#2 時間が無いんだ
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その夜、夢を見た。
夢の中だと気付いている夢。
「おい! おい起きろよ!」
オレは警察官に羽交い締めにされている。
救急隊員が処置をしてる。
誰に起きろと言っているか、分からない。
どろり……と大量の血がアスファルトの上で闇に暗く、外灯のオレンジ色の光に黒光りしている。
現実味を帯び、そして微かに
「死ねよ……」
と聴こえた。
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夏休みが終わった。
自習の時間、何だか教室ではヒソヒソ女子たちが話して、時折こちらを見てる。
ん?机の中に何か入ってる。クシャクシャに丸めたノートの断片。広げてみると、「付き合ってんの?」と、丸めた一枚とマジックで書いた酷く汚い文字。なんのことだ?
バカ高の考えることは馬鹿だ。
俺はこの紙が何かコイツに聞いてみると、「気にするな」と、一つ返事。
チャイムが鳴り授業が終わる。
「今週までに書いてくるように」担任がそう言って進路報告書が前の席から回ってきた。
コイツは隣の席。一番後ろで、網戸から外を眺めている。
先日からエアコンの点検が入って、ホースが詰まっているらしい。故障はいつまで続くのか。残暑でカラッとした天気が続いていたが、今日は蒸し暑い。
チャイムが鳴り、帰宅の合図。帰宅部だから。
部活の準備に向かうやつ。バイトの準備をするやつ。ねーねー、カラオケに行かない?
という声が聞こえてきたりする。
「おい! おいって!」オレは呼びかける。
「なんだよ」
「また来たぞ。フるなよ」
教室の入り口に女子が三人。見ない顔だ、後輩だろうな。
行って来いと合図をしてコイツは渋々。アイツが女子たちと話していると、なんだか分からないがオレの方を指さしている。会話は聞こえない。
アイツがオレの席へ来た。あの女子たちも、そこにまだ居残っているままだ。
「お前にだって」しれっとした表情でオレに言う。
「はぁ? なんでオレ」
「いいから行って来い」
オレも渋々、女子たちの方へ話を聞きに行った。
三人のうち真ん中の女子がモジモジしている。オレは話を伺う。
「あの、あ……えと」
トンと隣の女子が、真ん中に居る背中を押して女子はオレの手前へ出て言った。
「あの、先輩、付き合ってるんですか?」顔を赤らめている。
気持ちは十分にそれで伝わっている。しかもオレのタイプだ。背が低くておとなしめ。そんな印象を受ける。顔も小動物みたいで可愛い。
「付き合ってないけど」
オレは言った。
「えと、今日、一緒に帰れますか?」顔を両手で隠しながら彼女は言った。
「誰と?」オレはこの女子三人と一緒に帰るのか、アイツと帰るのか聞いたつもりだった。
「あ……なんでもないです」
真ん中の女子は、走って逃げた。追って隣の女子たちも走っていった。
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オレたちは三角公園にいる。
「お前、馬鹿だろ。偏差値高い馬鹿だ」
「なんで」
デオドラントシートを使うが、汗が止まらない。使えよ、と差し出されたライブタオル。
香りビーズを使っているのか、爽やかな甘い匂いがする。汗は速乾性のあるデオドラントシートではおさまらない。サンキュ、とコイツに言って、コイツは口を開いた。
「俺はお前に失望したよ。鈍感なのは知ってたけど、馬鹿とは思ってなかった」
続けて言う
「あのコに可愛そうなことをしているんだよ。気づいてねーだろうな」語気を強めてコイツは言った。
コイツは口の悪い女だ、つくづくそう思う。
「気づいてるよ!」気づいていなかった。
そう、あのコが言った誰と一緒に帰るのか。ニブなオレは今さら気づいた。
オレと二人きりで帰りたかったんだろうと。はぐらかしたことになったか……。
でも、そんなこと言ったらコイツは一体どれだけの女をはぐらかしているんだ。コイツは女子だから意味は…ちがうけど。そういう『コイツは女子だから違うけど』とかいうのが言い訳で、少し自分が嫌になった。
「じゃあ今度告れよ!」コイツは約束しろとばかりに叫んだ。
嫌だった。
オレがニブなのも分かってる。進路も決めなきゃいけないけど、オレにだって『大事な時間』はある。
コイツは気づいていない。その後はこうして三角公園でウダウダしてる暇もないんだ。
そう、こうしている時間がないんだ。
「明日告れよ」
「名前もクラスも分からねぇ! どうやって告るんだよ」
もし、夏休み前ならあのコと付き合っていたかもしれない。
コイツにも俺にも、時間が無かった。
セミの
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帰宅後、ベッドに横たわる。イライラする。
特に何もしていないのに、疲れている。アイツに進路の事を聞いていなかった。そのまま就職するようには考えられない。何をするんだろうか。
アイツは、やりたいことしか出来ない。
オレみたいに勉強して学が付くやつじゃないし、努力なんてするようなやつじゃない。アイツのやりたいことって何だ。皆目、検討が付かない。気づけばアイツのことばかり考えてる。
「ごはんよー!」母さんの声。
「今行くー!」
オレは答えた。
15分後にテーブルについた。 黙ってすきやきを食べている。
「お前、三者面談いつだ」
「まだ学校から連絡来てないでしょ。お父さん、焦らない 焦らない」
母さんが言ったが、父さんは母さんを無視して続ける。
「進路、どうするんだ」
「就職する」
「そうか」
オレは適当に応えたが、正直進路なんて全く思い浮かばなかった。オレにとって、進学でも就職でもどちらでもよかった。ただ遊んでいようなんて気持ちもない。だけど、今のことで精一杯になっている自分が居たような気がした。何に精一杯か分からない。
取りあえずは進学も出来るように、勉強は前から少しはするようにしていた。得意科目も不得意な科目も特に無い。運動部みたいにガチガチの練習はしてないけど、体育の成績も5だ。
この時期だけど、バイトしようかな。また明日アイツ誘ってみるか。
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ん? あれ!
8時! 慌てて制服に着替える。何で起こしてくれないんだよ!
朝ご飯はー? と母さんに聞かれたが、遅刻するわけにいかない。皆勤賞ストップするわけに行かない。オレは直ぐ家を出た。
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