新たなる一歩へ―②―
自身のシンボルカラーが赤だった。なので最初はレッドジェネラルで申請したのだが安直すぎる理由から没にされ、結局同じ赤色からブラッディジェネラルで正式に決定した。
(・・・まぁいいわよね?赤はイメージ出来るし!)
またもプリピュア要素から遠く離れた事には目を瞑りつつ、今日は様々な企業の重役が集うパーティに呼び出されていた。
というのも季節は3月。いよいよ本格的にプロジェクトが始動し、敵対しているプリピュアも3人が揃ったということで今後の展開やスポンサー達との意見交換なども行われるらしい。
「ここにいる人々は全てが我が組織の資金提供者です。くれぐれも粗相がないようにお願いします。」
ネクライトがそう教えてくれるのだが自分を含めて少しだけ浮いた格好をしている人物がちらほらと見える。
タブレットの組織構成員でその顔と名前は確認していたものの他の幹部と直接会うのも初めてだ。少しどきどきしながらそちらに声をかけに行こうか悩んでいると。
「おお!貴女ですか!元ピュアレッド!!いや~お会いできて光栄です!!」
「違いますよ!今はブラッディジェネラルと言うんです!14年前と変わらず可愛らしいですな!はっはっは!」
「うむうむ!会長の無茶ぶりに疑問を感じていましたがこうして実現した所を目の当たりにすると実に感慨深い・・・今期こそ是非プリピュアを完膚無きまでに叩きのめして下さい!」
たちまち企業の重役らに囲まれて身動きが取れなくなった。まさか彼らにも自分がピュアレッドだった事は知られているのか。
引退してからもカミングアウトした覚えはないのだが昔自慢したくても出来なかった為、14年越しにファンから熱い気持ちをぶつけられるとは思ってもみなかった。
「あ、ありがとうございます!私も折角この世界に戻ってこれたので精一杯頑張ります!!」
まるでアイドルみたいな扱いに思わず浮かれてしまう翔子。挙句握手会まで始まってしまったのだが隣にいたネクライトがそれを止める素振りはない。
(しかし敵対組織ってこんな風になってたんだ・・・)
妙に脂肪の乗った湿り気のある手と握手を交わしながら名刺を受け取りつつ感心してしまう。自動車の名で知るタヨトや玩具メーカー、精密機器の大会社や挙句航空、鉄道会社などなど。
確かにプリピュアと違ってこちらは組織を運営していく必要がある為資金は必要だろう。だがここまで多数の企業が関わっていたとは思わず名刺をもらうたびにただただ驚く一方だ。
「ほう。よくお似合いだ。真宝使翔子さん。」
突然後方から低く威厳を感じる声が聞こえると周囲の重役達の態度が変わる。
「これはこれは会長!!」
すると握手会は中断され皆が会長と呼ばれた男と挨拶を交わす。背丈は170センチくらいか。歳が読みにくいのはその威圧感からだろう。非常に雄々しい顔つきながらも体にはたっぷりと脂肪が乗っておりスーツの上からでもその恰幅の良さが伝わってくる。
だが当の本人は周囲の人々を軽くあしらうとこちらに近づいてきてかなり近い距離で足を止めた。何かしらの香水が鼻孔をくすぐるも翔子は何か不穏な雰囲気に思わず息を飲み込む。
「私が五菱財閥の会長、五菱助平(すけだいら)だ。」
あまりにも巨大な存在を目の当たりに今度は違う意味で息を飲んだ翔子。まさか財閥と呼ばれるものまで関与しているなんて・・・
「ブラッディジェネラル。このお方の鶴の一声で今回貴女の起用が決定したのです。是非お礼を。」
半ば呆けている所にネクライトが初めて口を開く。そうか、彼のお蔭で自分はまたこの世界に戻ってこれたのか。ならばと最高の笑顔を浮かべて元気よく謝意を述べようとした時。
すりすりという生易しいものではない。むにゅりむにゅりといった正に揉みしだく表現だろう。
彼は右手で握手を交わしたまま更に一歩近づいてくると余っていた左手を翔子の臀部に押し当てて無遠慮に欲望を解放してきた。
一瞬頭の中が真っ白になりまたも違う理由から息を飲み込む。だがその状況は相手の口から出てきた次の言葉で打破された。
「部屋を取ってあるから来なさい。3701号だ。いいね?」
いつのまにか男の顔が耳元にまで近づいていたのを今更知った翔子はどちらの血が沸き立ったのだろうか。
握手していた右手をそのまま利用してセクハラ男を大きく床に叩きつけた後呼吸が詰まって苦しそうな表情を浮かべた男の額につま先を乗せてジェネラルウィップを顕現する。
ぴしゃっ!!!
それを叩きつけると身体能力向上のせいもあり床には長さ3メートルほどの深い亀裂が走った。
「・・・私の体に触れていいのは私が許す人だけなの?わかる?」
激しい憤怒で心と頭が沸騰していた翔子はこの日初めて使った言葉遣いと共に組織に関わる全ての人間達をあらゆる意味で虜にしていた。
「自己紹介の前にまず減俸処分だと伝えておこう。」
「そ、そんなぁ・・・・・」
翌日初めて訪れた組織ビルでトップのネンリョウ=トウカ閣下に厳しい現実を突きつけられていた。
「『そ、そんなぁ・・・・・』ではない!!!!あの方は組織運営の実に半分を出資して頂いている!!!彼の一言で君の首が飛んでもおかしくなかったんだぞ?!?!」
株式という仕組みではない為その権限があやふやな部分ではあるが、それでもパーティで皆があれ程畏まっていた理由はわかった。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「でもあの人私のお尻を鷲掴みしてきたんですよ?!しかも部屋に来いとか言ってたし!!向こうの方こそ社会から抹殺されるべきです!!」
翔子もありったけの不満をぶちまけてはみるも政界にまで多大な影響力を持つ男がそのような末路を辿る訳もなく、更に組織を含めその関係者全てが彼に意見など出来る訳もない。
「・・・あのねぇ。枕なんて太古の昔からあるんだよ。派手な仕事や大企業に限らず一般の中小企業でもね。」
「私はやりませんよ?」
さも当然みたいな論調を持ち出されても聞く耳を持たない彼女は両手で耳を覆う。というか女を何だと思っているのだ?昨日の憤りが再燃した翔子が反論しようとすると。
「・・・会長も申し訳ないと伝えて欲しいと仰っていた。君からも何か伝言はあるかね?」
おや?思っていた以上に手痛い反撃を被ったからか随分としおらしい反応ではないか。そんな素直に謝られると流石にこちらも少しだけ溜飲が下がる。
「えっと。・・・今度からはそういうの無しでお願いしますとお伝えください。」
かといってこちらが悪いとは思っていない為あくまで謝罪は受け取ったぞ、といった体の言葉を告げるとネンリョウ=トウカ閣下は頭を抱えて首を横に振っていた。
「まぁ君を強く推したのも会長だしね。これ以上角を立てないようにだけは心掛けてくれたまえ。」
時折口調を作っているのはやはり閣下という役職からだろうか。とにかく昨日の話と減俸について話がまとまると閣下は表情を変えていよいよ本題を切り出してくる。
「さて、いよいよ君にも『ダイエンジョウ』の一員として働いてもらう事になる。」
遂に来たか・・・出来れば度を超えたあくどい事には手を染めたくないなぁと感じつつ閣下直々の命令を静かに待つブラッディジェネラル。
すると彼が座っている机の引き出しから何やら黒い炎を象ったピンポン玉みたいな物が取り出されて上に置かれる。
「これが熱を生産する為に作り出されたアイテム『アツクナレヨー』だ。」
「『アツクナレヨー』・・・安直な名前ですね。」
「いいんだよ!こういうのは分かりやすさが重要なのだ!!」
何やら某芸能人の口癖にも似た名前だが確かに憶えやすい。しかし過去の記憶を辿るにこのアイテムは恐らく人か物にぶつけて対象をモンスターへと変貌させるのだろう。
それを今度は自分の手でやるのか・・・いよいよとなってくると流石に良心が警鐘を鳴らしてくるがそれを察した閣下は説明を続ける。
「これは人々の『アツイタマシー』を回収する為の作戦だからな。彼らがこれで『アオラレン』となっても基本的に人体が破損したりといった恐れはないので安心したまえ。」
「・・・『アオラレン』となった人間から頃合いを見計らってこのジェネラルブレスレットで回収、の流れですね?」
「流石教師だ。よく予習しているではないか。」
ここまで来たら後には引けない。まずは1回実践してみようと心に誓ったブラッディジェネラルはこの日自宅で何度もタブレットの作戦内容を見直してはイメージトレーニングを重ねるのであった。
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