第9話 手紙
いひひひ。
ベッドの中。あたしは、品の無い笑い声をもらしてしまった。
手には、カワイイ子猫のイラストの描かれた封筒がある。
今日、タカシから手渡された封筒である。
あたしとタカシは幼なじみだ。
子供のころから一緒に遊び、ケンカをし、時には勉強をした仲である。いつも兄妹のようにすごしてきたのだ。
しかし、高校生にもなると、幼なじみといっても微妙なものになってくる。
今のタカシは、悪ガキだった子供のころからは想像できないぐらい、かっこいい男になった。
でも、あたしだって、けっこう美人になったのだ。
自慢じゃないけど、もらったラブレターの数も十通をこえる。
だけど、あたしが本当に好きなのは、タカシなのだ。
タカシもあたしのことが好きなはずである。あたしは、絶対にそうだと思っている。
だったら相思相愛で、うまくいきそうなものなのだが、なかなかそうはいかない。
なんとなく、先に「つき合ってください」と言った方が、この先、相手にすべての主導権を渡すような空気になっているのだ。
相手から先に「好きです。つき合ってください」と言わせたい。
しかし、それを、あまりに待ち過ぎると、横から現れた第三者に相手を横取りされてしまうかもしれない。
もはやチキンレースになっていた。
そんな状況の続く中、学校帰りに、タカシがいつになく真面目な顔をして、あたしに封筒をさし出してきたのだ。
「由美子、これ……」
わずかに視線をそらしながら、あたしの名前を呼び、タカシはこう続けた。
「これ、寝る前にベッドの中で読んでくれよ」
あたしは、はっきり言って心臓が高鳴ってしまった。『寝る前にベッドの中で』ってのが、意味深である。
期待に胸がふくらみ、いひひひと、笑いがこみあげてきても仕方ない。
そして、あたしはベッドの中で、手の中の封筒をゆっくりと開けた。
ちょっと手が震える。
期待に胸がふくらんでいるけれども、やっぱり不安もある。
あたしが想像している内容とは、まったく反対のことが書かれていたらどうしょう……。
中には四つ折りの便箋が一枚だけ入っていた。
あたしは思い切って便箋を広げた。
…………。
……あの野郎。
あたしは唇をかんだ。
便箋には黒のマジックで、大きく、こう書かれていたのだ。
『おやすみ~~』
便箋のむこうに、楽しそうに笑っているタカシの顔が、見えるようであった。
翌日、タカシに告白された。
「由美子。ずっと好きだったんだ。俺とつき合ってくれ」
あたしはOKを出した。
二人の関係は、友達から恋人に変わった。
告白してきたのはタカシである。しかし、なぜか主導権は、タカシ寄りになっている気がする。
解せぬ。ちょっと納得がいかない。
納得がいかないけど、けっこう幸せな日々である。
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