土岐の殿さまのボブスレー
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
そり競技と思っていたらなぜか△▷キングになってしまった件
「「どうして、今回わたしたちは参加できないんですか!」」
「パワー不足だからだ!」
「せや。今回はやめとき」
「「そんなあ!」」
「これは武術的な強さじゃなくって単純に首の筋肉の問題だ。合戦で兜を被る機会がある武士と違ってヨシノやチカは兜を被る機会なんてないからな。今日の競技は首の筋力が強くないと危険な競技だから、お前たちは不参加だ」
「じゃあ、兜を小さく軽量化したらいいじゃない」
「それじゃあ、万が一のとき心許ない。兜は大きいのでないと駄目な理由があるんだ。二人とも不参加だ。異議は認めん」
「「むう」」
再び雪山である。ただし、今回はナイトスキーではなく日中のゲレンデだ。
21世紀の知識を持ったまま戦国時代の美濃に生きている土岐サブロウ
四人だけでスキーで遊んだことがバレて、家臣から羨ましがられてしまった。かといってスキーは試作品で限りがあるし、そもそも経験者でなければ楽しめないのでは?
そこで、皆のレクリエーションとしてそり競技、
サブロウが開会の挨拶をのべる。
「武士たる者ただ、腕っぷしや筋肉の力さえあればいいというものではない。勇気、度胸、胆力がなければせっかくの腕力も役に立たない。加えて、実戦では沈着冷静さ、とっさの機転も求められる。それを養うために、これから
「「「「「応!」」」」
「ようし、いい返事だ。くの字を繰り返す道筋を外れず、出発地点のここから
「「「「「応!」」」」
「相手の邪魔をするのもありだ。ただし、使って良いのは己れの肉体と、そりと、雪と、そして
「「「「「応!」」」」
「審判はハルさんこと我が弟の土岐三郎治頼と、鍛治職人のノサダの爺様が務める。下では桔梗屋のお涼姉さんと金兵衛の女房の若葉と段蔵の女房のお鷹さんが温かいイノシシ鍋を作って待っているぞ。励め!」
「「「「「応!」」」」
「さあ、始まりました第一回
「「「どうも」」」
「サブロウ師匠、第一試合の稲葉彦次郎・彦三郎組対古田総兵衛・八板金兵衛組の見どころはなんでしょうか?」
「ずばり兜だ」
「へ?兜ですか?」
「稲葉兄弟は、それぞれヨシノのリクエストでウサギをモチーフにしたかわいらしい
「そうなんですよ。イナバ家としてはやはりウサギは抑えないと」
「はあ。ヨシノさんまだウサギにこだわってるのね」
「はい。稲葉家はウサギさんチームです」
「兜の解説をするぞ、前に乗ってる彦次郎の兜はサイドで耳が立っている方が
「へえ、上杉謙信もウサギさんチームですね!サブロウ先生!」
「いやあ、謙信もそうだけど有名どころの戦国武将は色々な兜持ってたからなあ。そうとは言い切れないんだ」
「なるほど。ちょっとだけ残念」
「上杉謙信ってこの時代、大永二年(一五二二年)やとまだ生まれておらへんかったんとちゃう?だったらこのレプリカがオリジナルになるんやない?」
「そうなるかもなあ。まあ、壊れなかったらだけどね」
「ええ?」
「師匠、一つ目の兜はたしかにウサミミっぽいですが、二つ目の上杉謙信の兜はウサギの耳というよりもバルタン星人だかペンチマンみたいですね」
「バルタン星人はともかくまた、マイナーな超人を持ち出したな。でも俺もそう思う(笑)。
「センセ、あのバルタン星人みたいなの重くないんですん?」
「
「はあ、そうなんや、なるほど」
「でも軽くても大きければ大きいほど空気抵抗が大変で首にすご〜く負担がかかる。だからヨシノやチカには勧めたくないんだ。わかったか」
「「は〜い」」
「対する総兵衛・金兵衛組は、総兵衛が
「師匠、あの飛雲って色は黒いけどまるでマンモスの牙みたいな形ですね」
「うんうん、わたしもそう思った」
「そうかあ?色といい、形といいまるでとぐろを巻き損なったウ▷コにしか見えへんけど」
「カズマ、下品よ」
「カズマさん、下品です」
「カズマ、ドンマイ(俺もそう思ったが黙っていよう)」
「え〜!絶対そう見えるってー!」
「さあ、下品な発言はスルーしましょう。いよいよ第一試合スタートです!」
「兄上頑張って!」
「ようし、始め!」
「さあ、第一試合が始まりました!ウサギさんチームの稲葉兄弟が先行だ。おっと、後ろから迫った総兵衛金兵衛組が雪玉をバンバンぶつけて攻撃だあ!これはあらかじめ雪玉を作っていたか。稲葉兄弟のそりの操縦にに対する集中力を削る作戦だ!」
「「貴様ら卑怯だぞ!」」
「勝負に卑怯もへったくれもあるか!」
「雪は使っていいんだよ!」
「金兵衛総兵衛組が横に並んだ!おっと彦三郎選手が、バルタン星人が逆襲だ。兜でガンガン金兵衛選手に頭突き攻撃だ!」
「ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ」
「くっそお。総兵衛、やるぞ」
「応!」
「「右向け右!」」
「「ぶへっ!」」
「おーっと稲葉兄弟、プロペラとマンモスの牙で顔面を横薙ぎにされて、ウサミミ彦次郎選手もペンチマン彦三郎選手もそりから転落だ!ライバルを蹴落とした、いや叩き落とした金兵衛総兵衛組が悠々とゴールイン。勝ったのは金兵衛総兵衛組だあ!」
「兄上、残念!」
「センセ、これもうボブスレーでもなんでもないんとちゃいますか?」
「そうねえ。どちらかというとカブトムシやクワガタの闘いみたい」
「あっ!わかりました。△▷キングですね!」
「「それそれ!」」
「せやけどホンマは、家宝にしたり博物館で大事にせなあかんモンをこんな風にガッコンガッコンぶつけてええモンなんやろか?」
「兜だって本来は合戦で使うもので置物じゃあないんだよ。ただ飾られたりするよりも、また殺し合いの合戦で使われるよりも、こうして平和なお遊びに使われる方が本望じゃないかな。壊れたら直すかまた作ればいいんだから」
「なんだか上手いこといい話風にまとめたところで第二試合です。優勝候補登場です。身長2m怪力巨漢の足立六兵衛と弓の名人鷹の目の多田三八郎組!対するは
「カズマ、哲つぁんが待ってるぞ行ってこい!」
「押忍!」
「カズマさんしっかり!」
「ちゃんと勝ってくるのよ」
「押忍!」
「では、兜の解説だ。足立六兵衛の兜は
「六兵衛さんと三八郎さんはは水牛さんチームですね!」
「こちらはもう完全にWバッファローマンです」
「あの水牛の角をどう使うか、どう防ぐかが見ものだな」
「なるほど、わかりました。一方の宗哲さんカズマ組の兜は・・・・・・な、なんですかあの兜は!」
「サブロウ先生、宗哲さまの兜にお墓がくっついています!」
「棺桶どころかお墓を勝負に持ち込むとは、幻庵宗哲さまは戦国美濃に現れた、ジ・アンダーテイカーなのかあ!」
「いやいや、あれってお墓と違う」
「でも南無阿弥陀仏とまで書いてありますよ!」
「あの兜は江戸時代は享保年間に作られた今治藩主・松平
「なるほど。でもサブロウ師匠、あれでどう戦うのでしょう?」
「あの
「そうですか。さて遅れて合流してきた山本カズマ選手の兜はこれもまたユニークな形だあ!」
「まるでブラジルのカーニバルみたいですね」
「わたしにはただの黒いハタキにも見えますがサブロウ師匠、解説をお願いします」
「カズマの兜は
「では、カズマ選手はあれでどうやって戦うのでしょうか」
「予想できるけど、これは見てのお楽しみだな」
「うーん。どうするんでしょう」
「ヒントは柔よく剛を制すだ」
「うーん」
「では第二試合、そろそろ開始です」
「よおし、始め!」
「「ぬおおおおおおおおおっ」」
「おおっと。バッファローマン1号こと足立六兵衛選手、そして山本カズマ選手!両選手がものすごい勢いでそりを押して行ってえ、いま、そりに飛び乗りました!両者互角のスタートダッシュを見せました」
「お互いに距離をとって滑っていきますね」
「ああ、これは哲つぁんとカズマまずいぞ。早く接近戦に持ち込まないと」
「どういうことですか、解説のサブロウ師匠」
「ミオスタチン関連筋肉肥大症の六兵衛には超握力があるんだ。ヤツが握り固めた雪玉はもはや雪玉じゃない。超密度の氷玉、氷の弾丸だ。それをヤツのパワーで投げたら、もはや投擲ではなく狙撃だ。あたりどころが悪いと死ぬぞ!」
「カズマさん、宗哲さま逃げてー!」
「カズマ!哲つぁん!気をつけて!」
「哲つぁん、離れすぎや!もうちょっと近づかんとアカン!」
「大丈夫だ。俺を信じろ!隠形の術、発動!」
「おおっと、ここで箱根権現の修験道の法力で隠形の術だあ!宗哲・カズマ組のそりの姿が消えたあ!」
「ふんっ!」
カーン
「いってえ〜、今やばかった。ナニあの音。氷弾が兜をかすめていきよった。哲つぁん、隠形の術効いてへんで」
「そんな馬鹿な!」
「ふははは。そりが消えても、そりが通った跡が残っておるから、そりの位置など丸わかりだあ!」
「「あ、そうか!」」
「甘かったな。行くぞ、ふんっ」
ばきっ!
「これは無残!隠形の術が破られて、宗哲選手の兜のお墓、じゃない五輪塔が六兵衛選手の氷の弾丸で真っ二つだあ〜!」
「この罰当たりめ!」
「そんなモノを的にさらす方が悪い!」
「くそっ」
「哲つぁん!アイツらの真横につけるで、ボクに考えあるから」
「しかし、近づけばあの長い水牛のツノの餌食だぞ!」
「大丈夫や。任せたって。柔よく剛を制すや」
「ええい、どうなっても知らんぞ!」
「行くで〜!」
「おおっと、宗哲・カズマ組がここで大きく軌道修正してそりを六兵衛・三八郎組のそりにぐんぐん近づける」
「ふん。ぶつけてそりをひっくり返すか道筋から脱落させるつもりか」
「六兵衛の怪力を甘く見過ぎだわい」
「我らのツノの餌食だ」
「ここで両者のそりが至近距離で並んだあ!」
「無駄、無駄、無駄。これで終わりだ」
「六兵衛選手のツノがカズマ選手を襲うぞ!」
「終わるのはそっちや、喰らえ!
「なんと、カズマ選手。兜の上の羽ハタキを使ってのくすぐり攻撃だあ!」
「わ、やめ、やめい!くすぐるなんて卑怯だぞ!くっくっく」
「別に禁止はされとらんで!」
「六兵衛耐えろ、もうちょっとだ」
「三八郎、すまんもう限界だ。わっはっはっはっはっはっは。ひぃ〜苦しい!もう無理。もうダメだあ!」
「六兵衛ええええ!」
「なんと番狂せだあ!六兵衛選手はくすぐり攻撃に耐えかねてそりから転落してそのままコースアウト!三八郎選手も六兵衛選手の転落でバランスを崩してカーブを曲がりきれず六兵衛選手を追うかのようにそりごとコースアウト!これはカズマ選手の作戦勝ち。宗哲・カズマ組今、ゴールイン。恐るべし
「いや、落っこっただけで葬り去られてはいないから」
「なるほどあの兜は実戦ではこう使うんですね」
「ヨシノさん、それ絶対に勘違いしてるわ」
「さすがに本当の合戦でこの手は使えないだろう。六兵衛のようによっぽどくすぐりに弱ければ別だけど」
「そうですか。ところで落ちてった六兵衛さんと、三八郎さんは大丈夫かなあ」
「大丈夫だ。コースの外の雪はやわらかい。それに雪に埋もれても、すぐに見つかるさ。ほら」
「サブロウさまあ!六兵衛と三八郎見つかったんであっしと佐助が縄で結んで引き上げて来やすぜ」
「おう、どうなってた?」
「へえ、サブロウさまのおっしゃる通り、頭まで雪に埋もれていても、あの派手な水牛のツノがちゃあんと雪の上に顔を出していやした」
「あ、サブロウ先生が言ってた兜が大きくなければいけない理由って・・・・・・」
「そういうこと。コースアウトやらなんやらで雪に埋もれても、すぐに見つけられるようにってわけだ。これで凍傷や凍死のリスクがずいぶんと減らせる」
「なるほど、だから今回は小さな兜じゃダメって言ってたのね。納得」
「さあて、まだ試合は残っているが字数が多くなりすぎた。今回はここまで。続きは次回だ!」
「「ええ⁉︎この話まだ続くんですか⁉︎」」
「当たり前じゃないか。まだ紹介できていないスゴイ変わり兜と、出番を待っている連中が残っているからな。本編の連載に戻る前にもう少し、番外編で遊ばせてもらうよ」
そんなわけで連載中の『土岐の殿さまのやりなおし』番外編、『土岐の殿さまとボブスレー』もうちょっとだけ続きます。本編の連載再開は今しばらくお待ちください。
m(_ _)m
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