今時のやり方―②―
(・・・・・まさか・・・・・私が酔った勢いでそんな・・・?)
遅刻で大目玉を食らった後も頭の中はそれで一杯だ。といっても本当に記憶が無い。無い分余計に悪い想像力が働く。しかし28年間守り続けていた処女がこんな形で奪われた・・・のか?
思い返せば昨日、飲みに誘ったのは翔子からだ。そして泥酔した所を送り狼になったネクライトに襲われたのだろう。そう考えると過失割合は2:8くらいかもしれない。
(ああ・・・嬉しかったからって男を誘ったのが間違いだったんだわ・・・)
そう。彼女は独身で恋人もいない。そんな女性が軽々しく男に声をかけて2人きりで飲むというのはガードが緩いと思われても仕方が無いだろう。
「先生。送り狼って何ですか?」
またも思考をそのまま黒板に書いてしまったので思わずかき消すと笑顔で授業に戻る。そしてまた思考を黒板に書き出すの繰り返しで一日が終わっていく。
放課後には今日も浴びるほど飲んで忘れようという結論に至ったものの気持ちが晴れる事はなく、失恋以外で友人達に付き合ってもらうのもなぁ・・・と途方に暮れているといつ以来か。
以前の問題児3人がまたも廊下の前から歩いてきた。中学二年生に進級した彼女達は現在翔子のクラスに在籍している。
また暴力を振るわれたら堪ったものではない、と出来る限り距離を取ってはいたのだが何やら様子がおかしい。よく見れば顔や首に痣を作っているではないか。
「あなた達。その傷どうしたの?」
「うっせぇなぁ。ただのケンカだよケンカ。」
朝から何度か顔を合わせていたのに気が付けなかった事を後悔しつつまずはその事実確認を取ろうと声をかけるとリーダー格の紅蓮ほむらがケンカ腰で一蹴してきた。
「どこの誰と?流石に可愛い教え子を傷つけられたのなら私が黙っちゃいません!」
自身が過去にプリピュアだった経験のせいでもあるだろう。自分の周囲に何か災いが起こるのを黙って見過ごせない翔子は更に問い詰めようとするもまた火橙あかねがひょっこり顔を覗かせてきたので思わず身構えた。
「・・・先生。相手は既に病院送りにしていますのでお気になさらず。」
「・・・いやいや!それはそれで大問題でしょう?!」
蒼炎りんかがそっけなく答えて退散しようとしたので慌てて呼び止めるも今回は紅蓮あかね自らがその綺麗な足で見事なハイキックを放ってきた。
完全に教師モードだった翔子がただただびっくりして思わず尻もちをつくと短いスカートから見える可愛らしい下着に思わず心が癒される。と同時に綺麗な太腿が昨日の戦いの記憶と何故か重なった。
「・・・今度口を挟んできたらボコすぞ?」
恥じらいを微塵も感じさせず堂々と男勝りな捨て台詞を残して去っていく紅蓮ほむら。そしてこちらの様子をしっかり嘲笑った後に去る蒼炎りんか。以前言われるがままに拳を放ってきた火橙あかねだけは心配そうに一瞥した後彼女らを追いかけていく。
あっけに取られていた翔子もお尻をさすりながら立ち上がり、彼女らとのやり取りのお蔭でほんの少しだけ自分の問題から目を背けられた事に感謝しつつその日は真っ直ぐに帰宅した。
一方、夜の繁華街には似つかわしくない人物がその姿を現していた。
「あかねちゃ~ん。お待たせ!」
とあるコンビニ前で声を掛けられた火橙あかねは普段は見せない嫌悪の表情と、そして距離を置くような仕草で眼鏡をかけた中年男性に軽く頭を下げる。
片方は公立中学校の制服のままで、もう片方は父と言うには少し若すぎる中年男性。見た瞬間誰もが分かる援助交際、つまりパパ活なのだが警察が仕事をしなくなって随分久しい。
他にもそういった2人、ないしは3人組が街を歩いていても今では誰も気に留めない。この街は静かな荒廃が進んでいるのだ。
それでも本来の火橙あかねは根がまじめな女の子だ。
まじめすぎるが故に中学校に入って突然現れた蒼炎りんかが苦手で仕方なかった。彼女は非常に裕福な家庭で育ち幼稚園も大学まで一貫式の所に通っていたという。
当然最初は周囲に馴染めず1人浮いた存在だったがこれに接近していったのが幼馴染の紅蓮ほむらだ。
ケンカっ早く男勝りな性格。粗暴だと受け取られがちだがあかねはそんな彼女によく助けられてきた。ただ助けられてばかりでは申し訳ない。そう思って一念発起したのが小学4年生の時だった。
もしほむらが危ない時は自分がその身を犠牲にしてでも助けよう。純粋な気持ちで始めた空手も今年で5年目になる。
相変わらず身長は低いままだったが心身ともにある程度の強さを手に入れる事は出来た。そんな彼女が何故パパ活などに手を染めたのか・・・。
「しかしあかねちゃんから呼び出してくれるなんて嬉しいねぇ!どうする?体が疼いているのならすぐに行っちゃう?」
いやらしい表情と無遠慮な言葉を聞いて渾身の正拳突きを放ちたい衝動に駆られるも今日の目的はただ1つ。
「えっと、あのね。私、この人に会いたいんだけど・・・態蔵さんなら調べられない・・・かな?」
りんかに紹介された中年はSNSを使いこなすインフルエンサー界の大物なのだ。ほむらの傍を取られたくないという強い気持ちを利用されてパパ活という形になってはいるが、であればこちらも利用しない手はないだろう。
それを拡散したのが自身の知人である為、良心の呵責で胸にむず痒い痛みが走るも態蔵は覗き込んですぐに頷く。
「あーそのお尻と太腿の熟れ方が尋常じゃない娘ね!!何々?この娘を調べてどうするの?」
「え、えっとですね。その・・・私、この人に助けられたから、お礼がしたくて・・・」
嘘に嘘を重ねるとろくなことにはならない。現にほむらの為だとりんかに小さな嘘をついた事で今の状況に陥っているのだ。落ちるところまでおちたあかねは足の裏に嫌な汗をかきながら適当な嘘を並べると態蔵は一種だけ眼鏡越しに鋭い眼光を放つ。
「え?でもこれって今プリピュアと敵対している側の人間だよね?『ダイエンジョウ』だっけ?そんな悪そうな奴が人助けなんてするかな?」
「ええっと!!その・・・はい。本当に助けられた・・・んです。」
その瞬間プリピュアとして対峙した時の事を思い出す。思えばあれ程真っ直ぐに説教をされたのなんて何年ぶりだろうか?
挨拶や自己紹介、初対面の相手には敬意を払う等々言われてみればもっともなのだが言われなければ気が付かない。それに気が付かせてもらったのだがら遠回しに助けられたと解釈しても良いはずだ。
「ふーん・・・まぁいいか。とりあえず俺の家に行こうか。あ、まずご飯にする?」
だが態蔵はあかねの小さな変化を拾い上げる事もなく2人は夜の街へと消えていった。
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