第7話 京都 ~ 再会

 大学の定期試験も終わり、気持ちも楽になった優一は葉山と京都へ向かう。以前、東北に二人で旅行に行ったし、正月にはお互いの実家にも行った。しかし、今回はいろいろな意味も含めて少し感じが違う旅行になる。


 葉山が持っている『不思議な力』……優一も、これを身につけるための修業をしに京都に向かっている。

 この『不思議な力』は世の中でいろいろな風に言われるが、彼女が修業をした場では、主に『霊力れいりょく』という言葉を多く使うらしい。


 京都駅に着いた。優一は京都にはあまり来たことがなかったが、葉山は慣れた様子だった。駅の中を案内表示も見ずにどんどん歩いて行く。

駅からタクシーに乗ってしばらく行くと観光名所ではないらしい静かなお寺に着いた。しかし、目的地はお寺ではなく、その隣のお屋敷のような家だった。霊寿れいじゅという女性に会うのだと言う。京都ではホテルではなく、この家に泊めてもらうことになるようだ。


「こんにちは、峰岸です」


「お待ちしておりました。葉山お嬢様」

「葉山お嬢様」

「お嬢様がいらっしゃったわよ」

「お待ちしてました」

「みんな葉山お嬢様が来られるのを楽しみにしていたんですよ」

霊寿れいじゅ様も心待ちにされていますよ」

お手伝いさんや料理人のような男性、女性が十人ほど出てきた。


霊寿れいじゅ様は、いま、奥の間にいらっしゃいます」

水鏡妃すいきょうひ様がいらっしゃっているんです」

「え、水鏡妃すいきょうひさんが……」

「ええ。水鏡妃すいきょうひ様も葉山お嬢様が来ると聞いて、喜んでいらっしゃったようですよ」


『なんだろう?この葉山に対する待遇は……お嬢様……なのか。実家の方では身寄りがないような葉山が、ここではお嬢様待遇なのか……だいたい、ここは葉山の何なんだろう?』

優一は状況を把握できなかった。葉山が『霊力』の修業した場所というのなら、他にもそういう人はいるだろう……なぜ、葉山だけがお嬢様なのだ?


「優一様ですね。伺っております。葉山様とご婚約されていらっしゃる方だとか……」

「?」

葉山が手を合わせて『ごめん』というような仕草を見せる。

『いや、別にそれは、それでいいんだけど……』

優一は嬉しかった。

葉山が小声で「その方が一緒の部屋に泊めてもらえるから……」と言う。


お手伝いさんの一人が葉山と優一を霊寿れいじゅのところに案内してくれた。


 部屋の中から二人の女性が会話している声が聞こえてくる。案内してくれた女性が部屋の方に声をかける。

霊寿れいじゅ様、葉山お嬢様をご案内いたしました」

「どうぞ」

部屋の中から気品のある落ち着いた声が聞こえてきた。案内の女性が扉を開けてくれた。

「どうぞ」


 お香の香り……記憶にある香りが漂ってくる。一瞬、葉山と優一は顔を見合わせた……緊張が走る。

「お久し振りね。葉山ちゃん」

美しい着物を着たやさしい顔の女性。年齢は七十歳くらいだというが、それほど年を取っているようには見えなかった。

「ご無沙汰しています」

「そちらの方は旦那さんになる方?」

優一の方に目を向ける。

葉山がうなずく。

「葉山ちゃんも、もうそんな年になるのね」

水鏡妃すいきょうひさん、お久し振りです」

「随分、久し振りね。会えて嬉しいわ」

もう一人の女性は水鏡妃すいきょうひというらしい。年齢は六十歳くらいだという。この女性も着物を着ている。穏やかな気品を感じる女性だった。

「どうしたのかしら?何か二人が驚くようなことがあったのかしら?」

水鏡妃すいきょうひが葉山に笑顔を向ける。

「この香りは……」

「お香ですよ。最近、妹からもらって……いい香りだから使っているのよ。伽羅きゃらという香木を使った高級なお香だそうよ」

楊鏡妃ようきょうひさんですか……」

「ええ、よくご存じね。妹に会ったことがあったかしら?」

「いえ、会ったことは、彼女もこのお香を?」

「ええ、いつも」


それ以上、あまり探るようなことは聞けなかった。

 今の状況で……誰が、何を、どこまで知っているかわからない。誰が誰とつながっているか、わからない状況で……迂闊うかつなことは口にできなかった。

 しかし、間違いなく、あの恵庭が京都から何者かに追われた時、優一の部屋に漂った香り……あの時、恵庭を追ってきたものが身につけていた香りと同じだ。


「希望通り、明日から修業していただくわね」

「はい」


 ちなみに聞きなれない、この『霊寿れいじゅ』とか『水鏡妃すいきょうひ』という名前は僧侶などの名前にある法名ほうみょうという名前のようなものであるらしい。本名とは別に、この世界の人が通常使っている名前で世間一般にも、こちらの名前で通っているという名前だそうだ。

 そして、ふと気になった、そういえば『葉山』や『恵庭』も、あまり聞きなれない名前だが……と思った優一が何気なく聞いてみると、葉山は笑顔で「本名だよ。」といって免許証を見せてくれた。恵庭も本名だ……と笑いながら言う。


 その後、霊寿れいじゅ水鏡妃すいきょうひは葉山と懐かしそうにいろいろな話をしていた。


 葉山は小さい頃、ここで『霊力』を高める修業をしたそうだ。その時は、まだ小さく修業というより、霊寿のもとで育てられたという感じだったそうだ。それでもたくさんのことを学んだという。そして、大学卒業後、もう一度、ここを訪ねた。腕に磨きをかけるためだったそうだ。

 大学卒業後に来た時、葉山を指導したのが水鏡妃すいきょうひだったそうだ。その時、いろいろな話をする中で、彼女から同じような『力』を持つ妹がいて、その妹の名前が楊鏡妃ようきょうひということを聞いたということだ。


黒田郡探偵事務所 第四章 霊力修業

https://kakuyomu.jp/works/16817330653025504131


*これまでのすべての章*

黒田郡探偵事務所 第一章

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黒田郡探偵事務所 第二章

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黒田郡探偵事務所 第四章

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黒田郡探偵事務所 第五章

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