからね。


 レイニー先生の作った加減乗除の問題をスラスラと解いてるところなんだ。レイニー先生がそれを見ながら驚いているよ。


「な、なんで五才で解けるの!?」


 僕が三桁の足し算、引き算、二桁の掛け算、割り算を解いてる事にレイニー先生がそう声を出すけど、何ならもっと桁数が多くても大丈夫ですって言いそうになったよ。


「ちょ、ちょっと待って、スージェくん!」


 スラスラと問題を解いていよいよ最後の問題をって時にレイニー先生に止められてしまったよ。


「何でしょう、先生?」


 僕がそう聞くとレイニー先生が


「スージェくんはいったいどこで算学の勉強を習ったの?」


 って聞いてきたから家の図書室で本を読んで自分で勉強しましたって答えたんだ。


「まさかの独学…… スージェくん、これは分かるかな?」


 そう言ってレイニー先生が最後の問題の下に、【28+64÷2-30=】こんな問題を書いてきたからついでに最後の問題を解いてからレイニー先生が書いた問題も解いたんだ。


 【28+64÷2-30= 30】


 僕の書いた解答を見たレイニー先生が固まる。そしてブツブツと独り言を言い出したんだ。


「可怪しい、おかしいわっ。この問題は学園に通いだして半年した子たちが学ぶ問題なのに…… 五才のスージェくんがどうして分かるのかしら? いいえ、これはたまたま答えが合っただけかも知れないわね…… そうよ、それじゃマッスールくんに出すはずだった問題集をさせてみましょう。それでたまたまだったと証明できる筈よ!!」


 最後の【証明できる筈よ!!】は力強く言うレイニー先生。いや、あの、この程度なら簡単過ぎて逆にニアミスをしそうなほどなんですけど……


 そんな僕の内心を知らずにレイニー先生がカバンから問題集を取り出して、1枚の問題を選んで僕に差し出してきた。


「フフフ、スージェくん。いくら貴方でもこれは解けないわ! さあ、解けるものなら解いて御覧なさいっ!!」


 な、なんかレイニー先生の目が狂気じみてる気がするんですけど…… 目的が変わってしまってるよね。僕が算学についてや文法などの家庭教師は必要ない事の証明をしてる筈なのに、何故か僕が解けない事を証明しようとするレイニー先生……


 僕は差し出された問題をチラッと見てみた。


1.(126÷6)×(32+8)=

2.65-5×3-2=

3.355÷5+555=

4.1,080÷2-300=

5.8,205÷2+10=


この5問だったけど、マッスール兄様は小数点まで進んでるんだね。僕はちょっと感心してしまったよ。学園に入学するのは10才からだけど、兄様は9才にして、入学してから半年以上たってから学ぶはずの算学に進んでるなんてやっぱり頭が良いんだと分かった。


 そう思った僕は何の疑問もなく答えを書いていく。そして、問題が起こったんだ。

 いや、起こってしまった……


 5問目の答えを見たレイニー先生が叫び声を出したからなんだけどね……


【8,205÷2+10=4,112.5】


 答え、合ってるよね?


「ウソ! ウソよーっ!? 何で、どうしてなのっ? 今年に入ってから発見された1以下の数値を表す事を、図書室で勉強しただけのスージェくんがどうしてっ!!! ウソよーっ!!!」


 レイニー先生の叫び声が屋敷を駆け巡ったみたい。バタバタと足音がしたかと思うと父上、兄様、姉様が、少し遅れて母上と妹が部屋にやって来たんだ。


「何事だ、レイニー先生。大きな叫び声が聞こえたが?」


 父上の落ち着いた問いかけに取り乱していたレイニー先生がハッとして落ち着きを取り戻した。さすが、父上だね。


「申し訳ありません、アベレージ様…… どうしても解けない筈の問題をスージェくんが解いてしまったので取り乱してしまいました。もう、落ち着きました。それで、これからスージェくんに聞きたい事がございます。よろしいでしょうか?」


「うむ、どうしても解けない筈の問題とは何だね?」


「はい、こちらの問題を御覧下さい。今年に入ってから算学の研究者で権威でもある、ピタゴラスッチー教授が発表された1以下の数値の計算及び表記をなぜスージェくんが知っているのかを私は教授の弟子として確認しなくてはなりません!」


 そう言って5問目の問題を父上やみんなに見せるレイニー先生。

 こ、困ったぞ。まさか、小数点の発見が今年に入ってからだなんて思わなかったから…… つい前世の通りに解答したんだけど。何とか筋道をたてて話をしないとって考えてた時に、僕の脳裏に最適解が浮かび、そして、


筋力すじちから筋肉きんにくあらず』

 

 この言葉の意味が理解出来たんだ!


 そうか、僕は筋力きんりょくって読んでたんだけど、筋力すじちからって読むのが正しかったんだ!!

 えっ、ちょっと待って……

 

 すじっていう事は…… 物事には色々なすじがあるけど、そのちからの極意を得られるって事なの!? 


 この世界につけたネーミングセンスはイマイチな創世神様だったけど、くれた祝福は凄すぎじゃないかな!?


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