第14話 晦渋
[名・形動]言葉や文章がむずかしく意味がわかりにくいこと。また、そのさま。難解。(デジタル大辞泉)
という意味。
東京大学准教授の斎藤幸平氏による『100分de名著 ヘーゲル 精神現象学』(NHK出版)で、ヘーゲルの難解な文章を紹介する際に、
―――(中略)という部分も晦渋で何を主張しているのか判然としません。
とある。これは形容動詞としての用い方であるが、要するに「ムズい」と言っているのである。
ヘーゲルが『精神現象学』を世に出したのが1807年。日本では江戸時代、文化4年。歴史の授業で習う「化政文化」の「化」の時代である。与謝蕪村や小林一茶、十返舎一九の時代だ。
そりゃあ、そんな昔に書かれた哲学の文章なのだから、読みやすくはないだろう。
しかし古今東西問わず、他の誰よりも、彼の書く文章は「晦渋」という字面に相応しい。
ヘーゲルの『精神現象学』は、日本語訳されたものを何度も手にとった事があるが、1ページも理解できなかった苦々しい記憶がある。ハタチ手前で初めて出会って、50歳を超えた今でも、わけがわからない。彼の書く文章を、思想を、理解できる自信がない。古事記の原文の方がまだ理解できる。
というか、翻訳者自身、きっとワケがわからないまま訳している気がする。誰の訳とは言わないけれど。睡眠薬を飲んでも眠れない人に、オススメしたい。誰の訳とは言わないけれど。
ヘーゲルについては「弁証法」をテーマに、また詳しく取り上げたい。
「晦」とは、みそか、である。旧暦の「みそか」は、月の出ない闇夜である。つごもり、ともいう。月が、籠る。見えなくなるから、つごもり。「晦」と書く。
「渋」は、もう私たちは味覚で知っている。表情で示すことだってできる。ただここでは「渋滞」と同じ使いかたをする。すらすらと進まない、という意味だ。
いっそのこと「ムズい」と言ってしまえばそれで伝わるのだけれど、昔々に中国から輸入されたこの熟語、その字面から、やはり、使いやすいのだ。
「晦渋」という言葉の懐の深さといったら、もう、すごいの。
難しい
分かり難い
難解
深遠
高度
ハイブロー
歯が立たない
しち難しい
小難しい
難解
ちんぷんかん
ちんぷんかんぷん
不可解
至難
ハードルが高い
「デジタル大辞泉」で挙げられた類語たち。これら全部「晦渋」という表現に置き換えて違和感ない。
とりあえず、訳知り顔で「晦渋」って使っておけば、ちょっと何だか、知的な香りが漂う気もする。
すごい語彙。
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