あるアイテムを4か国語で。そしてSky High。

(前回までのあらすじ)


 21世紀の知識を持ったまま戦国時代の美濃に生きている土岐サブロウ頼芸よりのり、稲葉ヨシノ、瀬田チカ、山本カズマの四人組。


 四人だけでスキーで遊んだことがバレて、家臣から、うらやましがられてしまった。


 そこで、皆のレクリエーションとしてそり競技、暴武走嶺ボブスレーの大会を開催することにした。字面から薄々読みとれるがそり競技とは名ばかりだ。雪玉をぶつけあったり、歴史的な兜を再現したレプリカで△▷キングのようにどつきあうという日本各地の学芸員が聞いたら卒倒しそうな攻撃をしながら、くの字を繰り返す道筋を外れず、ゲレンデ上の出発地点からふもとの目的地まで滑りおりる速さを競うサブロウ考案の雪上の格闘技だ!


 前回は2試合行われてプロペラ兜チームと強育連蛇スネイクレンジャーチームが勝利をおさめている。



 *    *   *   *   *


「さあ、果たして需要があるのかどうか読者のニーズを置き去りにして作者の欲望のまま滑りまくるこの作品、『土岐の殿さまのボブスレー』。実況担当は、前回同様、あたし瀬田チカが。解説は土岐サブロウ師匠。ゲストは稲葉ヨシノさんと一試合終えて戻ってきた山本カズマ選手でお送りします」


「「「どうも~」」」


「第三試合の前にご覧いただきたいものがこちら。ジャジャーン。あたしたちもかわいい形兜なりかぶとを用意して被ることにしました!」


 そこでそれぞれ用意した兜をかぶる。


「ヨシノさんのはやっぱりかわいいわね」


「チカさんのだって」


「それにくらべて男性陣のはちょっと何と言ったらいいか。ねえ」


「生き物系の面白い形の形兜なりかぶとなんですけど、こうして並ぶとなぜか引きますね。どうしてだろう?」


「センセ!ボクのこと嫌いなんすか!なんやら非常に悪意を感じるんやけど」


「大丈夫だカズマ。お前ひとりをさらし者にはせん!俺たちはお笑い仲間じゃないか!」


「いや、そうなんすけどね。でも一言だけ言わせて。センセ、あほやろ」


「まあまあまあ。とりあえず、読者の方に少しでもわかるように一人ずつ説明していくわよ。ヨシノさんのは、やはりウサギがモチーフですね」


「はい!稲葉家はウサギさんチームですから。土佐藩第四代藩主の山内豊昌所用の『兎耳形兜うさぎみみなりかぶと』のレプリカです。丸っこくて横に曲がったウサ耳が特徴です。高知城歴史博物館のゆるキャラ『やまぴょん』もかぶっているんです」


「うおおお、ヨシノぉ、かわいいぞお!」


「サブロウ先生、ありがとうございます!」


「続いてはあたしの兜。見ての通り兜の横から上に向かって生えている大きなネコ耳が特徴です。個人的にはもうちょっと小さいトラっぽい方が好みですが、同じネコ科だしネコ耳もまた良いです」


「チカさんのネコ耳兜もかわいい!」


「せやな。チカぁごっつ似合におうとるで!でも、センセ。ホンマにこんな形の兜あったん?」


「この兜は実在する。徳川家康より家臣の松平勘四郎信一のぶかずが拝領したものだそうだ」


「さっきの山内豊昌といい、この松平信一といい、正直言ってあんまり知らない人よね」


「そりゃあ謙信や家康と比べちゃ、みんなマイナーだよ。松平信一は、徳川と織田が同盟する以前から家康を助けて、尾張品野城攻めや三河一向一揆の鎮圧、対六角氏での箕作城攻めでも活躍している。長篠の戦いにも参戦し、関ケ原の戦いの際も江戸崎で佐竹氏義宣に備えていた。その功で出世して常陸国ひたちのくに土浦藩の初代藩主になった」


「へえ、けっこう活躍してはったんやなあ」


「ただし、残念なことが二つある。この兜の正式名称が不明なことと、実はネコ耳じゃなくてミミズクを模したデザインらしいことだ。だから俺はこの兜を『猫耳擬木菟ねこみみもどきみみずく形兜なりかぶと(仮称)』と呼んでいる」


「ミミズクだったかぁ~、ちょっと残念。ところでサブロウ師匠のその兜は?」


「これは見ての通り全体でトンボの形をしている。『蜻蛉形兜とんぼなりかぶと』だ。兜の前面の黄金色に輝く大きな眼がまるで仮面ラ◁ダーみたいでカッコいいだろう?ちゃんとトンボの四枚羽根もついてる」


「カッコいいといえばカッコいいんですけど、どこか違和感が……」


「羽を除いた全体のフォルムがなんとなくsopapaソパーパに似ているからよ。そしてカズマと並ぶとなおさら」


sopapaソパーパ?」


「スペイン語ではsopapaソパーパだったり、desatascadorデサタスカドールなのよ。英語だとたしかplundgerプランジャー。でもど忘れしちゃって日本語の名前が出てこないの。あれなんて言うのだったかしら」


「なにかなあ?」


「じゃあ、日本語を思い出したら教えてくれ」


「押忍。最後はカズマのね」


「押忍。ボクのは江戸時代の兜『鉄錆地栄螺形兜てつさびじさざえなりかぶと』のレプリカです。徳川御三卿ごさんきょうの田安家に伝わるものなんやって」


「正解。完璧だぞ、カズマ」


「せやけど、なんでこの兜やねん!サザエなら別にコレやなくても、東京国立博物館所蔵の安土桃山時代の金ぴかの『栄螺形兜さざえなりかぶと』でもええやん!なんでよりによってこっちなん!」


「なにか不満か、カズマ?」


「大ありや!なんでこんな色のこんな形の兜選ぶねん。もうこれ完全にとぐろ巻いたウ▷コやん!」


「それはほら、前回金兵衛のかぶった『黒漆塗飛雲脇立付唐冠形兜くろうるしぬりひうんわきだてつきとうかんなりかぶと』の飛雲という大きな雲形の飾りをとぐろを巻き損なったウ▷コなどと失礼なことを言ったからだな。こっちはちゃんととぐろを巻いたので満足であろう」


「そんな問題とちゃうわ!センセかて相当失礼なことを考えているやないけ!」


「だから、反省して俺はこれをかぶっておる」


「あー!わたし、チカさんの言いたいことわかった。ポルトガル語のdesentupidorデゼントペドールでしょ!トイレが詰まったときに使う『トイレのスッポン』」


「そうそれ、『トイレのスッポン』よ!」


「せや、ヒトにウン▢みたいな兜かぶせておいてその横でその『トイレのスッポン』みたいな兜かぶっとったらますますこっちの兜がウン▢に見えるやないけ!」


「それは違うぞカズマ!ヨシノもチカもよく聞くんだ!」


「なんやて?」


「なんですか?」


「なにかしら?」


「『トイレのスッポン』は正式な名前と違う。正しくは『ラバーカップ』だ。ただしこれはどこぞの会社の商品名で商標登録していないものが一般名詞化したものだ。もっと中立的になら『通水カップ』という言い方もあるぞ」


「「へえ、そうなんだ!」」


「アホか!問題はソコとちゃうわ!」


 カズマは前からサブロウの首を抱え込むと、サブロウのわきの下をくぐり、腰のあたりの服をつかむと一気に持ち上げてサブロウの身体を自分の肩の上で倒立させる姿勢になった。


「おおっと!カズマ選手サブロウ選手を高々と逆さま担ぎ上げた!」


「ヒトにウ▷コの被り物さすなあ!」


 そのままカズマが真後ろに倒れる。


「ぐへえっ!」


「これはカズマ選手のブレーンバスターが炸裂したあ!」


 ある意味最もポピュラーなプロレス技の一つである。なお、雪上であるから全然痛くはない。


「もう一発や!」


「甘い!」


 サブロウは捕まえようと迫るカズマの腕を引っかけると下から腕をカズマの首に巻いて、逆上がりのように飛び上がり、回転した勢いのままカズマの後頭部を下に叩きつける。ウ▷コもといサザエの形の兜が雪に埋まる


「ぶほおっ!」


「「デスティーノだ!」」


 新日本プロレスの内藤哲也の決め技である。なお、雪の上だから全然痛くない。


「「うおおおおおお!」」


 お互いに距離をとった二人は雪玉をぶつけだして、とうとう雪合戦を始めてしまった。


「仕方ないわね。バカな男子は放っておいて試合の実況を始めましょう。ヨシノさん、そこらへんにサブロウ師匠のカンペがあるからそれ見て解説をお願い」


「了解です!」


「さあ、第3試合です。忍びの佐助選手と段蔵選手組、大桑おおが忍者組がなぜか黒いマントをまとって入場です。しかし、この佐助選手の兜これはなんという長さででしょうか!一人人間山脈だああ!」


「資料によりますと前田利長の『銀鯰尾形兜ぎんなまずおなりかぶと』のレプリカだそうです。長さはなんと127.5センチ。本大会出場者のなかでも最長でしょう」


「あそこまで長いと空気抵抗のことなんて考えてないわよねえ。相方の段蔵選手もまた変わった形の兜ですね。黒い兜の側面に大きな黒い斧がにょきっと生えているような独特なデザインです」


「あれは上杉謙信所用の『鉄三枚張峯界形張懸兜てつさんまいばりほうかいなりはりかけかぶと』のレプリカです。やはり上杉謙信、あまりウサギにはこだわっていないようですね。チカさん、サブロウ先生の字でメモにイカルス星人と書いてありますがなんのことでしょう」


「さあ?」


「あれ、サブロウ先生が『忍者組には秘策あり!』と花丸でメモしてあります」


「どんな秘策なのか楽しみですね。対するは森小太郎選手と岩手彦七郎選手組です。小太郎選手の兜はまるでピュアなユニコーンのような巨大な一本角だ!」


「森小太郎選手の兜は史実では織田信長に仕えた森可成よしなりが所用した『銀箔押大釘頭立付頭形兜ぎんぱくおしおおくぎずたてつきずなりかぶと』です。森長可ながよしや森蘭丸の父親に当たる方だそうです。そしてもう一つ!」


「なんですか、ヨシノさん」


「たしか森小太郎さんって史実では森可成よしなりの父親ですよね」


「おお、そうです。一本気な森一族。まっすぐ伸びた大釘の兜はまさに森一族にふさわしい兜と言えるでしょう。そして岩手彦七郎選手の兜はこれはおどろおどろしい。額の部分にはなぜか水牛のような二本角をはやした獅子の顔が。そして頭頂近くの左右側面からはどす黒いオーラを感じさせる禍々しい漆黒の極太の角が生えております!彦七郎選手はダークサイドに堕ちたのかあ!」


「彦七郎選手の兜はあの戦国最強ともいわれる本多忠勝所用の『黒漆塗十二枚筋兜くろうるしぬりじゅうにまいすじかぶと』です。鹿の角を模したといいますが見る者によっては二本の暗黒の炎の柱に見えるとも」


「厨二病の人にはたまらないロマンあふれる兜ですね。ちなみにヨシノさんには何に見えますか」


「カニの爪に見えますね」


「ヨシノさんお腹がすきましたね?」


「はい、実はお腹がすきました!でもがんばって真面目に解説すると小太郎・彦七郎 の厨二病組はこの角を攻撃に使えば忍者組よりも有利になりそうです」


「さあ、果たしてうまくいくかどうか。両組とも位置につきました。忍者組はなんと『銀鯰尾形兜ぎんなまずおなりかぶと』の佐助選手が前、『鉄三枚張峯界形張懸兜てつさんまいばりほうかいなりはりかけかぶと』の段蔵選手が後ろ。これは空気抵抗を考えると掟破りの逆ポジションだあ!」


「小太郎・彦七郎の厨二病組は順当に、普通に兜の高さも含めた背の順で暗黒の炎ダークフレイムの彦七郎選手が前、ユニコーンの小太郎選手が後ろですね」


「おおっとスタート直前に佐助選手が立ち上がってなにかアピールをするようです!」


何人なんぴとたりともオラの前は走らせねえええええ!」


「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」


「なんと、あの大人しい佐助選手の勝利予告だああ!」


「佐助選手は大桑忍者でも一番の俊足。自分のスピードには人一倍プライドを持っています」


「単なるスピード狂の暴走忍者の疑惑も生まれたところで間もなく開始です」


「始め!」


「「うおおおおおおおおお!」」


 後衛の段蔵と小太郎が力いっぱいそりを押して飛び乗った。


「「「「「「おおおおおおおおお、なんだあの姿勢は!!!!!!」」」」」」


「おおっとお!忍者組後衛の段蔵選手は普通にまっすぐ仰向けな姿勢なのに、前衛佐助選手はなんと頭を前方に向けて腹ばいになり段蔵選手の上にまたがった。これは腐女子の皆さんへのご褒美タイムかあ!」


「チカさん、違います。佐助選手のあれはそり競技の別種目、スケルトンの姿勢です。非常にスピードが出る姿勢です!」


「おお、そうだったのですね!」


「それだけではありません。あの長い兜を前に向けることによって空気抵抗を最小限にしています。そう、あれは最新式の新幹線のロングノーズと同じ効果になっています!そして、段蔵さんの兜は尾翼の役割です。二人が合体することであのそりは雪上をう巡航ミサイルになっています!」


「なんなんだあいつらは!くっそ速くてちっとも追いつけやしねえ!」


「彦七郎落ち着け!勝機はまだある!」


「これは間違いなくサブロウ師匠の禁断の入れ知恵だあ!」


 21世紀のの流体力学や航空力学すら応用した忍者組はどんどんスピードをあり得ないレベルまで上げていく。


「ロングノーズの新幹線と言えばE5系か?ALFA-Xか?それに尾翼まで取り付けた恐るべき忍者組!スピードにすべてを賭けて武力を放棄したその姿は、ガンジーもびっくりの雪上の非暴力主義者だ!これはもう一方的。ぐんぐん小太郎・彦七郎組を引き離す。小太郎・彦七郎組はもう完全になす術がない!これは忍者組の勝利確定か!」


「まだわかりませんよ!小太郎・彦七郎組にもチャンスはあります!」


「どういうことでしょうか、解説のヨシノさん」


「忍者組はスピードが出すぎています。とても危険な状態です。このままでは最後のカーブを曲がり切れずにコースアウトしてしまいます。そうしたら小太郎・彦七郎組は完走するだけで勝利を手にできます」


「なんということでしょう!そんな盲点があったとは、速すぎるがゆえの悲劇が待ちかまえているぞ!忍者組は大丈夫かあ!」


「はーはっはっは。オラたちが最速だあ!」


「佐助、佐助!速度を落とせ!このままじゃ最後の角で道筋を外れて失格になっちまう!」


「そりゃあ無理だべ。ここまで加速がついたらもう引き返せねえ」


「たしかにこいつぁ、間に合わねえな。佐助、道筋を外れるときにやることはわかってんな」


「おう。外側の兜と外套マントを脱いで手足を広げるんだべ?」


「サブロウさまから教えていただいた魔法の呪文も覚えてるな!」


「もちろん!」


「よしいくぞ。せえの」


 高速で滑りおりるそりがついにコースの壁に激突する。


「「亜衣喚風来アイキャンフライ(=I can fly)!!」」


「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」


「飛んだああああああああ!コースの壁に激突、大破したそりから佐助と段蔵二人の忍者が投げ出されたが、なんと二人はマントの下にウイングスーツ、別名ムササビスーツを着用していた!それをまるでヒトデのように広げていま、戦国美濃の空を二人の忍者が華麗に滑空している!これは伝説になるぞお!わたしたちはみな人類の歴史的瞬間の目撃者だああ!小太郎・彦七郎組も呆然と忍者たちが舞う空を見ている!」


「おお、うまくいったようだなあ」


 雪合戦に飽きたサブロウとカズマも戻ってきて忍者組の滑空を眺めている。


「まさかそり競技をジャンプ競技にしてしまうだなんて聞いてないわよ!」


「サプライズだ。サプライズ」


「サブロウ先生!先生たちはこっそりウイングスーツ開発してたんですね」


「おう。我が美濃大桑おおがの科学力はぁぁぁぁ、世界一ぃぃぃぃ!」


「「おおおおおおおおお!!」」


「あの二人には世話になってるからなあ。これで世界で初めて滑空した人間として歴史に名を残せる。これはとてつもない名誉である」


「せやなあ。事前に少しばかり練習しとったけど、ほぼぶっつけ本番やからやっぱ忍者ってたいしたもんやわ!これであの二人はホンマモンの『とび加藤』と『猿飛佐助』になれたんやなあ」


 サブロウとカズマは感慨深げに飛び去る二人を見つめている。 


「サブロウ先生、わたしたちの分は?」


「あの二人を回収してもうちょっと改良してからだな。ヨシノ、チカ、世界で一番最初に滑空した女性として歴史に名を残したいかああああああ!」


「「おおおおおおおおお!!」」


「よっしゃあ、任せとけ!」


「それはそうとこの勝負どうなったん?」


「おおっと。いまやっと小太郎・彦七郎厨二病組がゴールイン!」


「佐助さんと段蔵さんは?」


「コースアウトで失格ね」


「じゃあ、この第三試合の勝者は小太郎・彦七郎厨二病組や!」


「そんなあ!」


「いいんだよ。あの二人はこんなちっぽけな勝負よりももっと大事なものを手に入れたんだから」


「せやせや。歴史上の偉人としての名誉。そんだけでも十分やと思うで」


「そっかあ」


「しみじみとしているところ悪いんだけど、あのムササビ二人回収しに行かなくていいの?」


「大桑忍者の皆さんに捜索と保護をお願いしてあるから大丈夫」


「わかりました。さて第三試合の興奮冷めやらぬ中、そろそろ第四試合です。西村勘九郎・新九郎親子組対弥次郎……」


「サブロウさまあ、早く着替えてくださいよ。あのマムシ野郎をとっちめてやりましょう」


「あ、弥次さん!」


「弥次郎さんどうしたんですか?」


 第四試合に出る弥次郎光安だ。


「どうしたもこうしたもありません。あのマムシ野郎に正義の鉄槌を下しましょう」


「なんか知らんけど、また面倒くさいヤツがきたで!」


「ちょっとお、弥次さんの相方は職人の市兵衛さんじゃなかったの?」


「あのたわけは、ゆうべ酔っぱらった挙句に裸で雪の中を軍用犬のコバヤシ丸と鬼ごっこしたせいで高熱を出して寝込んでおりまする!」


「うわあ、やっぱり全裸監督だった!」


「相変わらず酒癖の悪いやっちゃのう」


「ただの変態よ。露出狂よ!」


「であるな。それで、この俺が代打に決まったのだがつい口が滑ってなあ」


「何をおっしゃるサブロウさま。さすがは弁財天様のご加護持ち。危うくあのマムシ野郎をかわいい妹に近づけるところでした。礼を申しますぞ!おみおはこの弥次郎お兄ちゃんが守って見せます!」


「「「うわあ、シスコンだあ!」」」


「なんだかこっちで会ったばかりの頃のヨシノさんのお兄さんたち、彦次郎さんと彦三郎さんを思い出すわねえ」


「弥次郎さんの妹さんてもしかしてわたしも知っている……」


「小見の方だ。斎藤道三の正室で、織田信長の正室である帰蝶の母親だ」


「そんな未来は要りません!妹が幸せになるための障碍しょうがいは見敵必殺!すべてこの弥次郎お兄ちゃんがぎ払ってみせます!ささ、サブロウさま。参りましょう!」


「その、できるだけ穏便になあ」


「聞こえませぬ!」


 サブロウは弥次郎に引きずられて行ってしまった。


「センセもアホやなあ。あんなシスコン魔人に妹の将来の結婚相手のことをしゃべるだなんてなあ」


「そうかな。サブロウ師匠またなんか企んでるんじゃないかしら」


「チカさん、どういうことですか?」


「例えばヨシノさんを斎藤道三に盗られないように、弥次さんをそそのかして自分の手を汚さないで若き日の道三、西村新九郎を始末するとか?」


「えええええええええ⁉」


「今さらそんな訳あらへんやろ!」


「わかんないわよ。気が変わったのかもしれないわよ。いずれにしろ次の第四試合は、とんでもないことが起きそうね」


「そんな……」


 波乱含みの第四試合が間もなく始まる。




つづく



「まだ番外編つづくんかーい!」


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土岐の殿さまのボブスレー 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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