第11話
悠然とした足取りでブラッディーヴァイパーの方へ近付く二人。
乱れのない規則的歩調から、なんかこう強者の余裕というものを二人から感じられる。
やっぱ、強いってカッコいいなあ。
俺はとっくにおじさんだけど、圧倒的強さというものには少年心がくすぐられてしまうな。
この世界での人間は強い人は本当に強い。
それは例えば現世でいうケンカが強いとかボクシングが強いとかそういった類のレベルではない。
この世界でいう強さとはそれこそ一人で国を滅ぼしてしまえる強さであったり、地形を大きく変えてしまう強さだったり、山のようにデカい生き物を仕留めてしまえる強さのことである。
彼らはまさにスーパーマンでスーパーサイヤ人でウルトラマンなのだ。
そしてこの二人も例に漏れずそのような強さを持つ人間である。
いや、ここまでくると人間といっていいのか?
そしてどうして俺の側近なんかやっているんだ?
二人の戦う姿を見るたびに疑問に思ってしまうが、とりあえずお給料は払ってるし、エマさんもドラファルさんも楽しそうにやってはいるみたいだから、まあいいかと思うことにしている。
ブラッディーヴァイパーがその爬虫類特有の縦長の瞳で二人を捉える。
鎌首をもたげ、威嚇するかのようにシャアと鳴くが、二人は微塵も動じることなくさらに歩を進め、やがて止まった。
巨大なヘビの化け物を前にして、これから紅茶でも飲もうかといわんばかりの落ち着きっぷりである。
「ふぉっふぉっふぉ。
おぬしにはなんの罪もないが、ほっとくわけにもいかんのでな。
すまないが退治させてもらいますぞ」
「特殊個体を相手するのはひさびさです。
それこそ攻撃魔法の行使自体がひさびさかもしれません。
腕がなまっていないといいのですが」
「このところシマダ商会は平和そのものでしたからな。
我々が対応にあたるような事案がないことは喜ばしいことですが、少しばかり寂しいものです」
「でも、これから私たちがお役に立てる場面も増えてくるのではないでしょうか。
長い旅路です。
コウタロウさんが何一つトラブルに巻き込まれないなんてことは考えづらいですから」
「ふぉっふぉっふぉ。
それは確かに。
コウタロウ様はなにかとトラブルに好かれますからな。
いやはやこれからが楽しみです」
なにかとんでもないことを話しているような気がするが聞かなかったことにしたい。
そりゃあ、商会を立ち上げてからも色々とあったけども。
せっかくの旅行でトラブルなんて勘弁してほしい。
ん?
過剰戦力の二人がいる安心感から意識になかったけど、この現状もまさにトラブルの真っただ中なのでは?
「あっ、危ない!」
サリナが叫ぶと同時にブラッディーヴァイパーが二人に襲い掛かった。
どうやらブラッディーヴァイパーの方が痺れを切らしたようだ。
それとも自分よりはるかに小さい獲物が悠長に目の前で会話をしていることに腹を立てたのかもしれない。
奈落に続いているかのような大口を開けての飛びかかりだ。
二人を丸呑みにしようとしている意図がありありとわかるな。
牙もデカい。
遠目からでも牙全体に毒液が滴っているのが見えた。
エマさんとドラファルさんは軽やかにそれを回避。
回避されたブラッディーヴァイパーはそのまま二人の背後にあった大木に食らいついた。
シュウシュウとなにかが溶ける音がして、やがて大木が轟音を上げて倒れた。
ブラッディーヴァイパーが食らいついた部分が黒く溶けているのがわかる。
うわあ、あんなの食らったら即効お陀仏だよ。
殺されるにしてもあの毒液は勘弁してほしいものだ。
もし俺一人であのヘビと対峙することになったら、自らあの大口に飛び込むことにしよう。
毒で苦しみながら溶かされるのはご免である。
「では、コウタロウ様。
仕留めますゆえ、いつものお願いしますぞ!」
ドラファルさんがこちらに向かって叫ぶ。
……わかっていたけど、やっぱりやるのね。
一回ちょっとした茶目っ気でやってしまったことが、こうも尾を引くことになるとは。
あの時の自分を諫めたいものだ。
どうしてあの時はあんなテンションだったんだか。
本人曰く、この一言があるとバイブスが上がるらしい。
まだ二十代前半のエマさんはともかくドラファルさんはどこでこんな言葉覚えたんだ?
でもまあ、いつもこうして守ってもらっているんだ。
恥ずかしいけど、やるしかないか。
「あー、おほん。
ドラファルさん、エマさん。
やっておしまいなさい」
「ふぉっふぉー!
承知しましたぞ」
「お任せあれです!」
元気な返事くれちゃってもう。
俺は黄門様じゃないっての。
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