第2話 状況整理

 (双子…よりによってこの女とか…)


ルステリオ、いや、アストルム・ルテ・リガーレは今、一生懸命に状況整理をしていた。


(あの魔法、条件設定で双子などなかったはず…もしかして、同じ魔法陣の上で二人いたから双子という状況になったのか?いや、まだテルミニスと決まったわけではない。たまたま、本当に偶然に双子になったやつがテルミニスに似てたのかもしれん。)


 アストルム自身、それはないと思っていたが、そうでも思わないとどうにかなりそうだった。


(…とりあえず、この体は魔法が使えるはずだ。魔力量は前世と比べたら著しく低いが、それでもだいぶ多いほうだろうし、そもそもあれは幼少期から訓練していたため増えていたのだ。少なくて当然といえようぞ。

 とりあえず、このアルナリア?というやつに通信魔法 念話テレパシーをつなげてみよう。普通の赤子だったら返事をすることはおろか、俺の声が聞こえただけでも泣き叫ぶだろう。返事をしたら…

 …まぁ、運が悪かったということだ。久しぶりにこんなに動揺したかもしれない。さて、気を引き締めなければ。ある意味これからが衝撃の本番かもししれぬからな…)


正直アストルムは乗り気ではなかった。しかし、今確かめなければ後々面倒なことになるのは目に見えていた。そして、彼は念話テレパシーを使うことを決意した。


(よし、、、念話テレパシー、対象:アルナリア・ルテ・リガーレ)


アストルムとアルナリアの間に魔力線が繋がった。


(頼むからテルミニスでいないでくれ…)


そして、彼はその魔力線を通して彼女に聞いた。


『お前、テルミニスか?』


________________________________________


(ダメだ…考えれば考えるほどこいつはルステリオにしか見えない…)


一方アルナリア、もといテルミニスは大混乱状態に陥っていた。それによ理、語尾が色々と混じっていた。


(というか、何故我々は赤ん坊の姿になっているのでしょうか?私はただ、こいつを討伐しにこいつがいる部屋に行っただけなのに…あ、そうだった。そういえばこいつ、私が部屋に入る前から何かの魔法を起動してたっぽかった。もしかしたらそれに巻き込まれて…でも、赤ん坊になる魔法なんてあったか?いや、、、)


 彼女は魔王ルステリオの偉業めちゃくちゃの数々を思い出した。


(…そういえばあの男は、魔法を思いつき、明確にイメージさえできればすぐに再現できると聞いたことが…ということは、これは彼が作った新しい魔法?いや、さすがの魔王でもそんなことはでき…ない、と思いたい…)


 勇者は魔王と何度も対戦した経験があり、そのたびに新しい魔法や魔導具を使っていたことを思い出し、赤子の顔での精一杯の苦笑いをした。


(…多分そう、かな。いや、それ以外ありえない。誕生の魔王、なんて異名も聞いたことがあるくらいです。むしろできて当然、と言ってもいいかもしれない。

 それより、いったいこれは何の魔法?幻覚?変形?いや、それならあんな大きな魔法陣、必要としないはず…)


その時、彼女はとある魔法に思いあったった。


(もしや…転生?いやでも転生は、何百人もの人族、魔族の偉大な魔術使いたちが奮闘し、失敗した魔法…しかし誕生の魔王なんて呼ばれるとそこまでできるようになるのか?でも…っ!?)


その瞬間、彼女とアストルムの間に、魔力線が繋がった。


(ま、まさか、本当に魔王!?)


そして、魔力線を通じて声が頭に響いた。


『お前、テルミニスか?』


________________________________________


テルミニスは実に5秒ほど絶句した。


(この声、確実にあいつだ!まさか本当にあいつとは、、、いや、だとした場合、なぜこのようになったか原因を知っているかもしれない、、、とりあえず、、、確認を、、、)


彼女は絶望しながら返事をした。


『そう、だ…お前はルステリオ、だろ?』


その声を聞いた瞬間、ルステリオはもう全てを諦めてしまいたくなった。


『ああ、そうだ。俺はルステリオだ、、』


テルミニスはそののんびりとした声を聞き、怒りがふつふつと溜まっていくのを感じた。


『…一体あの魔法陣は何だ?なぜ私たちの体はなぜこのような姿になっている?そもそも、これは一体どういう状況だ?』


そう言われた途端、彼はすっと彼女から目をそらした。


『………』


『なるほど、原因はお前にあるとみて間違いない、か。』


 ルステリオは魔王でありながら、もともと嘘をつくのが下手であった。幼少期に親やら家庭教師やら執事やらにポーカーフェイスを叩き込まれたため、政治関係などで取引をしているときは、平気な顔をして嘘を吐いていた。

 しかし、ルステリオは政治関係などは嫌いである。やれば優秀なのだが、彼自身つまらないと感じている。そのため、最近は配下に任せっきりだった。故に、久しく嘘をついていなかった。

 彼は根っこはいい子である。以外と素直で、お礼も謝罪もちゃんとする。そのせいか、信頼している相手や、完全に分が悪いとわかっているとなぜか反応が出てしまう。

 テルミニスは、信頼しているわけではないが、何度も剣や魔術をぶつけ合ったなかなためなんとなく気が緩くなっていた。

 ただ、本当に命や国がピンチなときはなんともなく、意識をしなくとも嘘を言えた。

 都合のいいやつである。


『…』


『いい加減、何をしたか吐け。じゃないと…』


その瞬間、彼女からブワッと殺気があふれた。


『…はぁ、わかった。お前が見たあれは、俺が作った時空魔法 転生リーインカネーションの魔法陣だ。名前通り、転生をする魔法だ。

 また、いろいろな設定ができ、いま俺たちは、{時:約400年後 保持内容:記憶保持有り・魔体術 / 魔剣術以外の魔術能力の保持有り・体術 / 剣術 / 魔体術 / 魔剣術は年齢、成した訓練ごとに順次解禁、(5歳には全て解禁)、魔力は訓練・年齢ごとに順次増加(10歳には元の魔力量)}という状態で生まれてきている。

 一応言っとくが、別の俺はわざとお前を転生させたわけではない。俺は、ただ暇で、政治業務をやりたくなかったから転生しようと思ったんだ。それなのに、お前は勝手に魔法陣の上に飛び出てくるから…まぁ大方、二人一緒に一つの魔法陣に乗ったことで双子に転生したんだろう。二重人格とか言って一つの体に二人の意思があるみたいな状態じゃなくてよかったと思った方がいい。可能性がないわけではないからな。』


『やっぱり転生魔法でしたか…まさかとは思いましたが、やっぱり…』


『お前、いまガラリと口調が変わったが、どうした?腹でも下したか?』


『してません!口調が変わるのは…なぜでしょう。明らかに倒さなくてはいけない相手だと魔王あなたみたいな口調になるんですよね…それよりあなたこそ、いつもと違いません?いつもえっらそーな喋り方だったのに…』


その言葉にルステリオは苦笑した。


『あー、な。あの喋り方はなんというか[魔王口調]なるもので、次の魔王?魔王の後継?を期待されてるやつが幼少期に叩き込まれるやつなんだ。で、普通は自我が芽生える前から教えられるんだが、あいにく、俺は自我が芽生えるのが早かったらしくてな。気づいたら頭の中はこういう喋り方、実際に話すときは[魔王口調]になってた、ってわけだ。』


『へぇ、なんというか、大変?なんですね…。…っていうか、それは今関係ありません。一応聞きますが、元に戻ったりとかは…』


『するわけないだろ。だいたい、時間戻りはこの世界では絶対にできない魔法だし、戻ったところでどうせ同じことになるだけだ。あと話戻るんだけどさ、敬語じゃなくて普通に話さないか?確かこういうのを異世界の言葉で…タメ語?ていうんだっけな』


『あーいましたね、異世界人の転生者。結局あの転生される原理はわかりませんでしたが、、、っと、そこではありませんでしたね。なぜ急にそのようなことを?』


『いやぁ、兄弟、特に双子として過ごすなら一人が敬語だとおかしいだろ?』


『確かに、そうで、じゃなくて、そうだね。わかったよ。これからはタメ語で話すわ。あなたの言っていることが本当ならば、ここはつまり400年後の、、、あれ、そういえば私とあなたがいなくなったとしたらルステリスとテルミニルはどうなったんだろう?』


『元々の予定だと、お前が二つの国を統合して王になる、というおが俺のシナリオだったが…どうだろな。』


『シ・ナ・リ・オ?』


『あ、あぁ。流石に何も残さないで転生するのはまずいと思って、俺の側近、というか右腕みたいなラロに手紙を残したんだよ。』



その手紙は、以下のような内容だった。


  ラロ、

 いつもご苦労。おそらくお前が今、この手紙を読んでいるということは俺が消えて焦っているのだろう。安心しろ。別に俺は人族側の手に落ちたわけではない。暇だったから400年後ぐらいに転生しただけだ。それに別に、考えなしに転生しようと思ったわけではない。


 本題だが、俺がいないとルステリス側の代表がいなく、色々と問題だろう。そこで、だ。新しい魔王を立てず、テルミニスと話してみるがよい。あいつは俺や軍に対しては、まぁなんというかあれだが、一応、敵意がないやつにはちゃんと律儀に話し合える、おそらく。実は俺も何度か、此方と彼方の犯罪者が協力して何かをしでかしたとき、捕まえるのを手伝ってもらったことがある。終わった瞬間に斬りかかってきたが。

 話が逸れたが、敵意を示さずに一度、彼方側テルミニスと話してこい。それで、テルミニルとルステリスの統合を提案しろ。人族と魔族は名前が違うだけで生物学上は全く同じ生物だ。最初は受け入れ難いかもしれぬが、月日が流れれば和解するだろう。おそらくあいつは罠だと思うだろう。その場合、この手紙を見せろ。が刻んである。その文字は真実しか刻めないため、あいつも理解するだろう。

 俺はもともと、このように別種族ならまだしも同じ人間を違う種族として分けるのは馬鹿馬鹿しいと考えていた。戦いをしてなんになる。憎悪や悲劇を生むだけだ。それを、わざわざ理由もなしに争うのは意味がわからない。それにもう、俺は戦争なんかしたくない。

 また話が逸れたな。新しい国には、とりあえず最初はお前とテルミニスが王になれ。別にテルミニスを嫁に取れというわけではない。同じ権力を持つものを二人立てろ。片方の人間を王にするともう片方から反発が出るだろう。名前は好きにするがよい。ただし、俺の名前をそのまま入れるとかはなしだ。他の細かいことも任せたぞ。俺は、お前だったらいい国を作れると信じているからな。


 さて、長くなったが最後に礼を言おう。今まで俺に仕えてくれて、感謝する。あと、勝手に転生して悪かったな。でも、このやり方は悪くはないと思うんだ。他の配下にも伝えといてくれ。お前らがいてくれたから我がルステリスはここまでやっていけた、と。そして、今後は戦いに身をおかず、楽しんで暮らしてくれ。俺はテルミニスに勝ちたかったわけではない。俺は、争いのない世界、そして暇をしない世界が作りたかったんだ。俺がいないからってサボるなよ。なんせ、何百年かしたら転生してお前らが作り上げた国で楽しむんだからな。

 じゃあ、これからも頑張ってくれ。もしかしたら、また会えるかもしれないからな。お前らが作り上げる国、楽しみにしている。そして、楽しんでくるぞ。

                 第18代目魔王

                     ルステリオ・ヴェネ・グラティス

                                     』


『こういう風に、お前とラロが初代人族と魔族の王国の国王になるはずだった。だが、お前が魔法陣の上に突っ込んできたせいで全て台無しだ。』


『あの!ツッコミどころが色々とありすぎるんだけど、まず:人を勝手に王にしないでください?色々と勝手に決められると困る。』


『いやぁ、テルミニスさんにはピッタリかなぁーって思って。』


『はぁ、、まぁいいや。次、話逸れすぎ。その文章力であなた魔王?』


『だってー、最後の手紙ぐらいいっぱい書きたいじゃん。』


『…それなら直接言ったらいいじゃん。』


『そんなことしたら止められて魔術無効部屋に軟禁されるし。』


『なにその部屋。ていうか、言葉遣いだけじゃなく性格、というかキャラ?が変わってない?』


『まぁ、慣れてくれ。』


『後、結局諸々そのラロって人に任せっきりじゃない。』


『これにはちゃんと理由がある。』


『ほぅ?』


『あいつは従順だからな。細かいことまで決めてしまうとそっちの要求待った無しに無理やり押し通そうとするかもしれないからだ。だから、同意してくれそうな大雑把なところだけ書いたんだ。』


『はぁ、なるほどね…それがあなたのシナリオ?ってこと?』


『まぁな。誰かさんが転生しなかったらうまく言ったと思うんだけど…』


『…しょうがないじゃん!こっちだって使命みたいなもので魔王を倒さなきゃいけなかったし…』


『それはまぁいいや。ところでさ、なんで人族そっちは俺らを目の敵にしてたんだ?』


魔族あなたたちがこっちの人を襲うからでしょうが!』


『はぁ?俺ら別にそんなことしてないが?』


『嘘つかないで!現にあなたが魔王になってからでも、領地の境目の村がいくつも滅びたのよ!?』


『それは!お前ら人族が先にこっちの村を襲うのが悪いんだろ!』


『現にそれだって、もともとこっちを襲ってきたから!』


『それも!そっちが先に…ってあれ?もしかして無限ループしてる?』


『そ、れは、確かに、、、』


『…もしかしてずっとこんな感じだったのか?片方が誰かの仇とか言ってもう片方を殲滅して、そして襲われた側も仇だって言って反対側を攻めて、、、みたいな?』


『…そうかもしれないわね。つまり、ルステリスは別にテルミニルが何もしなかったら別に土地が欲しいとか人手が欲しいとか言って侵略してこなかったの…?』


『当たり前だ。そんなのしてたらキリがない。俺らはそっちが攻めてくるから対抗でやってただけで…もしかしたらそっちもそうなのか?』


『う、うん、そんな感じ…』


『…もしかして歴代魔王・勇者が戦ってたのって、それだけ?』


しばらく二人の間に沈黙が入る。

そしてその後、ルステリオはフッと笑った。


『なんだよー。俺てっきりお前らが無意味な侵略をしてるからこっちも対抗してるって思ってたわー。』


『はぁ。それはこっちもよ。そう考えるとあの戦いは一体なんのためにあったのかしら?』


『さぁな。まぁ、とにかくこっちも悪かったってことだな。今まで色々悪かった。』


『…こっちにだって。今まで色々ごめんなさい。』


またもや気まずい沈黙が走る。


『…あーこれで仲直り、じゃないけどお互い敵意なしってことでいいか?』


『うん。いいわよ。』


『じゃぁさ、今世では協力して生きていかないか?』


『協力?』


『あぁ。これで平和になったかもしれないが、どうせ色々起こるだろう。そこで、もう前世のことは水に流して今世は楽しく、暇なく生きないか?もともとそれが俺の転生した理由でもあるし。』


『ふふっ。ルステリオってそんなとこがあったんだ。まぁ、いいよ。これから仲良くしよ。』


『あぁ、もちろんだ。よろしくな、アルナリア、いやアルナ。』


『こちらこそ。アストルム、いえ、アスト。』


こうして魔王と勇者は仲良く暮らすことを決めたのであった。

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