# 7 過去は取り返せる

※前話のコピーではないです。

今回は「オレ」のストーリーです。




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 立春。

 だが、外は豪雪だ。仙台で足元まで積もるのは数年無かった。


 オレはに腕をうずめている。

 春が立つと書いて立春なのに、外が吹雪いている。


 アイツからの着信だ。

「今、令和何年だ 」明らかに気が動転している。

「平成三十一年だよ。どうした」

「お前の家、今お婆さんいるか?」

「いるけど」

「会わせてくれ」

 夏だけでなく、並行世界は冬でも行き来するんだな。次の元号が今分かっているのはコイツとオレくらいだけだ。

 元号をバラしたところで、誰も信じない。

 30分後、チャイムが鳴ったので玄関へ出る。この豪雪で走って来たのか、息切れしている。「取り敢えず入れ」と中へ通した。

 クシャクシャになった靴が玄関脇に置かれた。


 タオルで足を拭かせて、奥の間へと上げた。

 座布団が3枚、婆さんは和服を着ている。前回と同じだ。一体いつ時間が巻き戻っていたのか、オレも知りたい。


 コイツは婆さんに話す。

 橋を渡ったら水位が上がって三角公園の雪の中へ落ちて来たと言う。このときコイツと婆さんは初対面なのに、婆さんも話を理解したようだ。


 婆さんが言った

「それはそれは、一歩進みましたね」

 いや、時間としては後退してるだろう。

「この調子で、橋があるので渡って行きなさい」橋?一体何を話しているのか分からない。

ああ、そういえば婆さんはコイツに「橋を渡りなさい」と言っていたな。


「あ、お前少し背が縮んだな」

「お前もだ」


 時間が巻き戻っていることは確かなようだ。リビングでコイツと少し休むことにした。


 とにかく冬は楽をすることが大事だ。

 変な話だ、オレは進路を決めようと考えている最中に二年生に戻っているのだから。もう、時間が巻き戻される事にすら、少し安堵する。

 気付いたかもしれない、と思ってオレは言った

「なあ、オレたち未来に行くことも出来るのか?」

「さあな。意図して出来たわけじゃないし」

今後、ランダムに時間が行き来するのは困る。浦島太郎になりかねない。

「そういえば、お前のヒヨコは?」

「あ! P助!」

 青ざめている。更にオレは追い詰めた。

「完成したドールは?」

「ああ!」

 時間が巻き戻っているという事は、そこに在ったものが無いことになる。努力の結晶も存

在しないかもしれない。

 まあ、オレが聞いたのはただの意地悪だ。

「お! 俺帰らなくちゃ!」

「まあ落ち着け。今日は悪路だ。あとで父さんが車で送ってくれる」

 母さんがテーブルに差し出した熱いお茶を勧める。ひと口、ズズと音をたてるとコイツは

「あ〜落ち着く〜」と、言葉をもらす。

 なんて単純な奴なのか。

「今、帰って未来に得てきたものが今無くても、現状は変わらない」

 オレは続ける

「それに、お前のその手、ドールを造る手は向上してる」

「何でそう思うんだ?」

「お前はずっと欠席してた。秋から冬にかけて」

「ああ、ずっとドール作ってた」

「速さも技術も向上してるはずだ」

 コイツは茶菓子に手を出す。

「怖いのは未来に飛ばされたときだ」

 オレは言った。

「ほれよひ……」

「食べてから言え」

「それより、単純に未来に飛ばされるっていうのはおかしいぞ」

「どういうことだ?」

 と、オレは聞く。

「並行世界だから『未来』って様々在るんじゃないか?」

 なるほど、コイツはたまに賢い事を言う。

 そう、過去に戻ったときもオレは女子に告られたときと、何も無いときがあった。

 分かっていることは、コイツが三角公園に落ちて来たときに時間と、更に周りの空間や人間の感情までも変わるという事だけだ。


 それが並行世界。

 午後四時。

 雪道なので、暗くなる前に送ると父さんが言い、コイツはレクサスに乗り込んだ。親の前なので『死ねよ』という挨拶は無く「じゃあな」と一言だけ交わした。

尚も吹雪はやまなかった。

 父さんは無口なので、車内は気まずくならないかと少し心配したが、アイツが余計な口出しをしなければいいと思った。


 40分ほどで帰ってきた。

 明日の予習を済ませて一息ついたところでドアの方から

「入るぞ」

 と小さく父さんの声がした。

 部屋に入り、父さんは口頭

「お前、進学するのか?」

 と聞かれ「そのつもりはないよ」と答えた。

「父さんもな、そう言うと思ってた」

 続けて言う

「もし、気が変わったら言ってきなさい」

「わかった」と、それだけの会話だった。

 オレは進学する気は無いのに、勉強はルーティンで続けている。その姿勢は親が見てるから、誤解を受けているのかもしれない。

 オレは勉強が好きでも嫌いでもない。ただの日課としてしてるだけだ。そういう奴も、珍しいんだろうなとは思っていた。


 夕飯が来る前にアイツに電話しておこう。

 3コールで電話に出た。

「帰ってみて部屋の中はどうなってた?」

「作品は幾つか消えてるんだけど」

「だけど?」

「造った事の無い作品が有るんだ」

「ヒヨコは?」と聞くと、居ないと答えた。

 そういう、命あるものは時が来ないと増えたり減ったりはしないのだな、と解釈した。

 今年の夏にまた買えばいいとも思ったが、どこの空間へ飛ばされるかも不確定。

「並行世界だから、そういう事が起きるのは今後も覚悟しておいた方がいいぞ」

「そうだな……」

「気を落とすな。過去に造った作品は今も造れるだろ?」

「お、お前なあ! 一つ造るのにどれだけ命削ってると思っているんだ!」

 話を無視してオレは言った

「今後、過去にも未来にも飛ばない方がいい」

「好きで飛んでるわけじゃない!」


 下手な助言をしてしまったな。

 オレ達は黙りこんでしまった。


 そして、ある事に気付いた。

「お前、その橋のある世界に入る前に、何をしているんだ?」

一階から夕食が出来たと呼ばれたので、そのまま「悪い、夕食だ」と言って電話を切った

。アイツ、怒ってるかな。

 夕食後、ベッドに横たわった。

 オレ達は付き合ってる事になるのだろうか。


 翌日の学校。

 オレとコイツは三年生の時と、席が入れ替わっている。コイツが最後尾で、オレはその一

個前方の席。

 休み時間中、後ろからコイツはで背中を押す。

「何だよ」

「今日三角公園に来いよ」話があるそうだ。

「今日は寒いだろ。教室に残って話すよ」

 とオレが応えると

「分かった」と返事をした。

 放課後のチャイムが鳴った。教室に誰も居なくなるまで、少し待った。

「そんで、話って?」オレが訊く。

「昨日の話の続きだよ」

「今何か考えてみろ。当ててみせる」


 何言ってるんだ。じゃあいまから……

に、コイツは

「じゃんけんをする」

 と言い当てた。オレは実は驚かなかった。これまで不可思議なことが起きて、コイツにそんな能力があっても不思議ではない。

 更に試すと言う。オレはじゃんけんの……

「グーチョキパーを決める」

 と、コイツは答えた。


 本当にそんな能力があるようだ。

「お前、その能力はいつからあるんだ?」

「分からない。ただ……」

 続けて言う

「時間を巻き戻すとき、この能力を使ってる」

「お前それ! 今も危険だろ!」

「今は安全だ」

 聞くと時間が巻き戻るときは、オレたちは離れた所に居るそうだ。何処に俺たちが飛ばさ

れるかは、分からないと言う。

「その能力に気付いたのはからだ?」

 オレが聞くと「覚えていない」と言った。

「これから、その能力は勝手に使うなよ」

「俺の能力だ。俺が決める」

 真剣な眼差しで言う。

 更に続けた


「俺には過去の記憶が無い」

「だからそれは!」

「忘れているわけじゃない」


 暫く沈黙が続いたところで、コイツは切り出した。

「俺は未来から来ているのかもしれない」

「その未来の記憶は?」

「それも無い」

 過去にも未来にも記憶が無い。それは矛盾している。

「俺はお前の記憶を辿ってここに居る。多分そう思う」

 それに対しては、何故か答えられない自分が居た。

 それから、とコイツは言う


「俺、退学する」


 眼を見て言った。

 造形を本気でやるためか。わかったと、返事をしたが、この『退学』については、そのときオレ達は考えが浅かった。



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