第2話 拾ってきた生き物

 

 少年は、金魚の泳ぐ水槽を見つめていた。

 「なにしてるの、洋司?」

 呼ばれて振り返ると、そこに高校生の姉がいた。


 「あ、お姉ちゃん」

 「へーー、金魚、飼いはじめたんだ」

 近寄ってきた姉が、水槽をのぞき込む。


 中には、二匹の金魚が泳いでいた。

 水槽の底には砂利が敷かれ、半分に割れた植木鉢の破片が置かれている。


 よく見ると、その植木鉢の破片がつくる半円形の暗闇の中で、黄色い双眸が光っていた。

 「……?」


 次の瞬間、姉が「ひっ」と短い悲鳴をあげた。


 半円形の暗闇の中から、細く長い二本の腕のようなものがあらわれ、金魚をつかむと、素早く半円形の隙間の中に引き込んだのである。


 割り箸ていどのサイズである。

 ほんの一瞬しか見えなかったが、蜘蛛の脚と人間の手を組み合わせたかのような、不気味な腕であった。


 植木鉢の破片が作る半円形の暗闇から、かみ砕かれた金魚の死体が吐き出された。

 「な、なんなのよ、今のは!?」

 姉が洋司に問い詰めていると、植木鉢でできた半円形の空間から、煙のようなものが、モワモワと漂い始めた。


 しかし、それは煙ではなかった。

 小さなウロコや目玉、ちぎれた内臓など、嚙み砕かれた金魚の残骸であった。


 「い、一体、何を飼っているのよ!」

 「知らない。工場裏のドブ川で捕まえたんだよ。お姉ちゃん。お母さんには、黙っててよ」

 少年が姉に答えた。


 「金魚でも虫でも、何でも食べるんだ」

 「バカ! 捨ててらっしゃい!」

 また暗闇の中で光った双眸に、姉は鳥肌を立てて後退りする。


 「やだよ。

 せっかく、子供まで産んだのに」

 「……その水槽の中で増えてるの?」


 「ちがうよ。水槽の中にいるのは子供だよ。

 最初に拾ってきたヤツは、大きくなりすぎたから、押し入れの中で飼っているんだ」


 「押し入れ……」

 姉の後ろの押し入れの引き戸が、いつの間にか、少しだけ開いていた。

 押入れの奥で黄色い双眸が光る。


 そして、不気味な長い二本の腕が素早く伸びると、鋭い爪で姉をつかみ、押し入れの中へと引き込んだ……。

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