架空戦記というジャンルがある。
この作品は見事な架空戦記と賞賛を送りたい。
異世界に現実の技術が流入。この異世界は当然ながらファンタジーである。けれどそれで決して誤魔化すようなことはなく、歴史やミリタリーについてが丁寧に精密に描かれているのだ。
つまりこれは、見事なファンタジーとミリタリーの融合と言えよう。
ただしこの作品の魅力はそれだけではない。
人間模様あり、策略あり、決戦あり。
架空戦記が好きな人にはぜひ読んでいただきたいし、架空戦記を読んだことがないという人にもおすすめしたい。
このような世界もあるのだなと、のめり込んで読めること請け合いです。
ぜひご一読ください。
一話目から引き込まれる壮絶な地上戦―—。
これは戦争の時代を舞台に死闘を繰り広げた指揮官、《知将》たちの物語です。
……と、聞くとコテコテのミリタリー戦記の話だと思うでしょう。
しかし、これは「人が繋ぎだす、温かな縁」を描く素敵な物語です。
知将が軍を動かしぶつかり合う――それは憎しみと敵意を剥き出しにして、命と誇りを賭けた血みどろの戦いをイメージしますが、本作が最後で優しく映し出すのは《人が人を想う事の大切さ》です。
完結し、読み終えてからもなお、僕の心に残りって時間が経った今でも好きである本作が、多くの方にお読み頂ける事を願っております(*´ω`*)
第一次~第二次世界大戦あたりを中心とし、現実世界の人員や技術が異世界『ライズ』に流入した舞台で、クロア公国で巻き起こった内乱を描いた、重厚なファンタジー×ミリタリー戦記でした。
帝国派には、軍人が最初に習うべき教科書的な偉人『ハンニバル』の再来とされる、ジョージ・パットンが。
その勇将に立ち向かうのは、ハンニバルを乗り越えて打ち倒した『スキピオ』を名乗る大公派のアルフォンソ・アッパティーニ。
更にアルフォンソの優秀な部下として、女性参謀のヴェロニカ・フォン・タンネンベルクも加わり、共にパットンへと挑む。
異世界における架空の戦い『イリッシュの戦い』を描いた物語ですが、まず何よりもミリタリーや歴史の知識が、実に精密で正確でした。少しでもファンタジー要素で誤魔化したり、ご都合設定を持ち出すと硬派な作品の雰囲気が台無しになるのですが、そういった違和感は最後まで存在しませんでした。
史実に登場した軍人や戦車だけでなく、戦艦や航空機、歩兵の武器や車両、それに加えてワイバーンや魔法といった異世界の要素も盛り込みつつ――加えて貿易や外交、宗教と政治、諜報や国際情勢などなど、それら全てが破綻することなく、作中の『大戦』を構成する歯車として、シッカリ機能していました。膨大な知識や設定で組み立てられているのに、歪さが一切ないまま名作としてそびえ立っているのは、素晴らしいの一言です。
来たるべき戦いの準備をし、決戦では奇策と奇策の応酬で息もつかせぬ展開が続き、末端の兵に至るまでそれぞれが最善を尽くして戦い、戦場の臨場感を心ゆくまで味わえました。
もちろん下士官だけなく主要キャラのアルフォンソやヴェロニカの個性も、それだけでなく立ち塞がる壁のパットンやその部下達までもが魅力的で、敵も味方もどっちも応援したくなる見事な造形でした。
というか戦争である以上、どちらが悪で正義、敵や味方ということはなく、どちらにもそれぞれの物語があり、各人がこの戦いの主人公なのだなと。それを感じ取ることができた部分も、実に好印象でした。
単なる戦争モノで終わらず、それぞれの人生観や信条、戦争や人間の真理がリアリティを持って描かれており、あらゆる部分で隙のない、完成度の高い作品だと思います。
ただ序盤で架空の国家や人名が複数出てきて、それらの政治情勢や国際関係など、複雑に入り乱れた相関図のせいで、ライトに読むことができないのが難点かな、とも感じました。
戦記モノなので『軽すぎる』のも良くないですが、やはりただでさえ読む人間を選ぶジャンルなので、受け入れる門戸をもう少し広げる工夫や努力は必要だったんじゃないかなと思います。
最後まで読めばエンタメ性バツグンですが、逆を言えば最後まで読まないと本作の魅力が伝わりません。なので『入り』の部分で、もっとキャッチーさがあれば良かったです。これだけ面白いのだから、もっと多くの人に読んで欲しいですし。
とはいえ、歴史好きやミリタリーオタクにはもちろん、それらに馴染みのない人でも楽しめる内容だったと思います。……てかコレ無料で読んで良いの!? 2500円くらい払うべきじゃない!? と感じた作品でした。面白かったです!