第10話 次の敵は○屋書店
『ブッコローの心にも、ガラスペンを愛する気持ちが育ってくれて嬉しいですね』
「そ、その……元の世界に戻る件は……」
『ええ、叶えてさしあげましょう。元の世界でもしっかり働くのですよ』
ブッコローは心の中で快哉を叫んだ。
「はい! もうガラスペン大好きですから!」
『そして、○mazonから安物のガラスペンを買おうとする、全ての客を引っ張ってくるのです。頼みましたよ』
そいつはちょっと無理なんじゃないでしょうか。そう思ったが、口に出す前にブッコローの意識は遠のいていた。
「……あれ」
ブッコローが意識を戻すと、道端にぽつんと立っていた。その横を、学生や会社員とおぼしき人々が通り過ぎていく。
「帰ってきたのかな?」
そうつぶやきながら足元を見ると、ブッコローが愛用していたジ○ット○トリームが落ちていた。
「戻ってきたんだ……」
ブッコローの中に、じわじわと喜びがわき上がってきた。これで家族に会える。
「あ、ブッコロー。帰ったと思ったのに、そんなところにいたんですか」
「ひい、ゴッド・ザキ!!」
「なんですか、それは」
横にたたずんでいたのは、本物のザキさんだった。普通に地面に足がついているし、変なオーラもまとっていない。
「ザキさんか……仕事早上がりでしたよね、なんでここに?」
「○屋書店(注11)のガラスペンフェアに行ってました」
「行ったんかい。ホントにガラスペン好きですね。どうでした?」
「……すごく良かったです」
「敗北感丸出しにしないでくださいよ」
ザキさんがちょっとしょんぼりしているので、ブッコローは翼を大きく広げた。
「有隣堂でもやればいいじゃないですか。珍しいペンをいっぱい集めて」
「そのつもりですよ。ただ、見直さなきゃいけないなあと思った点が多かったので」
ザキさんはふと宙を見つめた。
「あ、そうだ。ブッコローモデルのガラスペン(注12)も作ったので、そこで売りますね」
「モデルに断り無く作ったんですか?」
「作りました。五本」
「しょうこりもなく……」
「ブッコローにも一本あげます」
「全部くれよ」
ブッコローはため息をついたが、ザキさんが元気になったので安心した。明日からは、何もかも元通りだろう。さようなら、ゴッド・ザキ。やり方は強引だったけど──ちょっと楽しかったよ。
(注11)皆が知る大手書店、有隣堂の良きライバル。有隣堂より早く大規模なガラスペンフェアを開催し、ブッコローに危機感を抱かせた。
(注12)職人さんに五本作ってもらったのだが、本人がもらえたのは何故か一本だけ。残りは売られた。
ガラスペンの国のブッコロー 刀綱一實 @sitina77
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