第6話 子羊の目覚め 瑞葉

 三年生の浅香晴美あさかはるみが、いつの間にか来ていた。一部始終を見ていたようだ。慈代やすよが自分のバッグの中から台本を準備しようとしていると、晴美がやって来た。

「女優さんね」

「晴美」

恵人けいとが慈代のところに行く。

「ごめん」

台本を持った手を止め、恵人の方を見る慈代。

「本当よ。傷ついたんだから……」

「ごめんなさい」

「慈代を傷つけるなんて、ダメなんだぁー」

晴美が微笑みながら、恵人を指差して言う。


 三年生の優香ゆうかがやって来た。

「恵人、本当にダメだよ。あの日、慈代、泣きながらうちに来て大変だったんだから」

「え?」

「『家に行ったら、恵人君が瑞葉ちゃんと玄関でキスしてた……』って言って、夜までうちで泣いてたのよ」

「慈代を泣かせるなんてサイッテー。そんなことしてたら雅也まさやみたいになるよ」

和美がそう言って清田きよたの方に歩いて行った。そして、何か笑いながら、隣にいた雅也の頭をはたいている。


演劇部部長の松宮麗まつみやうららが、

「みんな集まって」

と集合をかける。副部長の桐原英司きりはらえいじと並び連絡事項を伝える。

「今日は二時から台本の読み合わせをします」

宮原一美みやはらかずみ先生が来られるから頑張ってね。


そうして今日の練習が始まった。

今度の舞台の台本の読み合わせだった。

その日の練習は六時頃まで続いた。


 その日の夜、瑞葉は、慈代とのキスを思い出した。思い出すと、また、どきどきしてきた。何なんだろう……この感情は……今までなかった感情だった。『自分は何か変なのだろうか? 忘れよう、眠って忘れよう。明日になればきっと普段通り、今日はいろいろなことがあって、私おかしいんだ』そう思い、目を閉じて眠った。


 夢の中に慈代が出てきた。夢の中でも忘れられない……思い出す。夢の中で、美しい慈代の顔が近づいてくる。慈代がいつも身に付けている心地よい香水の香りに、どこか別の世界へいざなわわれるような、そんな不思議な感覚に包まれる。

 慈代の唇が自分の唇に重なる……瑞葉は身体からだの奥深いところを刺激されたような気持ちよさを感じた。『だめ……慈代さん……』慈代が唇を合わせてきた。身体が熱く溶けていくような、気持ちいい……心臓が高鳴る『……っ』かすかに吐息が漏れ、息が上がっているのがわかった。そう思った瞬間、目が覚めた。

 身体が熱い。身体の奥から全身にひろがる気持ちよさ……身体が心も興奮しているのがわかった。『どうしよう……これって……』


 その夜、瑞葉は憧れなどではなく、本当に彼女を好きになっている自分に気付いた。



第三章へ続く

子羊たちは眠らない 第三章 悲劇に微笑みを

https://kakuyomu.jp/works/16817330653673113286


「子羊たちは眠らない」

*これまでのすべての章*

子羊たちは眠らない 第一章

https://kakuyomu.jp/works/16817330653285764251

子羊たちは眠らない 第二章

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子羊たちは眠らない 第三章

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子羊たちは眠らない 第四章

https://kakuyomu.jp/works/16817330653725973697

子羊たちは眠らない 第五章

https://kakuyomu.jp/works/16817330654724546879

子羊たちは眠らない 第六章

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子羊たちは眠らない 第二章 子羊の目覚め KKモントレイユ @kkworld1983

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