現場復帰―①―
卒業シーズンが終わりを迎え学生達は春休みを間近に控えた頃、プリピュアとの対決に向かう事になった翔子はいくつかの誓いを立てていた。
1つ目は必要以上の悪事には手を染めない事。これは敵対している為難しいかもしれないが自分の心に嘘はつきたくない。
2つ目があくまで自分は敵役だという事。プリピュアと馴れあうなんて以ての外だし彼女達は何かしらの加護を受けているはずだ。であれば遠慮はいらない。思う存分戦おう。
そして密かな3つ目。例の『光落ち』だ。少し調べてみた所『敵対しているプリティでピュアな子がプリピュアに自然と惹かれていけば自ずと道が開かれる』みたいな事らしい。
ならば今のままで問題ないだろう。何せ翔子は14年前から精神の根幹が変わっておらず、敵対組織に身を置いてはいるものの心の中は純粋なプリピュアなのだから。
(いよいよ本番・・・新たな人生の幕開け・・・う~緊張してきた!)
待ち合わせ場所はとある繁華街にある大きなビルの屋上。ブラッディジェネラルは初陣の為、今回は先立ってプリピュアと戦ってきた幹部が同伴してくれる。
一応顔と名前だけは憶えてきたが何せ仲間内なのに初対面。タブレットでみた感じだと非常に幼さの残る少年っぽかったが果たしてどんな人物が・・・・・
すりすりすり・・・
何だろう。臀部が何か暖かくて柔らかい物に包まれている気がした。見てみると同僚であり幹部のネンリョウ=ツイカがその小さな手でこちらの体を興味深そうに撫でているではないか。
「・・・何してるの?」
「よっ!ブラッディジェネラル!これは挨拶替わりだ!あははっ!!」
自分と同じような白と黒のコスチュームを身に纏ったクソガキ・・・悪ガキが生意気そうな表情でこちらにいやらしい笑みを浮かべていたので思わず両手で拳を作る。
組織内のデータではその年齢が記されていなかった為不思議だったが間違いない。このツイカは未成年も未成年。見た目も声も話し方も男子小学生そのものだ。
折角の戦い前に同僚との揉め事はよろしくない。かといって純粋且つ現役教師のブラッディジェネラルはこの素行不良を見逃せるはずもなく。
「いててててっ?!」
その右手の甲を思い切りつねって引っぺがすとツイカの前で腰を落として満面の笑みを向けながら諭し始めた。
「ネンリョウ=ツイカだよね?君?いきなり初対面の女性に触れるなんてどんな教育を受けてきたのかしら?」
プリピュアと敵対している組織の人間が物事の善悪を説くなど倫理観が壊れそうだが彼女はこの世界に戻ってからやたらとセクハラを受けている。
そもそもこんな小さな少年が女性の尻を撫でる詳しい理由などを知っているわけがないのだ。ここは大人として、教師としてしっかりと注意するとツイカは真顔で固まってしまった。
「そういう事は大きくなって結婚してからにしなさい。いいわね?」
自身が叱られていると自覚した瞬間に一番大事なことを伝える。こうすれば純粋な少年少女は心に刻み込むのだ。
いかにも中学教諭らしい言動を彼がどう受け取ったかはわからないが視線を一度外した後すぐに切り替えたのか元気良く名乗り上げる。
「・・・僕はネンリョウ=ツイカ!!秘密結社『ダイエンジョウ』の幹部だ!!今日こそプリピュアをやっつけるぞー!!」
「お、おおおー!!!」
遊園地のヒーローショーみたいなノリだがこの世界こそ翔子が求めていたものだ。黒いマスクとマントをかっこよく翻しているだけで心が躍る。
「それじゃ行こうか!ブラッディジェネラル!」
お互いが握り拳を高く掲げると先ほどまでの空気は霧散され、彼らはその屋上から一気に飛び降りると目的地周辺まで壁や屋根を跳んでいった。
しかし目的地はそれほど遠くなく、とある繁華街の近くまでくるとツイカが手招きしてこちらを呼ぶ。
「ブラッディジェネラル!今日はここで『アツイタマシー』を回収しよう!」
大きな駅が付近にあって人通りも多い。自分がプリピュアとして戦っていた頃はこういう状況がなかった為思わず周囲の被害を心配してしまう。
「冷え切った皆、『アツクナレヨー』!」
しかしツイカは既に規定通りの台詞と共に例のアイテムを人が行き交う中へと投げつける。するとたまたま当たった男性が一瞬苦しみもがくとみるみる巨大化していくではないか。
(こ・・・これが・・・『ダイエンジョウ』の力?!ほ、本当に大丈夫なんでしょうね?!)
人体に影響はないと聞いていたが『アオラレン』となった人間は大きなスマホの化け物となって「アツクナレヨー!」と叫んでいる。
手足の造形こそピンポン玉みたいに簡素なものだがその直径は車以上だ。それをぶんぶんと振り回すのだから建物は損壊し、人々は逃げ惑いと想像以上に酷い光景が出来上がっていた。
「いいぞー!!もっと暴れて『アツイタマシー』を成長させるんだ!!」
あまりの惨劇に引いているブラッディジェネラルを他所に男子小学生ツイカは慣れた感じではしゃいでいる。これはもう一度しっかりと叱りつけなきゃいけない。
そう決意した次の瞬間。
どっかーーーん!!!
突如上空から隕石のようなものが落ちてきた。どうやら赤いコスチュームに身を纏った美しくも可愛らしい少女がその化け物に豪快な飛び蹴りをかましたようだ。
(来たっ?!)
その荒々しい動きとは裏腹に可愛さを前面に押し出した衣装は紛れもなく自身が身に着けていたものと同じ系譜だろう。
赤を基調とした奇抜な髪型を持つプリピュアは反撃を交わして地面に降り立つとその背後からは青と黄の仲間も駆けつけてくる。
(キタキタキタキタキターーーーッ!!!)
感情や言葉を面に出す訳にはいかないので心の中で絶叫していると3人がツイカの姿を捉えて山場前の問答が始まった。14年の年月が経っていてもやはりテンプレというものは継承されているらしい。
「てめぇ?!クソガキッ!!また懲りずに悪さしてんのかぁっ?!」
・・・・・あれ?可愛らしい姿とは裏腹に随分荒んだ口調だな。顔のつくりも可愛いのに目つきは鋭くまるで野犬か狼のようだ。
「へっへーんだ!今日こそ僕が勝っちゃうもんねー!!やっちゃえ『アオラレン』!!」
対してこちらは見た目通りの反応にむしろ心が和む。だか彼女達も街を守る為に全力で応戦態勢を取った。ここは自分も加勢すべきだろう。
しかし不意を突くのは性格上気が進まない。であれば仕方ない。ブラッディジェネラルは囲まれて攻撃を受け続ける『アオラレン』を守るべく14年ぶりの実戦に身を投じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます