第6話 ガラスペン講義
「あれ……」
見知らぬミミズクを見て彼氏は顔をしかめたが、彼女が楽しそうなので不満を飲みこんだ様子だった。
「じゃあ、始めましょうか。つぶつぶきいろは前に見てもらいましたよね?」
「ああ、そうでした」
「これはすっごく軽いペンなんですよ。ペン軸の中が空洞なので」
確かに持たせてもらった感じ、軽い。書いてみると、音も軽やかだった。
「でも、ガラスペンって全部こんな感じじゃ無いんですか?」
「違いますよ!」
女子高生がやにわに立ち上がったので、ブッコローは風圧にたじろいだ。
「これを試してください、ストームグラスプロ(注6)。同じ作家さんのものです」
差し出されたガラスペンは、奇妙な構造をしていた。軸のところに水のようなものが入っていて、その中に青い石が浮いている。
「へえ、これも綺麗ですね」
「天気で中の結晶の様子が変わるんですよ。今日は晴れてるからほとんど透明ですけど、雨の日になると水の中が白く濁ってくるんです」
ブッコローはその様子を撮った写真も見せてもらった。確かに軸が白くなっていて、別のペンのように見える。
「軸が重いからか、なんか書き味も重い感じがしますね……」
「そうでしょ?」
「あ、あのさ。今度は僕のペンも紹介していいかな」
ブッコローとばかり彼女が話すのが気にくわなかったのか、彼氏が割り込んできた。
「いいよ。やっとアレが買えたって言ってたもんね」
「かなりお小遣いの前借りしたよ」
そう言って男子が取りだしたペンは、軸の一部が丸く膨らんでいた。そこに、ころころと動く丸い玉が入っている。
「ラムネペンっていうんです」
「ああ、確かにラムネの瓶みたいだな」
小さい頃は、瓶のビー玉を取り出そうとして頑張ったものだ。ブッコローは懐かしく思い出した。
「書くと、音がしてたまらないんですよね」
「いいなあ、やっぱり私も欲しい」
「ちなみに聞くけど、ガラスペンっていくらくらいするものだっけ?」
「大体一万円前後じゃないでしょうか。このラムネだけは高くて、二万円くらいしますけど」
「じゃあ、インクは?」
インクは四~五千円くらい出せば十分買えるらしい。つまり、多く見積もって三万円集めれば軍資金としては十分だ。
「ありがとう。参考になったよ。困ったことがあったら、いつでもこの昭和の恋愛マスター(注8)に相談してくれたまえ」
「は、はあ……」
困惑する学生たちをおいて、ブッコローは競馬場へ向かった。
(注6)動画でも紹介された、美しくも変わったガラスペン。値段はつぶつぶきいろの倍くらいする。ブッコローも書き味の違いに驚いていた。
(注7)同じ動画でとりあげられたガラスペン。面白い仕組みなのだが、ブッコローが試し書きした時、「ネ」の書き順を間違えたため、そちらに話題がうつってしまった不遇なペン。
(注8)ブッコローが配信で語った自称。ブッコローは恋愛相談専門の配信まで行っており、その時はとても楽しそう。
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