第3話 標的


 

 ん?

 オレは、スコープを覗く目を細めた。


 深い森の中である。

 スコープに捉えているのは、熊の背中であった。

 すでにライフルの引き金には指がかかっている。


 でかい熊であった。

 半月ぶりの獲物としては、申し分のない大きさである。

 が、その熊のようすが妙であった。


 息を殺すように動かないのである。

 そのくせ、全身が緊張に満ちていることがよく分かる。

 まるで、今のオレと同じであった。


 スコープを通したオレの目は、熊の向こうに薄茶色のスマートな動物を見つけた。

 それはキツネであった。


 なるほど。

 オレは熊の状態に納得した。


 熊は、キツネを狩ろうとしているのだ。

 オレと同じである。

 オレは熊を狩ろうとし、その熊はキツネを狩ろうとしているのである。


 んん?

 オレは熊の向こうで身を屈め、こちらに尻尾を見せているキツネの、さらに向こうを見て目を丸くした。


 キツネは、キジを狙っているのだ。

 茂みの中にいるキジを狙っているため、自分がクマに狙われていることに気がついていないのである。


 はー。

 オレは感心した。

 こんな偶然もあるのである。

 い、いや。

 ちょっとまてよ。まさか……。


 オレは、さらに目を凝らし、スコープの角度をわずかに変えると、キジの顔が向いている方を確認した。

 んんん!?

 そこにはカマキリがいた。

 驚いたことに、キジはカマキリを狙っていたのである。


 んんんんん!


 なんということか、カマキリは、さらに向こうにいる、ちいさなコガネムシを狙っている。

 これは凄い。

 うまくタイミングを合わせれば、オレは一発の銃弾で、熊とキツネとキジとカマキリとコガネムシを手にすることができるのである。


 ようし!

 気合を入れ直した時、オレは首筋に冷たいものを感じた。

 後ろに、何かの気配を感じたのだ。


 んん……。

 オレは動けなくなってしまった。

 オレの後ろに何がいるのかは分からない。

 しかし、そいつ確実にオレを狙っているはずであった。

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