ガラスペンの国のブッコロー

刀綱一實

第1話 誰かに似ている神様

「お疲れ様でーす」


 今日も無事に動画の撮影を終え、ブッコローは愛しい家族の待つ家に帰ろうとしていた。その途中、足に何かが当たった感覚があり、ふと下を見る。


「何かの瓶……か」


 誰かが正気に戻って捨てた、カニ爪フライグローブ(注1)じゃなくて良かった。そう思いながらブッコローが歩き出した時、急に周囲が真っ暗になった。


「なんだ、この墨みたいな闇……」


 ブッコローが困っていると、不意に頭上から声がした。


『ブッコローよ』

「ザキさん(注2)の声がする」

『ザキさんではありません。神です』


 文房具王になりそこねた女が、思い詰めたのか変なこと言い出した。


「ゴッド・ザキ、変な冗談はやめていただけます? また枕元に置いた眼鏡、踏んで壊しました?」

『ザキではないというのに。あなたは罪を重ねるつもりですか』


 ブッコローはそれを聞いて動揺した。


「そもそも罪を犯してませんが」

『インクの瓶を蹴飛ばしたではないですか』

「それだけ!? ていうか、それはどっちかと言うと捨てた奴の罪では!?」


 ブッコローの必死の反論は黙殺された。


『インクとペンを愛する私の前では同罪です。そこであなたをガラスペンしか使えない世界に送ることにしました』

「前半と後半の文がつながってませんけど!?」

『行ってらっしゃい……そこでガラスペンの素晴らしさを知り、自らの罪の重さを悟るのです』

「ま、待ってええええ!!」


 ブッコローは叫んだが、あっという間に押し寄せてきた闇に包まれ、その姿は道から消え失せた。後には、一本のジ○ット○トリームだけが残されている。




(注1)バレンタインのプレゼント対決企画で持ち込まれた。カニ爪フライを模したグローブ。何言ってんだと思われるが実在する。腕にはめて使うことも出来るが、爪の先端まで腕が入らないというネタグッズとしては致命的な欠陥有り。


(注2)ブッコローの動画には欠かせない、文房具をこよなく愛する店員さん。おっとりしたしゃべり方と文房具の豊富な知識でファンに愛されている。一度、枕元に置いた眼鏡を自ら踏んで壊すというミラクルQを起こし、ブッコローにネタにされた。

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