弓道とアーチェリーの違いの話

陽澄すずめ

弓道とアーチェリーの違いの話

 大学時代、洋弓部(アーチェリー)に所属していました。

 私は生まれついて反射神経が恐ろしく鈍く、動体視力は壊滅的で、体幹も激よわだし、チビな上に肉の付きにくい体格です。

 そんなわけで昔から根本的に運動全般が苦手でしたが、弓のように静的な競技であればできるのではないかと、大学デビューの勢いも手伝って入部したのです。


 我が大学、洋弓部の射場の隣に弓道部の射場がありました。

 その弓道部に、同じ学部のMちゃんという子がいました。学部でも部活でもちょくちょく顔を合わせるので、彼女とはよく話す間柄でした。


 入部して半年ほど経ったころ、ふと気づいたことがあったのです。


「私とMちゃんで、筋肉の付き方違うよね?」


 弓道部のMちゃんはが左と比べて明らかに太い。

 一方、洋弓部の私は腕の左右差はなく、むしろが発達していました。


 同じ弓の競技なのに、なぜ違うんだろう?


 我々はその謎を解明すべく、お互いの射型を見たり、弓を交換して素引き(矢を番えずに弓を引くこと)したりしてみました。

(※良い子は真似しないでね! 先輩に怒られるぞ! 先輩という生き物は理不尽に後輩にキレてくるからな! 他の部の人に弓を触らせるとかしたら特に部則とかなくても問答無用でキレてくるからな!)


 所感を述べ合って判明したのは、以下の通り。


【弓道】

 ・弓が軽い。成りと呼ばれる竹?に弦が張ってあるだけのシンプルな作り。

 ・構える時に弓をいったん頭の上まで持ち上げる。高い位置から左右へ引き分けるのに右腕の力が要る。


【洋弓】

 ・弓が重い。合金製のハンドルにリム、スタビライザー(重り)、サイト(照準器)などが付いている。

 ・低い位置から左右に引っ張りつつ、弓を水平まで持ち上げていく。その引き方だと背筋を使う。


 弓の仕様が全然違うことに加え、引き方も違いました。

 それゆえに、筋肉の付き方が違ったのです。


 弓道は己の肉体や精神と向き合い、あらゆる意味での正しい姿勢を得る武道です。

 的は狙うものではなく、結果としてあたるか外れるかというもの。


 一方のアーチェリーは、正確に的の中心を狙って得点を競うスポーツです。

 弓にいろんな装備品が付いているのは、狙いの精度を高めるため。個人で自由にカスタマイズ可能です。左利き用もあります。


 そもそも、同じ弓でも全然違うものなのでした。


 Mちゃんとの情報共有によりアーチェリーには背筋が大事だと改めて認識した私は、そこを鍛えるトレーニングを増やしました。

 結果、弓の安定度が増し、スコアがちょっと上がったのでした。

 感覚的に掴めなくとも、理屈で掴めば解決できることもある。

 運動の苦手な私が初めてスポーツで得た成功体験となりました。


 よくファンタジー系作品などでは小柄な美少女や細身のキャラが弓を使っていたりしますが、実際のところどう考えても体格の良い人が断然有利です。

 リーチが長い方が引き尺が伸びて矢飛びにスピードとパワーが出るし、体幹ががっしりしていればそれだけ狙いが安定します。

 だから、私の資質では限界がありました。どうしようもないことってあるもんだなと実感しました。美少女でもないしな。ほっとけよ。

 それでもスポーツの楽しさを知ることができたのは、人生の大きな財産だったと思います。

 アーチェリー、すごく楽しかったんですよ、本当に。



 ついでに少しだけ、創作に絡む話も。


 以前、自作の主人公を弓道部所属という設定にしたことがありまして。

 弓道の教えや精神を調べるうち、「すごく分かる……!」と感じたんですね。(上述した弓道の説明がその一部です)

 弓を引くという動作の内包する感覚、と言ったらいいのか。違う競技でしたが、共通するものも確かにあるなと思ったんですよ。

 アーチェリーだって、身体と心が整っている時は面白いくらい的の真ん中に入ったんです。これだったんだ、と今さら気付いて。


 創造のための想像力はもちろんのことですが、その礎となる自分自身の経験もずいぶん重要だなと思ったのでした。



—了—

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