第7話 画面の中の怪獣


 おれは、イヤホンを使ってテレビを見ていた。

 家の前で水道管を掘り起こす工事をしているせいで、うるさくてテレビの音が聞こえないのだ。


 テレビ画面の中では、怪獣が暴れていた。

 図鑑にある恐竜に、ゴテゴテと角をつけ、さらに大きくしたような怪獣である。

 時々、思い出したように口から炎を吐き出しては、商店や住宅を焼き払っている。


 途中から見たので、ストーリーがよく分からないが、やたらとリアルな映像であった。

 CGに力を入れているのか、怪獣の皮膚や動きは、本当の巨大生物のようで、破壊される町も細部まで作り込まれている。


 ……ん?

 おれは目を凝らした。

 今、怪獣が踏みつぶした建物に見覚えがあったのだ。


 それは近所の郵便局であった。

 そういえば、さっき尻尾で破壊された学校は、おれが通っていた小学校だったのではないか?

 物凄い炎で焼き払われた商店街も、日ごろ通っている駅前の商店街に似ていた。


 これは、すごい。

 おれの住んでいる町が、舞台のセットになっているのだ。

 すごい、すごい、すご……。

 おれは不意に寒いものを感じた。


 画面の中の街並みが、あまりにリアル過ぎることに気付いたのだ。


 イヤホンのため、はっきりと聞こえないが、さっきから響いてくる、外のうるさい音と振動……。

 これは、本当に水道工事の音なのだろうか?


 画面の中の怪獣の進行方向には、おれの家があるはずだ。

 怪獣の足で、あと十数歩と言ったところである。


 おおお!

 画面の中で怪獣が暴れると、それに合わせるように、外でまた、大きな音がし、振動で家が揺れた。


 お、おい、ウソだろ!

 逃げ出そうと立ち上がりかけたとき、テレビ画面が真っ白に輝いた。


 そして、怪獣の前に、巨大な人間が現れた。

 身長30メートルはあるだろうか。

 銀色のウェットスーツのようなものを着て、ヘンテコな仮面をかぶった巨人である。


 ぴったりとしたスーツの背中に、ジッパーがついているのが安っぽかった。

 正義のヒーローというやつであろう。

 おれは胸をなでおろした。


 そうだよ。怪獣が本物だなんて、そんなことがあるはずがない。

 すべては作り物なのだ。


 正義のヒーローは、「デワッ!」と声をあげると、怪獣に突っ込んでいった。

 しかし、あっさりと弾き飛ばされ、住宅街の方へと引っくり返った。


 「おいおい、しっかりしろよ」

 そう言った瞬間、大地震のように家が揺れた。

 見上げると、天井が裂けて、崩れ落ちてくる。


 「あ!」

 押しつぶされる寸前、おれは、裂けた天井の向こうに、はっきりとそれを見た。


 それは、バカでかいジッパーであった。

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