35歳の風俗嬢でも幸せになれますか?(後半)

 35歳になりました。もう限界です。私目当ての客は片手で数えられるほど。指名は月に数度。たこ焼きさん太郎一人の月もあります。若い娘のヘルプとして後輩の育成を任される日々。収入は全盛期の数十分の一。エステもジムも退会。髪も肌もボロボロになった私にもう価値はないのでしょうか?

 ホスト遊びを断ち貯金を始めました。でも全然足りません。月200万円の高級マンションから月15万円のアパートへ。でも貯金は増えません。外食をやめて久しぶりの自炊。料理の腕は鈍っていませんでした。

 そんな時です。オーナーから「もうそろそろ…」と引退勧告。まだやれる。まだ頑張れる。そう思いたかった私。でも売り上げは芳しくなく。キャストの中で最底辺。新人を除けば最下位に落ちぶれました。もう一度だけ挑戦してみよう。そう思って返事は保留したまま他のお店の面接を受けました。でも快い返事はなく。挙句の果てに「35歳ねえ…熟女専門店、どこか紹介してあげようか?」なんて言われる始末。今後の人生設計どうすれば良いのでしょう?

 多くの先輩が寿退社で風俗界を去りました。若い頃はそんな先輩を見て「プークスクス。要するにもう売れなくなったんでしょう?」なんて内心笑い蔑んでいた道。でも自分が35歳にもなると「それも良いかな」と考えが変わりました。唯一磨いてきた美貌も肉体も衰え。貯金もなく。多くの男性に抱かれ汚れ切った私。誰か貰ってくれるでしょうか?

 不安は尽きません。でも他に道はありません。そうなると問題は結婚相手。15年に及ぶ風俗生活で数名「これは」という優良物件をリストアップしてあります。


 第一候補。ホストクラブ四面楚歌のトップに上り詰めたタケ君。現在24歳で一回りも年下。大金を貢ぎタケ君を育てたのは私。ベッド内外の数々の手練手管を教え込みました。きっと私に感謝しているから恩を返してくれるのでは?「色々教えてくれたのは、もちろん感謝しているよ。だけどそれとこれとは話が別。お店で豪遊したのはそっちの勝手でしょ。大体、最近全然会いに来てくれないじゃないか。話があるならお店で聞くからさ」金の切れ目が縁の切れ目。あんなに可愛かった少年も今ではすっかり私のようにスレちゃって…って。そうです。常連さんの私的な誘いを「お店で逢いましょう」と断る方法を教えたのは私でした。タケ君にとって私はただの太客でしかなかった。信じていたのに。頬を熱いものが流れます。タケ君にフラれてこんなにショックを受けるなんて。想像もしていませんでした。

 泣いていても仕方がありません。次は同じお店のジュン君に狙いを定めます。29歳のジュン君とは話が合います。いつも共通の趣味の話が出来ました。「久しぶり。え、結婚…って何の話だよ。それより、またお店に来いよ。一緒に飲もうぜ!」営業トーク。あんなに仲良かったのに。そう思っていたのは私だけ?

 もう他の人に電話する勇気が出ません。ご飯を作る気力もなくベッドに潜り込む私。二人の温もりを思い出して寝付けませんでした。


 珍しく早起きした私。ホストの面々はもう無理。ターゲットを太客に変更します。私が移籍した後も追いかけてくれたキョウ君。資産家の息子らしく金払いが驚くほど良い。見た目も悪くない。茶髪でチャラいところに目を瞑れば年齢も近く体の相性もばっちりです。「あ~結婚は考えてないんだ。愛人もいっぱいいるし~、残念だけど~。え~お店辞めるの。そっか~、ちょっとヤリたい時にちょうどイイ女だったのにな~。もうヤレなくなっちゃうのか~。まいっか、バイバイ」うん知ってた。そういう奴だって。遊びだって。私だって遊びだったし…全然悲しくも悔しくもないし…強がっても心に生まれた空白は埋まりません。

 切り替えて。心を落ち着かせて。次の候補に電話します。起業家のヨシダさん。52歳の今も性欲は衰えず。既婚者ですが別居状態のまま10年。離婚届はいつでも出せると言っていました。変態っぽい赤ちゃんプレイがウザい。纏わり付くような湿布と怪しい薬の匂いも嫌。でも年齢的に私より先にあの世逝き。少し我慢すれば遺産は全て私のもの。「君か。ちょうど良かった、今晩…え、結婚して欲しいって…離婚はまだしないのかって…実はね、あれはウソなんだよ。別に構わんだろ、お店でちょっと遊ぶだけの関係なんだ。他の店では別の設定でだね…もういいって、そうか。で、今晩ど…」ガチャ切り。くやしい。あんなジジィにまで騙されていたなんて!

 他の太客にも電話しました。どいつもこいつも似たり寄ったりの返答。「お前ホスト界隈で有名だぜ。すぐヤラせてくれる尻軽女ってな」そんな噂まで聞きました。沼らせる筈が逆に泥沼に嵌っていたのは私でした…私の15年は何だったのでしょう?


 最後に残ったキープ枠。たこ焼きさん太郎。お金は持ってなさそう。ぶっちゃけOKされても困る。でもこの流れなら絶対に断られるって。確信めいた何かがありました。だから迷わず…いいえ違います。本当は彼なら断らないんじゃないかって。藁にも縋る思いだったのかも知れません。震える手で電話を掛けました。「僕なんか眼中にないと…まさか電話をくれるとは思わなかったよ」受話器の向こうで笑う声。何だか馬鹿にされたような気がしました。「結婚?…ごめん…」声のトーンが落ちます。ああ絶対にダメだ…絶望感。死にたい。「会って話したい」最後のHかな…もう何でもいいです。


「少し歩こうか」顔も見れない私。「昔、いつも一緒に手を繋いで歩いたよね」手を…って何の話?「初めて見掛けた時、初恋相手の面影があって驚いたんだ。だけど顔が違うし、別人かと思ったよ」何を言って…?「たこ焼きの味であれって思って。胸のチャーミングなホクロで確信したよ」まさか?「僕、ワタルです。高校の時に一緒だった。家のこととか色々話をしたよね」ワタル君!?「ごめん、女の人から告白させちゃうなんて、やっぱ僕はダメな男だ」自嘲気味なワタル君。「ずっと好きでした。高校を出た後も、ずっと気になってた。甲斐性なしの僕だけど、貴方を想う気持ちだけは誰にも負けません。ささやかな生活を、僕と二人で。一緒に過ごしてくれますか?」涙でぐちゃぐちゃの私を抱き締める彼。とても温かくて。昔と変わらず優しくて。太陽の匂いがしました。


 プライドを失い。体を売り。賞味期限切れの。こんな私でも幸せになれました!

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35歳の風俗嬢でも幸せになれますか? 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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