第8話 ブッコロー、死す……?

「うわ、なにこれ」


 ペン先からスムーズにインクが出てこないので、力を入れて押しつけるためギリギリと音がするくらい硬い。しかもインクの吸い上げが悪く、すぐに補充しないとなくなってしまう。


「なんだこれ、ペンがダメだな」


 ブッコローは顔をしかめた。おじさんたちが近寄ってきて、そうだろうとうなずいている。インク壺は返してほしいと言われたので、ブッコローはその通りにした。


「どこで買ったんですか、そんなペン」

「ここの外に店が出てたんだよ。くそ、レースがなきゃとっちめに行くのに」


 ブッコローはそれを聞いてぴんときた。もしかしてその不届き者をやっつければ、ゴッド・ザキの機嫌も直るのでは。


 そそくさと券売機から離れ、言われた場所に向かった。確かに公園を見下ろす高台の上に、テントが出ている。「勝利を呼ぶガラスペン」と、うさんくさい但し書きもついていた。


「いらっしゃい」


 不自然に長いローブで顔を隠した店主が、低い声で言った。彼の目の前に並ぶガラスペンには、一本千円と値札がついている。


「安いな」

「お買い得だよ」

「……でも、全然書けないなら意味ない」


 ブッコローがそう言うと、店主はわずかに身じろぎをした。


「おじさんたちが怒っていましたよ。今すぐ店をたたんで謝罪したらどうですか」


 ブッコローが言うと、店主が急に立ち上がった。


「謝罪? 俺は商売をしただけだ」

「詐欺師はだいたいそう言うんだよ」

「……あくまで邪魔をするというのか。面白い、相手になってやろう」


 店主はローブを脱ぎ捨てる。真っ黒な体に大きな翼、尖った形の目と口に鋭い爪。ゲームで見たことのある、悪魔のようなモンスターが現れた。しかもそれはみるみる大きくなり、ブッコローに覆い被さる。


『我はガラスペンの悪魔……地上を劣悪なガラスペンで満たすのが我が使命よ』

「……見た目は怖いのになー、野望がみみっちいんだよなー」

『黙れ、矮小なフクロウが!!』


 悪魔はその言葉に切れて、鋭い爪を左右に動かした。ブッコローはとっさに後ろへ飛びすさる。


 危ないところだった。一秒前にブッコローがいた場所に、爪でえぐったような傷が深く刻まれている。


「え? なんでいきなりこんなガチバトルな世界に?」


 ブッコローが戸惑っていると、悪魔はさらに攻撃を仕掛けてくる。本しか持っていないブッコローは、ただ逃げ惑うしかできなかった。


『ちょこまかと!』


 悪魔が爪で地面をひっかくと、耐えがたい不快な音がした。ブッコローは思わずうずくまる。


『くくく……劣悪なガラスペンでたてる音は神経に響くだろう』

「黒板を爪でひっかいても同じような気が……」

『やかましい!』


 悪魔の連続光撃が放たれた。うずくまっていたブッコローはとっさに地に伏せるが、そんなことで逃れられはしない。


「ぎゃっ!!」


 砂煙があがる。灰色の煙が落ち着いた時には、裂かれた石畳の上に、腹から血を流して横たわるブッコローの姿があった。

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