第8話 3歳での日常④
〜アルナ視点〜
魔王って、なんだかずいぶんマイペースな人だったんだ。
気持ち良さそうに寝るアストの横顔を見てそう思う。
私たち二人が転生して、三年が経った。
こいつとこれから生きて行くと知った当時は警戒しかしてなかったけど、三年もいたらもうそんなの忘れちゃった。好戦的なタイプじゃないみたいだし。
それもあって今は昼寝は隣でするぐらい信頼してる。まぁ父さんと母さんが「小さいときぐらい、一緒に寝なさい!」みたいなこと言ってたから真ん中の共通スペースで一緒に寝てるんだけど。
え?魔王と勇者が昼寝?私も最初はちょっとこう思った。けどいくら中身は大人だと言っても、三歳の体では昼寝しないとやっていけない。だから昼食の後は昼寝っていうルーティーンができた。こういうところは普通なんだよねー。
アストに関してはもともと寝るの好きそうだがら、嬉々として寝てたけど。私も、寝るの、好き、だけれども。やばい、そんなこと、考えて、たら、眠く、なって、きた…なんだ、かんだ…私も、こいつも…まだ、子供…だもん、ね…
〜アスト視点〜
「ふわぁ。」
やっぱり昼寝はいいよな。いい感じに頭も体もリセットされる。って、あれ?珍しくアルナがまだ寝ている。
いやー寝顔だけは年相応って感じがするよな。寝顔だけは。
「アスト、今なんか変なこと考えなかった?」
ある眺めをぱちっと開けてアレに詰め寄る。
「うわ。なんだアルナ、起きてたのか。おはよう。」
こんなとこで勘のいいところを発揮するなよ。
「それより質問に答えて。変なこと考えてなかった?」
「べ、別に?寝顔だけは年相応だな、とか考えてないし?」
「…アストってほんと私にだけは嘘つくの下手だよね。」
「…前世からそうなんだよ。側近にも『ルステリオ様って、外交とか尋問の時はポーカーフェイスと嘘完璧でやばいのに俺たちと話してる時は嘘つくのも下手になるし、全部顔に出ますよね』って言われてたし。」
そう言って俺はアルナの顔を指差す。
「と言うかお前こそ、『へぇー、意外ー』って言う顔してるし、俺のこと言えないじゃん。」
「う、うるっさいわね。さっさと授業の支度するわよ。待たせちゃ悪いでしょ。」
「はいはい。」
もしかしてこいつも今キャラ迷走期なのか?口調が若干変わったぞ?
あ、ちなみにキャラ迷走期とは前世と今世の年齢が違うため、また前世であまり個人で過ごすと言うことをしなかったためキャラがしっかりとできずなんかよくわかんないことになってしまう現象のことだ。俺も今一生懸命魔王口調を外そうとしてるんだが、むずい。これがなかなかな。
まぁなんとかなるだろう。
「今日ってなんだっけ?」
「今日は確か歴史だったと思うよ。」
「そうだ、歴史だ。ここ最近で結構本読んだけど、フィルマ先生、歴史好きだからまた新しいこと知れるかもなー。」
「わかる!フィルマ先生ってほんと物知りだよねー。」
フェルマ先生とは俺たち、と言うかリガーレ家専属の家庭教師だ。とにかく物知りだ。特に歴史に関してはもはやキモいぐらいなんでも知ってる。まぁ俺たちがいた頃の話は、流石に俺らほどは知らないみたいだが。
「多分もうそろそろ来るだろうから、着替えてー。」
「もう終わってる」
「はやっ」
そう言うアルナも既に着替え終わってる。
「これで片付けもできたらいいんだけどねー」
「そんなの別にやらなくてもいいだろ。別にやらなくても作業できるし、と言うかきっちりしてる方が落ち着かないだろ。逆になんで片付けなんかする必要があるんだ?」
「…はぁ。もういいや。」
なんかまた呆れた顔をしている俺の姉。やっぱり片付けする必要はなさそうだな。めんどくさいだけだし、時間の無駄だ。
コンコン。ドアがノックされる。
「フィルマです。」
「あ、はい。どうぞ。」
「失礼します。」
そう言いながら入ってきたのは、髪の毛をきっちりとお団子に結んで眼鏡をかけた、俺たちの家庭教師フィルマだ。
そのフィルマに俺たちは詰め寄る。
「先生、なんで片付けをする必要があるんですか?」
「先生、片付けをすることはとても大切ですよね?」
フィルマは目を瞬かせてから、ため息をついて言った。
「あなたたちは本当に毎日毎日…同じようなくだらない言い合いばかりしていて飽きないのですか?」
思わず顔を見合わせる俺たち双子。そしてフィルマ先生を同時に見返していう。
「「逆に先生はいい加減歴史オタク面を生徒の前でするのやめません?」」
「あなたたちは…なぜそんなにも似ていないのにこういう時だけ団結してピンポイントに心の傷を…しょうがないですよ、気づいたら出てるんですから、私の歴史好きが…」
しばらく先生が悶える。
「…先生授業まだですか?もういい加減飽きましたこの流れ」
「先生、時間とは有限なものですよ。ご存知でしたか?」
「くっ、そもそもこの流れに持ち込んだのあなたたちでしょう!」
こうしていつも通り言い合いをしたのち、俺たちはようやく授業に移るのだった
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