第6話

朝食を食べ終えた俺は庭に出て、木でできた剣を握りしめていた。

父であるリオンから剣術を教わる為だ。


キタキタキター!

ついにこの時が来たのだ。

白い人型から剣と魔法の世界と聞いてからずっとこの時を楽しみにしていたのだ。

前世でたまに両親に連れられ万引きしに行ったデパートのテレビで流れていたアニメをずっと眺めていたものだ。


「よし、ではカイン、これより剣術を教える。」


「はい!」


こうしてついに俺は剣と魔法の世界に足を踏み入れたのだ!


父リオンとの稽古は素振りや基本的な型から基礎体力作り、筋トレなど

基礎の基礎から丁寧に教えてくれる。


「カイン!もっと強く踏み込め!

そんなんじゃあ当たらないぞ!」


「ハァ、ハァ、はい!」


リオンとの稽古を初めてもう3ヶ月になる。

今は木刀をつかってリオンと模擬戦の真っ最中である。

流石元Bランク冒険者というだけあってリオンの剣術は見事であった。

何度俺が攻撃しても当たらないしリオンの攻撃はバカスカ当たるのだ。

いくら手加減をしていて木剣だと言っても当然痛いしアザもできる。

3ヶ月もすれば俺の体はアザだらけになった。


「うーむ。どうやらカインには剣の才能はあまりないみたいだな。」


上段からの振り下ろしを綺麗に避けられて逆に足を引っ掛けられて転ばされた俺にリオンはそう呟く。


「いてて、やはりそうですか…」


これは俺自身感じていた事だ。

最初の頃は少しずつ上達を感じていたのだが

段々と成長速度が遅くなっているように感じる。


「まぁまぁ良いじゃ無いですか、気長に続ければ、魔法の方も少しずつ上達しているのですから。」


「母様…」


そう、剣の修行が始まって少ししてから俺は母親から魔法についても教えてもらっている。

午前中は父から剣、午後からは母から魔法を学ぶのが俺の日常だ。

まぁ残念ながら魔法の方も才能が無いのかあまり上達はしてないが…


「今日もいっぱい青タンできちゃいましたね。

聖なる光よ、この者を癒したまえ『ヒーリング』…はい!これで痛くなくなりましたね。」


「ありがとうございます!母様。」


こうやって剣の修行が終われば母はいつも僕の怪我を治してくれる。


「にーちゃん!お疲れさま!はいっ!」


そう言って妹のニーナがタオルを渡してくれる。


「ありがとうニーナ」


俺はタオルを受け取り妹の頭を撫でる。

これだけで修行の疲れや痛みなど全て吹き飛ぶ。

才能が無いからと何度心が折れそうになっても修行終わりのニーナの笑顔を見るだけで元気になる。

いくら才能が無くても妹を守る為に強くなろうと頑張れる。


「みなさん!ご飯ができましたよ。」


午前中の修行が終わればメイが呼びかけてくれる。

家族揃って食堂に入ると大きな肉がいい匂いを撒き散らしながら食卓に並べられていた。


「今日は新鮮なワイルドボアの肉が手に入ったんでな!体を作るには肉が1番だ!おかわりもあるからいっぱい食って強くなれよ!坊ちゃん!」


ワイルドボアとは大きな猪のような魔物で突進力がありなかなか捕まえるのが大変なのだが肉は大変美味でかなり人気の魔物だ。


「わー!美味しそう!ありがとうウガンさん!」


「全く、そんな事言ってほんとお前は肉料理作るのが好きだな…」


そう言って皆んなで食卓に着き、笑顔で食事をする。

前世では考えられなかった事だ。

大人になってからは1日の食料を手に入れる事が大変だったし、幼少期は両親どちらかが捕まっていないことがほとんど、家族での食事も無銭飲食がざらだった。

こんな生活がいつまでもつづけば良いのに。

才能は無いが、剣と魔法も使え、愛する家族に囲まれる幸せな転生生活をくれた人型の自称神とやらには感謝しか無い、いや、いつまでも自称神というのも失礼か、人生のどん底で過ごして来た俺にこんな夢のような生活をくれたのだ。

もう俺にとって神といって過言では無い。

前世では無宗教だった俺も今世ではあいつを神と崇めるのもいいかもしれないな。

そんな事を考えながら大きなワイルドボアの肉にかぶりつくのだった。




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