第3話 うるせえ

「あ……」


 女子高生は振り向き、荷物を改めた。


「すみません、私のです。ありがとうございます」

「つぶつぶきいろってお洒落ですよね。僕も好きなんで……」

「え、本当ですか。嬉しいです」


 なんだかいい感じになるカップルを見て、ブッコローは激しく微妙な気分になっていた。なに、好きな映画がかぶった時みたいな反応になってんの?


「同じ学校ですよね。今度お茶しませんか?」

「じゃあ……」


 ブッコローはここで、男女の視線を割るように飛び上がった。女子は目を丸くし、男子は一瞬嫌そうに顔をしかめる。


「……ガラスペンの趣味だけでそんな盛り上がることあります?」

「ありますよ!」


 二人の声が重なった。


「ガラスペンは個人の趣味が現れる重要アイテムじゃないですか!」

「ガラスペンの不一致で別れるカップルも居るんですよ!」

「しれっと性格の不一致みたいな感じで言わないでもらえます?」


 そのカップルは元々結ばれない方がよかったんだ。


 冷めた思いが伝わったのか、女子がさらに力説する。


「本当ですよ。軸が木のガラスペン(注4)は、私絶対許せないんです!!」

「わーなんか記憶にあるアイテム出てきたー」

「僕も許せません!!」

「ですよね!!」


 ブッコローが引いている間に、男女はますます盛り上がる。ついていけなくなったブッコローは、すごすごとその場を去った。


「疲れた……カフェでなんか飲むか……」


 幸い、所持金はそのままだった。ブッコローは学生に人気のカフェチェーンに入り、アイスコーヒーを注文して席についた。


 ゆったりとした店内では、多くの学生たちがノートやパソコン、タブレットを広げて勉強をしている。


「あー、こういうとこの方が家より集中できたりするよね……」


 ブッコローはうなずきながら、静かにコーヒーをすすった。


「落ち着いてこの後の事を」


 カリカリカリカリカリカリカリ


「考えないとなあ……」


 カリカリカリカリカリカリカリ


「こんなにガラスペン推しの世界とは思わなかったな」


 カリカリカリカリカリカリカリ


「…………」


 周囲からガラスペンを走らせる音がひっきりなしに聞こえる。


 ブッコローは思わずつぶやいた。


「うるせえ……」


(注4)通常ガラスペンは全体がガラスでできているが、安い物はペン先だけがガラスで軸は他素材、ということもある。実際有隣堂の動画にも登場し、軸に「ガラスペン」と彫ってあるのが虚しいと評判だった。

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