第4話 契約書って超ムズイ?
前話で出版権設定契約の話が出てきました。契約書を実際に取り交わす時期はかなり遅めです。新巻の場合は出版の1か月前を切っていたかな。コンテストで受賞していたのでその辺は鷹揚に構えていましたが、そうじゃないと本当に本が出るのかとちょっとやきもきしたかもしれません。
実際、他社さんで揉めた挙句に出版が取りやめになった事例というのを聞いたこともあります。ただ、新巻の場合は受賞の賞金を頂いていました。万が一契約を結ばないという話になっても新巻に責任が無ければ少なくとも賞金まで返せという話にはならないはず。出版社側はその費用を回収しなければならないので、いずれ契約はするんだろうなと思ってました。
賞金が出ているケースはいいけど、そうじゃないときは作家側が不利じゃないかと思われる方もいるかもしれません。でも、この辺はそうとも言いきれない事情があります。というのも本がほぼ出来上がった状態で契約を結べば、作家側には実際にはほとんど義務がありません。
ところが最初に結ぶとなると当たり前ですが作家にも原稿を完成させるという義務が生じます。期日までに間に合わなかったり、怪我などでまったく書けなかった場合にどうなるか? 作家側に損害賠償義務が発生してしまいます。まあ、ビジネスなんだから当然ですね。印刷、配本、宣伝などの費用が無駄になり、作家に払ってねと言われても個人にはなかなかキツイ額になるでしょう。その点を考慮すると今の形になるのは無理もない気がします。
さて、契約書ですが、KADOKAWAさんは法人なのでひな型があり先方が原案を作って送ってきてくれます。4ページ約20条に渡る内容となっていました。契約書なのでちょっと取っつきにくい。「甲は乙に対し……」という書き方になっているあれですね。
一般的な生活を送っているとなかなか契約書を交わす経験なんてないでしょう。慣れていないと簡単には目を通すことすらできません。ごりごりに固い文章で「以下〇〇という」という読み替え規定もあり、「前条の規定にも関わらず」なんて書かれていると頭は疑問で一杯になるでしょう。内容的にもそれでいいのかどうか判断に悩むところだと思います。
新巻は仕事で契約書を作成していた経験があったことが役に立ちました。通常は新巻のいた事業部署で契約書を作らず総務部門がやるのですが、そこの業務だけはなぜか事業部の担当者任せという状態。一応14億円の案件なんですけど、とぼやきながら契約書を作りました。まあ、過去例はあるので一から作るわけじゃないんですけどね。
でも、金額が金額ですし、先方も大手企業さんなので顧問弁護士が出てきて当方の案に難色を示したりします。そのすり合わせをするのでそれなりに契約書には慣れていました。新巻が本業で雇われている会社には色々と言いたいことや恨みもあるんですけど、何が役に立つか分かりません。
一般的には意味が変わらないけど契約書の世界だとニュアンスが変わる言葉というのもあるんです。例えば「直ちにしなければならない」と「速やかにしなければならない」の違いって分かります? どっちも同じような意味だと思いますよね。実は「直ちに」の方が縛りがきつく、今すぐってぐらいの感じになります。「速やかに」はちょっとぐらいのんびりしていてもOK。知らないと分からないですよね。当たりまえですけど。
まあ、そんなに神経質にならなくても天下の大手出版社があこぎなことはしてこないと思います。ただ、契約書というのは普段は紙切れですけどトラブルになったときに滅茶苦茶効力を発揮するものなので、よく見ておく方がいいでしょう。ちなみに弊社は極悪なので受託者から弊社に著作権を譲渡させる契約書を作る社員も居ます。すげー。
てな感じで、契約書が2部作られ、送られてくるので記名押印して1部を返送しました。ここまでくると作家にできることはありません。発売日を楽しみにして待ちます。で、本屋を巡ってウロウロするんですが、やっぱり変な気持ちになりますね。
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