今時のやり方―①―

 初任務を終えた翔子はその充実感と達成感を誰かに話したくてうずうずしていた。

「初仕事お疲れさまでした。」

しかし身バレ防止の為これを実行に移す訳にもいかず本社ビルのエントランスをうろうろと歩いていると自身をこの世界に引き戻してくれた男が声をかけてきた。現在17時。プリピュアと敵対しているこの組織も過酷な労働内容以外は比較的ホワイトな運営なので皆が定時に退社出来るのだ。

「ネクライトか。お疲れ様・・・ねぇ!これから暇?!」

何としてでもこの喜びを爆発させたい翔子は偶然彼と出会った事で己の欲望を満たせる方法を閃く。

「僕はこれから溜まっているデイリーを消化しないといけませんので。」

「暇なのね?!よっし、じゃあ飲みに行こう!!私が奢るから!!」

同じ社内の人間なら秘密も何もない。彼には気兼ねなく今日のやりとりを話せるのだ。長い前髪で表情はよく捉えられなかったが暴走している翔子が彼の様子を気に掛ける事は無く、ネクライトの腕をとんでもない馬鹿力で引っ張りながら翔子は夜の繁華街へと辿り着いた。


だがここでも大きな問題が浮上する。素性も含めて多くの社外秘を守らねばならない彼らは一般的な場所での会話が極めて困難なのだ。


溜め息交じりに教えられた翔子は納得はしても諦める事は無い。どこかいいお店がないかを探し始めると遂に折れたネクライトは渋々秘密結社『ダイエンジョウ』が関わっている店を教えてくれた。

2人は見事な個室に案内されるとそこからはブラッディジェネラルの一人歓談が幕を開ける。

「でね?!あの子達ったらまるでなってないの!!口の利き方も考え方もすれてるっていうか純粋じゃないっていうか・・・わかる?!」

30分もたたない内にビールジョッキを5杯ほど飲み干した彼女はスマホをいじりっぱなしのネクライトに思う存分今日の不満点を口にしていたが彼は適当な相槌を打つ以外の動きは見せない。

それでもいい。記念すべき今日の出来事を誰かに聞いてもらえればそれでいいのだ。一方的に話をしていると黙って酒を飲んでいたネクライトが一瞬目に見えてびくりと反応する。

「はれ?私のジェネラルウィップの使い方がそんなに気になった?」

初めて自分の話に興味を持ってくれたのだと勘違いした翔子は半分舌が回っていないながらも蕩けた笑顔で尋ねると彼はくせ毛の隙間からちらりとこちらの様子を伺う。

「・・・まぁいいか。これを見てみて下さい。」

そう言ってネクライトが自分のスマホを見せてくるので覗き込んでみるとそこには赤い下着が丸見えの画像が映し出されていた。

「ちょっと!これってセクハラでそ!!」

「そうですね。不特定多数へ向けてのセクハラだと思います。」

セクハラという意味では意見が一致しているもののお互いのベクトルはずれている。意味が分からずほっぺを膨らませてネクライトを黙って睨みつけると彼は軽く溜息をついてその説明をし始めた。


「この被写体はブラッディジェネラルですよね?貴女は今日の戦いを誰かに撮影されたのですよ。そしてそれがSNS上で出回っています。」


「・・・・・へ?」

既に12杯のジョッキを平らげた翔子の思考能力は幼児並みに低下しており、その意味が全く理解出来ていない。

「まぁ帽子を深く被っている為正体まではわからないでしょうけど。これにより貴女へのファンが急増しているようです。おめでとうございます。」

この発言には嫌味が多分に含まれていたのだがこの時の翔子はファンが急増という言葉しか捉えられず顔をほころばせてしまった。

泥酔していて理解が全く追い付いていないと悟ったネクライトはその反応が気に入らなかったらしく、より分かりやすいように続けて説明してくれる。

「貴女の恥ずかしい姿はネット上で一生晒され続けて皆が性の対象として利用するでしょう。デジタルタトゥというやつです。貴女は傷物にされたのですよ?」

「・・・・・え?・・・え?えええ?!」

貴重な時間を強引に奪われた腹いせもあるだろう。いい加減家に帰りたいのでこの件を使って翔子を冷静にさせようとしたらしいが又も彼女は傷物という言葉しか届かずにただただ驚いていた。

更にネクライトがその話を詳しく説明すると彼の思惑通り酔いを醒ましてきた翔子だったが今度はずんずんと落ち込んでいき最終的には涙酒の絡み酒状態に変貌を遂げてしまう。


結局店を出たのは22時前。彼は泥酔と傷心で歩けなくなった翔子を自宅に送らされる羽目になりデイリー消化を半分以上も残して一日を終えてしまった。






 翌朝目が覚めると見知らぬ異性が横で寝ていた、という話は創作の中で聞いた事はある。が、まさか自分がその当事者になるとは思ってもみなかった。

まだ朝日は顔を覗かせていないものの空は明るく染まっていき窓とカーテンには光の輪郭が浮かび上がっている。

そして自身は半裸・・・いや、これは全裸だ。何も着ていない状態で隣には同僚のネクライトがこれまた半裸・・・いや、全裸か?下腹部は布団で見えないが隣で眠っている事実だけは揺るがない。

「・・・・・な、な、なんで?」

こんな時どう反応すればいいのだろう?昨日の初任務から退勤時にネクライトを誘って美味しいお酒を楽しんでいたまでは明確に覚えている。

しかしそこからどうやって家に帰ったか。そして何故彼が一緒に寝ているのかはまーーーーーーーーーったく思い出せない。

「・・・・・ま、ま、ま、まさ、まさか・・・・・私、やっちゃったの?」

口元に両手をあててあわあわする翔子を他所に隣で寝ていたネクライトも目が覚めたのかゆっくり体を起こす。邪魔な前髪のせいで表情こそ読めないが彼は落ち着いた様子で挨拶を交わしてきた。

「おはようございます。」

「お。お、お、おひゃようごじゃいまひゅ・・・」

酒が残っているのか気が動転しているのかはたまた両方か。舌も頭も回らないまま時が動き出したのでより深く混乱していくと彼はそんな翔子に見向きもせずベッドから降りて静かに着替えを始める。

スーツ姿からは想像もつかないほど引き締まった体はその背中を見てもわかる。更によく見るとそこかしこに傷が。彼も敵対組織に身を置く人間なので戦いで負ったのか訓練中での怪我かだろう。

ただ臀部に目が行ったところでやっと僅かな正気を取り戻した翔子は慌てて顔を背けると静かに尋ねてみた。

「・・・あの、私達って昨日・・・」

それ以上は口が裂けても言えなかった。結婚はおろか、恋人同士ですらない2人がいけない行為に走ったなどと彼女の貞操観から考えたくもなかったのだ。

だがそれを察したのか、ネクライトはシャツを着終えた後浅く振り向いてこちらの様子を窺うと初めて笑顔を見せる。


「・・・とても柔らかくて美味しかったです。よければまた誘ってください。」


その後彼が部屋を出た後も茫然としていた翔子は案の定学校へ遅刻してしまった。

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