第5話 やっぱりお金の話

 無事に本が出版されても実際にお金が入ってくるのはもうちょっと後になります。この間、他に収入がないと霞を食って生きなくてはなりません。それに1冊本が出版されて入ってくる金額も通常はそれほど大きなものではないでしょう。つまり、別途生活をしていく収入源は必須です。はっきり言って当節、新人小説家はそれだけでは食べていけません。


 ちなみにいくらなんだよ、というのは気になりますよね。本当は新巻の生データを示すことができればいいのですが、第1話で書いたとおり、秘密を守るお約束になっているので明かせません。というわけで、公表されている貴重なデータを使わせていただきましょう。


 3年前の事件ですが、ラノベ4冊書いて2年間で320万円の収入を得ていた休職中の公務員が処分されました。つまり1冊80万円。冊数も私より1冊も多いですね。悔しい。それはさておき、生活するには微妙な金額です。前話のとおり、1冊出すのに7か月かかってますからね。年2冊が限界。少なくとも東京では160万円では生活していくのは相当に厳しいでしょう。税金と社会保険料も引かれますからね。


 同じぐらいの時期にアニメ化した作品の作者と自称する方が1年間の収入が1400万円で夢がないと嘆く投稿を見かけました。確かに夢は無いですね。コンスタントにこのレベルの本を出し続けることができればいいのですが、それはトップに君臨する一握りの人だけに許されることです。


 小説を出して人生一発逆転というのはかなり難しいと思います。大卒正社員の生涯賃金は約2億円、それを印税で稼ごうとすると300万部ぐらいは売れなくてはなりません。令和の時代には相当厳しいです。ということで、世知辛いですが、小説家を目指すなら安定収入が不可欠。まずは堅実な就職先を手に入れるところから始めましょう。


 爆発的な収入増は難しいですが、80万円も副業として見ればそこそこの金額です。家電が急にお亡くなりになっても慌てずに済みますし、たまにはちょっと贅沢な外食もできます。それとですね、昔と違って今は出版時だけでなくてそれ以降も継続的にお金が入ってくるんですよ。ええ、電子書籍のお陰です。


 拙作が最後に出版されたのは2023年の5月25日。それから1年半の間、印刷物としての本は出ていません。それでも、KADOKAWA様から振り込みを頂けるんですよ。これがとても有難い。何もしなくてもお金が入ってくるなんて。このタイミングにおいてはまさに不労所得。私の好きな言葉です。


 それと、もう1つの収入源がコミカライズの原作使用料になります。こちらは最新刊が出たばかりなんですが、それは別にしても過去作の電子書籍の売上が入ってきます。これが結構な金額になるんですね。一時期ネットでラノベ作家さんがコミカライズしたいと合唱していたのが分かる気がします。


 ぶっちゃけ、発行部数ベースで比べると原作小説とコミックでは後者の方が圧倒的に多いです。これは拙作だけじゃなく一般的な傾向でしょう。比較対象がアレですが、『呪術廻戦』は累計1億部ですからね。『薬屋のひとりごと』で約1400万部らしいので7倍ほどの差があります。


 ということで貴重な収入源からお金が入ってきていますが、それなりにインパクトのある金額です。本業の給料と合わせると結構な額の税金を納めなくては……。書籍関連のお金は確定申告を済ませるまでは迂闊に手を付けない方が良さそうです。消費税も納めなきゃいけないですし。


 商業作家になったらサラリーマンとの兼業でも確定申告が必要になります。慣れてないと結構メンドクサイ。それとお賃金と違ってこちらの税金は後払いなので、ちゃんと支払い分を別に分けておく必要があります。80万円入ったからと全部使うと3月末に泣けます。まあ、出版社が先に10%分の所得税は引いてくれているので、本業の収入が大きくなければそれほどダメージはないかもしれません。


 出版社による所得税の源泉徴収があるので、出版印税の脱税はかなり難しいと思ってください。名寄せされると一発でバレます。『薬屋のひとりごと』のコミカライズの作画担当の方が脱税で有罪判決を食らってましたよね。きちんと税金は納めましょう。サラリーマン兼業作家なら印税にはクソ高い社会保険料がかかりません。残業で同額を稼ぐより圧倒的に手取り額が多いです。


 というわけで、5回に渡って書いてきましたが、カクヨムコン10でデビューするのはあなたかもしれません。受賞した暁にはこの話を思い出して参考にしていただければ幸いです。


 ではでは。

 

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末端商業作家のつぶやき 新巻へもん @shakesama

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