ドラゴンズ・アンド・フェアリーズ
村上 雅
第一章 - その一
ドラゴンズ・アンド・フェアリーズ
第一章
その一
ついに来た。嫌、俺は来てしまったんだ……もう。
今、俺の足元の土は乾燥しきっていて、トレッキングシューズの厚底の下の少し膨らんだ土の塊は硬そうにみえても、軽く踏むと砂のようにつぶれる。
俺の目に見えるものは、ただ枯れた草が点在してはいるが、見渡す限り荒野ってところだろうか。どこに行けばいいのだろうか、まるで見当もつかない。
本当に頭真っ白で
空の色もなんだか真っ青ではなく、なんとなく赤みのあるっていうか、少し紫がっかてみえるが、まあ、そんなことどうでもいい。
俺はこれからどうすればいい? どこに向かえばいい? まったく分らん。
周囲を見渡すと、少し離れたところに木の枝のようなものが目にとまり、それを拾いにそこに行き、その枝を手に取てみた。しかし、その枝は、枝というより棒に近い太さがあって、野球のバットより少しだけ長く、少し
俺はとりあえず、その棒を空にむかいクルクルと
行く当ても
しかし、これが牙だとしたら、こんなものを持っているヤツがいるとなれば、俺が来たこの地はとてつもなく恐ろしい、俺はその瞬間背中に冷たいもの感じ、まわりを見渡し確認をし、少しでもその場から離れたい、と行く当てもなく歩き始めた。
一時間ほど歩いただろうか、何だか俺はヤツの計略にのってしまいここで死ぬのではと時折かすめる思いに、仕方のないこと、と半分は俺自身が招いたこと、と自身の覚悟のなさをおさえつけた。しかし、照りつける太陽は、長袖のジージャンのおかげで直接肌を焼かないまでも、この地を照らす二つの太陽は荒野の地表をじっくりと温め、俺は蒸し焼きにされる思いだ。ちなみに、不運なことに俺の着ているジージャンにジーパンは両方ともに黒い。
さらに歩いていると、生命感のないところへと来た思いだったが、動物の朽ちた死骸とたまに骨や牙などが目に入ることが多くなってきた。
ヤツは猪のように土煙を上げながら突進をしてくる。近づいて来ると次第に
打った瞬間、手ごたえは十分あった。振り下ろした牙はヤツの後頭部を打ちながら同時に
ヤツの第二の攻撃に用心し振り返るが、ヤツは倒れもう立てないようだ。足が大きく
倒れたヤツをじっくり見ようと近づき、泡を吹く口元に持っていた牙の細い先で触れた刹那、バシッと音を立て電気回路がショートしたかにように一瞬火花が散り煙が立ち上がった。
もしや、この獣に咬まれると痛いだけではなく同時に俺の肉は焼きただれる、ってことだろうか。試しにもう一度もう死に絶えた獣の口に牙をやると、またバシッと火花が立ち上がった。
またこの獣に出会うことがあればかなり用心をし、あまり接近戦はひかえないといけない、少し咬まれただけでもけっこうなダメージをうけるのかもしれない。
だが、そのような心配をよそに、また倒した獣と同じヤツが現れた。気を落ち着かせる暇もなくまたの危機に臨戦態勢をとり、やってきそうにグルグルと呻る敵に向かい先ほどのヤツを倒した時と同様にやってしまう戦法で立ち向かおうと、牙の細いほうを両の手で強く握りかまえたが、右端の視野に三頭の獣の姿が見え、更に左のほうからも二頭出てきた。
クオゥーと正面のヤツが
あとはこの軽い牙を思う存分振り立ち向かうだけだ。持つ手にも汗を感じる。その刹那、なぜか脳内にアドレナリンが噴き出したかのように、俺の中に戦場の神アレスの息吹きを受けたかのように戦意が全身を駆け巡るのを覚える。不思議な感覚だ、何者かが俺の中にいる。どうしようもなくそれを感じる。俺の中にいるヤツは、多分笑っている。戦いを真近にし、やって来る恐怖を目の前にし、悦びに似た
俺は、そいつのその
これは果たして俺なのか、俺自身からの声なのか、まるで周りの空気を振るわせるほどの図太く低い呻りに、出した俺も
視線を前にしていた俺だったが、左端の一頭が駆け出してきて、それを合図に他のヤツらも駆け出した。最初の左端の一頭が来ると思いきや、フェイントをかけピッタと止まると、そこを見ていた俺の目の右端から猛然と跳んでくる影があり、それを両手では間に合わず、すかさず右手一本で顔面を
それは一瞬の出来事で、手に振り下ろした牙をとおして一頭ごとに結構な衝撃が確かにあった。軽かった牙は折れてはいないかと心配で目をやると、血で赤くなった太いほうはまるで血を吸い込むように血はフェードアウトしていき、拾った時のままの牙の状態になっていた。それと同時に、手に持つ牙が少し重くなったような気がした。
少し離れたとこにいたリーダー的獣に目をやると、そいつは大きく空に向かい遠吠えを二度長くして、こちらに来る気配なく、なぜか自分の周りをただグルグルと回ている。もしや、あいつは他の獣たちを呼び待っているのでは、と気になり、それはまずい、それなら早めにあいつをやらなければ、と思いそいつのもとへ走り出そうとしたところ、あいつの後ろから続々と獣たちが土煙を出しながらこちらへと駆けてくる。
一歩遅かったか、と一瞬ためらったが、そのあと不思議なことにまた笑みがこぼれた。この俺が、戦いを望んでいるのか? おかしい? 格闘技や口喧嘩にしても余計なことなど敬遠してきた俺が? ましてやキャンプ関係の情報誌のライターの俺が、戦いなど好むはずはない。しかし、そうは思っても体の血は
訳も分からず俺は、疼く血に突っつかれ衝動に駆られ奇声を上げながら笑いとともに突っ走っていた。
だがこちらへやってくる獣の群れは、狩りや戦いに慣れているのか、初めにブイの字に陣形を取り俺を間近にしてダブルの字に陣形を作りながら、両翼が速度を一気に上げ俺を左右から挟み込むようだ。
戦略などこれまで考えたことなどない俺だったが、本能的に片方の俺から見て右翼のほうから先ずは蹴散らせば獣たちの陣は崩れる、と俺はそう
それから
なんだ、と首をひねる俺のもとにリーダーはきて、伏せた。目はきりっと見張り俺を
俺は何だか哀れな感情を持っているのに、なぜか血はまだ血を
俺に生死を
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