第4話 武術の秘密特訓

 僕は取り敢えず庭師の元に向かう。

 

 庭師のボブは庭に生えている木を全て知っているからね。


「ボブ、教えて欲しい事があるんだ」


「こりゃあスー坊っちゃん。アッシで分かると良いんですがねぇ」


 ボブはいつもこんな感じだけど植物についての知識は誰よりも豊富なんだよ。


「うん、ボブなら大丈夫。うちの庭で一番固くてそれでいてしなやかな木ってどれかな?」


「ほうほう、面白い事を聞きやすねぇスー坊っちゃん。固くしなやかですかい…… それならカッシーナの樹でしょうなぁ。どんなに曲げても折れないカッシーナですがただ柔らかいだけじゃなくてみっしりと詰まっておりやすから固いです。乾燥させてもその性質は変わりやせんし」


 凄い! そんな木があるんだ! まさに理想の木だね。


「今ってその枝で乾燥してるのってあるかな?」


「ごぜぇやすよ。スー坊っちゃん。何にお使いになるんで?」


「フフフ、ボブなら良いかな。秘密にしててね、僕の武術の鍛錬の為の道具を作ろうと思ってるんだ」


「ほうほう! まだ三才なのに武術の鍛錬ですかい! そりゃ凄い。形を教えて下さればアッシが加工しやすぜ」


 ボブの言葉に僕は有難うとお礼を言って木刀を作って貰う事にしたんだ。数は五本。何で五本かって? 体の成長に合わせて長さを変えたいからだよ。

 

「なるほど、刀っていうんですかい。変わった形ですがちゃんと作って見せますぜい。出来た木刀には腐り防止の塗料を塗っておきやす。この一番短いのを先に作れば良いんですね? スー坊っちゃん、それなら明日までに作っておきやすよ。他の四本はボチボチと作らせていただきやすね」


「うん、よろしくね、ボブ。明日、また来るよ」


 これで木刀の目処はたったから次に僕は秘密に特訓出来る場所を探す。


 だって僕だけの武術だからね。門外不出だよ! 男の子なら憧れるよね、秘伝とか奥義とか!!

 絶対に今世では僕の武術を完成させるんだ。


 場所を探すこと二十五分後、遂に僕は見つけたよ。


「うん、ここなら家族も来ないし使用人も来ない筈だよ」


 その場所は屋敷の建つ敷地内ではあるけれど、外れも外れ、屋敷からだと歩いて十分もかかる場所なんだ。以前はここにペットとして飼っていた魔犬の小屋があったらしいけど、父上が魔犬の護衛など我が家には必要ないって言って小屋ごと親戚の貴族にあげたらしい。

 それ以来この場所には誰も来なくなった筈だ。


 こうして場所も見つけた僕はウキウキワクワクしながら屋敷へと戻ったんだ。

 で、今は姉様に捕まってます……


「スージェ〜、兄様に負けた〜…… 悔しい〜!!」


 いえ、姉様。そりゃあいくら兄様が運動系が苦手と言っても姉様よりも長く剣術を学んでいるんですから負けて当たり前でしょう? そんなに悔しがる事ではない気がするのですが。


「だからスージェ!! 強くなる体操を考えて!!」


「いや、姉様、無理です」


 僕の返事に姉様が僕の頭をはたく。痛いです、姉様……


「無理じゃないもん! スージェなら考えてくれるもん!!」


 駄々っ子姉様の降臨です。ちょっと可愛らしいです。


「良いですか、姉様。強くなる体操をしても直ぐに兄様に勝てるようになるわけじゃないんです。毎日、毎日ちゃんと繰り返して体に少しずつ力をつけて行くことが大切なんです。だからグニャグニャ体操や筋トレをやりましょう! それが遠いようで近道なんですよ!」


 僕がそう言うと姉様は分かったと素直に言ってくれます。そしてグニャグニャ体操(柔軟体操)をさっそく始めています。

 うんうん、姉様、頑張って下さいね。


 それから翌朝、僕は待ちきれなくなってボブに会いに行く。駆け足で向かうと僕に気がついたボブが手を振って待ってくれていた。


「おはようございます、スー坊っちゃん。ちゃんと出来てやすぜ」


「おはよう! ボブ! 見せてっ!!」


 僕がそう言うとボブは後ろ手に隠していた左手を出した。その手にはツヤツヤと黒光りしてる今の僕にちょうど良い長さの木刀が握られていたんだ。


「凄いよ!! ボブ!! 僕が思ってた以上の出来栄えだよ!!」


「へへへっ、スー坊っちゃんに褒められると嬉しいねぇ。こいつは腐敗防止塗料の中でも一番効果の高いヤツを塗っておりやす。なのでちょっぴり黒くなっちまいましたが、それも気に入って下さったようで良かったです。あと拙いアッシの魔法でございやすが、不壊こわれずの魔法をかけてありやす。岩なんかを間違えて叩いても折れたりしやせんので存分に鍛錬に使ってやってくだせぇ」


 ボブの言葉に僕は感動したよ。実際にこの木刀で岩をも断つ事が出来るようになるのが目標でもあったからね。


「ボブ、本当に有難う。父上に言って特別給金を出して貰うようにするよ!!」


「いやいや、スー坊っちゃん。そんな事はしねぇでくだせぇ。アッシは楽しみなんですよ。スー坊っちゃんがどこまで強くなるのか。なので鍛錬の成果が現れたらアッシに見せて教えてくだせぇ」


「うん! ボブ、約束するよ!!」


 僕はボブと約束して昨日見つけた秘密の特訓場所に向かった。手にしっかりとボブが作ってくれた木刀を握って。


 特訓場所に着いた僕は先ずはグニャグニャ体操から始める。何事もいきなりはダメだからね。ちゃんと体をほぐしてから運動しないとね。

 勿論だけど実戦の時はそんな暇はないだろうけど、今は特訓の時間だからね。

 それからランニングで1キロを走り、その場で腕立てを50回、腹筋も50回、スクワットは20回して、またランニングに戻る。


 それを3セットしてから僕は木刀を手にして少し荒くなった息を整えながら青眼に構えて心を落ち着かせる。


 息も心も落ち着いたら、静かにぶれない様にゆっくりと木刀を振っていく。木刀がぶれない事を確認しながら振る速度を段々と速めていく。


 これは前世の僕が考えた基本の動作だ。これがちゃんと出来るようになるまで前世では3ヶ月もかかったんだよ。

 その基本動作を終えたら次は型をやって行く。

 

 一ノ型は青眼からの斬り下ろしからの斬り上げだ。これを一瞬でその二つの動作が出来る様になるまで繰り返す。


 でも…… やっぱりだけど今の三才の僕では無理みたいだ。それでも諦める事なく一ノ型を続ける僕。

 その日は出来ることは無かったけれども手応えは感じているから、これから毎日この特訓場で木刀を振り続ける事にするよ。


 先ずは一ノ型を完全に出来るようになるまでは基本動作までの運動と一ノ型の繰り返しだね。


 こうして僕の秘密特訓は始まったんだ。

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