第8話

「一緒にクエスト受けてやるよ」


そう声を掛けてきたのは先ほど眺めていた最年少パーティーの剣士の少年だった。


俺は一瞬状況が読み込めずキョトンとしてしまう。


「えっと、それは俺たちに言っているのかな」


「ほかに誰がいるのさ。

 薬草採集でも物資輸送でもなんでもいいぞ。

 先輩である俺たちが冒険者のこと色々教えてやるよ」


おおう。


なかなか生意気な少年だな。


ずいぶんぐいぐいくるじゃないか。


「お誘いはありがたいけど、お断りさせてもらうよ。

 俺たちは冒険者登録をしに来ただけだしね。

 それにこちらは登録したてだよ。

 とても戦力になれないとは思うけど」


「だから言っているんだよ。

 あんたらが冒険者になりたてなのを理解してるからこうして誘っているんだ。

 受付でのやりとりを見る限り完全にビギナーなんだろ?

 ざっくりとでもクエストの流れだけ覚えておいたほうがいいだろ」


なるほど。


口調はあれだけど、この子は俺たちのことを思ってクエストに誘ってくれているみたいだ。


彼の仲間たちもこちらを見ている。


弓士の女の子はさも興味なさそうで、盾士の男の子は無表情、魔導士の女の子はちょっとおどおどしている。


剣士の少年を制止しないことから、このクエストのお誘いはどうもパーティーの総意であるらしい。


一体全体なぜ?


「なんかクエストに誘ってくれてるみたいだけど……どうしようか。

 おそらく彼らからしたら親切心のように思うけど」


「まだまだ陽は高いですしいいんじゃないですか?

 それに私も個人的に冒険者の活動というものが気になっていました」


「ふぉっふぉっふぉ。

 面白い展開になってきましたな。

 こちらも構いませんぞ。

 まだ若いとはいえ冒険者の先輩であることには違いないですからな。

 是非、ご相伴にあずかろうではありませんか」


おっと、参ったな。


二人とも意外とノリノリじゃないか。


こんな予定のつもりじゃなかったんだけども。


かといってこの後の予定なんてちょっとアントン君とおしゃべりしながらだらだら過ごすぐらいしかなかったから予定がないにも等しいしな。


まあ、いっか。


ちょっと疲れてはいるけどせっかくだ。


彼らの誘いに乗ってクエストを受けるのも悪くないな。


「わかった。

 君たちのご厚意に甘えさせていただくとするよ。

 よろしく頼む」


「決まりだな」


こうしておっさん、美女、爺さんのちぐはぐパーティーは急遽クエストを受けることに決まった。



受注するクエストは無難に薬草採集で決まった。


依頼書を持って受付まできたのだが、ここで問題が一つ。


なんでもパーティー名を決めなくてはならないみたいだ。


ちなみに少年たちのパーティー名は”狼の爪”というらしい。


なんだか既視感ある名前だ。


どこかで聞いたことがあるような気もする。


さて、決まっていない我々のパーティー名だがどうしたものか。


二人に聞いてみたが、俺に一任するとのことだった。


むう、なんとも人任せな。


どれだけ頭を捻って名前を付けたところでいずれ飽きがきてしまいそうだから、俺たちの外観を素直に名前にした。


”アンバランス”


もうこれでいいや。


二人が一任したんだ。


文句は受け付けんぞ。


「では、”狼の爪”と”アンバランス”でのパーティー申請受付ました。

 それでは行ってらっしゃいませ」


二つのパーティーで同じクエストに受注する際はこのように事前申請をする必要があるようだ。


なんでも依頼報酬を受け取る際のトラブル防止のためであるらしい。


うん、それは確かに必要だな。


なるほどなるほど、さっそく冒険者業について一つ知識を得た。


まあ、今後この知識を生かす場面がないといいけど。


なんせこちとらの目的は観光旅行だ。


今回みたいな薬草採取ぐらいならいいけど、討伐クエストなんて勘弁してもらいたいものだ。


そんなものに巻き込まれた際にはシマダ商会お抱えの冒険者に任せるとしよう。


目的の薬草がある草原地帯を目指し、少年パーティーたちと雑談しながらひたすら歩く。


彼らがこうして俺たちをクエストに誘ってくれたのは本当にただの親切心であるみたいだった。


右も左もわからなそうな新人冒険者が現れた際には、最初のうちは先輩冒険者が声を掛けてあげる。


育成の街ベールズの冒険者ギルドならではの習わしであるらしい。


もちろん義務ではないが、おろしたて新品の装備を身にまとい登録書を記入している俺たちを見て彼らは声を掛けてくれたのだ。


なんていい子たちだ。


生意気だと思って申し訳ない。


剣士の少年はジャンと名乗った。


弓士がリン、盾士がルウ、魔導士の子がサリナである。


ちなみに冒険者のランクに関してだが、下からコッパー、シルバー、ゴールド、プラチナとランク分けされている。


リン、ルウ、サリナはコッパーランクで、ジャンだけが唯一シルバーランクであるようだ。


なんでもポイズンヴァイパーを討伐したらしい。


「ほほう。

 その若さでシルバーランクとは素晴らしいですな」


「へっ、まあな。

 でも、俺だけシルバーってのは実のところ納得いってないんだぜ。

 一人じゃまだ倒せない魔物だからな。

 仲間が弱らせてくれたおかげさ。

 とどめを刺したのがたまたま俺だっただけだ」


「いや、あれはジャンの活躍があってこそだった。

 動けないボロボロの私たちを庇いながら、ジャンが踏みとどまってくれたおかげ。

 ギルドの判断は正しい。

 次は私が倒してみせる」

 

「あはは。

 またリンちゃんの負けず嫌いが出ちゃってますね。

 この話題になるといつもそうなんだから」


「あの時から俺もリンもサリナも力を付けたからな。

 次のクエストで全員シルバーだ。

 油断はない」


ポイズンヴァイパーってあのデカい毒ヘビだよな。


それに動けなくなるぐらいボロボロになるって。


君たち頼むから無茶しないでくれよ。


こんないい子たちがボロボロになってる姿なんておじさんは想像もしたくないよ。


冒険者やめてウチの商会においで。


まだ新人枠あるはずだから。


たぶんだけど。


「コウタロウさん。

 見えてきましたよ。

 あそこがムルス草原ですね」

 

「よし、じゃあさっそく薬草採集と行きますか」

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