疑惑―①―
蒼炎りんかが持っているデバイス。それは明らかに普通のものではない。
よく言えば独特のデザイン、悪く言えば子供の玩具のようなそれには美麗も見覚えがある。
(・・・ウソでしょ?)
信じられないし信じたくなかった。まさかこんな性悪がプリピュアなんて・・・・・だが元プリピュアの勘が喧しい程に訴えかけてくるのだ。
もし現場へ向かっているのなら必ずどこかで変身するだろう。美麗は考えるより先に尾行を始めたのだが早速驚愕を目の当たりにする。
「ええっ?!」
大通りに出たりんかはすぐにタクシーを拾ったのだ。確かに彼女の家は裕福だと聞かされていたがまさかプリピュアがそんな移動手段を取るとは夢にも思わなかった。
だが美麗も立派な社会人である。ならばと自身も手を上げてタクシーを止めると急いで駆けこむ。
「前のタクシーを追って!」
自分の人生でこんな名台詞を使う時が来るとは。まるでドラマのような展開に一人心を躍らせていたがその目的を思い出すと喜んでばかりもいられない。
当時、妖精に選ばれた後はプリピュアとなってただがむしゃらに戦っていた美麗とその仲間達。しかし彼女らは確かに可愛く純粋だったはずだ。
故に強く思ってしまう。いくら時代の流れとはいえあの蛇のようなりんかが選ばれるなどあってはならないと。先輩風を吹かすつもりは無いがそれでも歴代達を考えるとやるせない気持ちになる。
様々な感情で心が混濁しているといつの間にかタクシーは駅前で停車していた。
「ありがとうっ!」
『ダイエンジョウ』から支給されているスマホにはあらゆるキャッスレスが登録されているので一瞬で支払いを済ませる。
念の為録画状態で後を追うとりんかが駆け足で薄汚いビル群の合間に入っていった。恐らく変身するに違いない!
美麗はバレないようにそっとスマホのカメラだけを覗かせて彼女の姿を捉えようと試みる。過去の経験だと変身時にはかなり派手な演出や音楽が入るはずだ。
・・・ところが一向に何も反応がない。まばゆい光も漏れてこないし軽快なBGMもない。どうなっているのだろう?
スマホは構えたままそっと自身も目視で確かめようとするとそこは非常に薄暗く妙な気配を感じる。
(・・・まさか逃げられちゃった?)
ここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかない。美麗は思い切ってその路地裏に踏み込むとすぐに誰かの話し声が聞こえて来た。
一応尾行の体を忘れないようこっそり近づいて行くとそこには学生が3人ほどたむろしているようだ。大きな室外機に座り込む学生や壁にもたれ掛かっている学生、そしてもう1人がりんかだった。
(・・・???)
制服はそれぞれ違う為皆が他校だというのはわかる。だがそんな3人がこんな場所で何をしているのだろう?
想定していた最悪の事態が避けられた事で気を緩めていた美麗は入れ替わるような恐怖心と好奇心から探偵ごっこの続きがてら身を潜めつつ3人に近づいて行く。すると・・・
「おいりんか!!ほむらがまたあたしの駒を潰したんだけどどう落とし前つけてくれるんだ?あぁん?!」
非常に口汚い話し方をしているのは座り込んでいる短い金髪の少女だ。というか何故ほむらの名前が出てくるのだろう?彼女とも接点があるのだろうか?
「あら?あなた達のテリトリーにほむらが入って行くなんてあり得ないわ。どうせケチなパパが安く済ませようとあの店に行ったんでしょ?自業自得よ。」
距離がある為会話の内容が聞き取りにくかったものの雰囲気からあまり良い話ではなさそうだ。
「・・・りんか。あなたまだ自分の立場わかっていないようね?」
壁に寄りかかっていた少女も痺れを切らしたかのような口調で静かに動くとりんかの前に立った。相手はかなりの高身長らしく遠目から見ても相当な威圧感が伝わってくる。
ずむっ!!
恐らく高身長の少女がその拳を腹に打ち込んだのだろう。体が一瞬でくの字に曲がったりんかが崩れ落ちそうになるのを室外機に座っていた金髪の少女が慌てて支えた。
だが彼女を助ける為に支えた訳ではない。倒れると立たせるのが面倒だからそういう行動を取ったのだ。非常に楽しそうな笑い声がその証拠だろう。
「いいこと?あなたは私達のお蔭で『安全』に暮らせているの。今度邪魔したり口答えしたらどうなるか・・・わかるわよね?」
ぼこっ!ぼむっ!!どすんっ!!
無言で容赦ない暴力を一方的に振るう高身長の少女。そして短い呻き声を上げながらそれを全て受けるりんか。
探偵ごっこの延長戦でとんでもないものを目の当たりにした美麗は隠れていたのも忘れてまずは警察に電話を掛けた。それからすぐに姿を見せたのはやはり元プリピュアの魂がそうさせたのだろう。
「ちょっと貴女達!!!私の友達に何してんのっ?!?!あ、もしもし!警察ですか!!友人がひどい暴力を受けてるのですぐ来てください!!場所は・・・!!」
こういう場合気持ちで負けると行動も委縮してしまう。なのでまずは大声で己を奮い立たせてから速やかに国家権力に助けを求めるのがセオリーだ。
もしかするとあの暴力がこちらに向けられるかもしれないが痛い思いは過去に散々経験してきた。何よりいくら気に入らない相手とはいえここで見て見ぬふりが出来る程美麗の心は大人色に染まっていない。
高身長の少女と金髪の少女が凄い形相で睨みつけてくるもこの場に留まる事で騒ぎを大きくしたくないのだろう。捨て台詞の1つもないまま走って逃げていくのを見届けると美麗は仕方なくりんかに声をかけた。
「・・・まったく、なんて子達なの!蒼炎さん、大丈夫?」
ぱしんっ
座り込んでいたところに手を差し伸べると無言で払われた挙句、こちらを一瞥する事もなく立ち去ろうとする。
「ちょっと!少しは・・・説明してくれてもいいんじゃないの?!」
一瞬感謝という言葉が出掛かってぐっと飲み込んだ。別に恩を着せる為に助けたわけじゃない。見ていられなくなって心が勝手に動いただけだ。
それでも首を突っ込んでしまった以上何かしらの理由が聞きたかった。他校の少女達とこんな場所で一体何を話していたのか。何故一方的な私刑を受けていたのか。
「・・・私、助けてなんて言ってないわ。何勝手に首を突っ込んでるの?馬鹿みたい。」
どうしよう。また本気でキックをお見舞いしたくなってきた。
「この辺りかな?!大丈夫?!何か暴力事件があるって聞いてきたんだけど?!」
だが駆けつけてくれた友の声を聞いて一気に緊張がゆるんだ。美麗は正体がばれないようにと気をつけつつ動画の内容と彼女らのいざこざを紫堂 司に説明し始めるが既にりんかも姿を消していた。
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