第一章 - その九
その九
遥か彼方、四方の空の向こうより光がひとつの方向へと向かっている。その光を見た人々は、
ヴォーナは、その光の気配を感じとり
「おおぅ、来るか。やっと、この男を救いに、そして我の前へと姿を現すか……なんとも
ヴォーナの目の前では、彼女の率いる十二使徒たちがキールを護るため水と土で防御された壁へと進もうとするが、風と炎の攻撃にあい思うように近づけず、
「ふん、やるではないか、なれど我が十二使徒を甘く見るな。どこまで持ち
崩れ落ちた十二使徒の鎧は元の形を作り
「ふーん、なれどやはり低級の十二使徒などでは相手不足で、相手の力量など
ヴォーナはそう言い、震える肩に両手で抱きしめ
「ヴォーナ様、お気を確かに、戦いを前にし、またですよ。このままではレン殿がまたセイレム殿同様に再起不能になり迷宮の療養所送りとなってしまいます。ですからその手を、レン殿から放してやってくださいませ」
髪を引っ張られて正気にもどったヴォーナがレンを見ると、レンはぐったりとしヴォーナに抱きかかえらていた。
「おお、レンよ、すまぬ。我としたことが、また……」
レンは閉じていた眼を薄くあけ消えいる声でぽつりと声をもらした。
「いいえ、ヴォーナ様、私の精気をお吸いになられ、私自身がヴォーナ様の一部になった気がしてうれしいです……」
そう言い、また目を閉じた。幾分ヴォーナの腕の中でやつれたレンをヴォーナはどさっとその場に落とし、空を
「来るぞ。やつらがそこまで来ている。ギヴァン、そなたの軍はもう用意してあるんだろうな」
「はい、ヴォーナ様、見てやってください。あのように
ギヴァンの示す手の向こうで、くすんだ鎧のような
「おお、やっと来たか……十二使徒は、ギヴァン兵にその場をゆずり、後ろへ一時退却だ。ギヴァン兵は、ギヴァンの指揮のもと指示が出るまで動くな」
ヴォーナは、これから始まる戦いに目を輝かせ空を見ていたが、空の四方のから光がり飛んでくると、キースの頭上にあつまり、光はヴォーナの目の前に降りてくるのと当時に人の形となった。薄いベールのような
「うぅん、あのような
四人の妖精たちは、ヴォーナの声が耳に入らないのか、呼びかけにはなにも反応を示さず、その中の淡い水色の衣と淡い黄色の妖精が、なにやら
「うっ、うぬ、さすがだ。我を目の前にし、
それでもヴォーナの声に反応はなく、淡い水色と黄色の衣を着た妖精ふたりの口元は動き続ける。それに呼応し焼け炭と化したキールの体に地中より土がせせり出てきて、キールの身を足元から包みはじめてきて、それを追うようにして水が更に幕を覆うようにし包みこみ、キールの全身を包み込むとひとつの塊とした。
「さあ、我に挑む者たちよ。これで済んだようだ。それでは始めようか……さあ、ギヴァンよ、そなたらの兵の見せどころだ。そなたも恥じぬよう心して我にその
ギヴァンはヴォーナの言葉を聞き、
「私のかわいい兵士たちよ。いや、私の同胞たちよ。己らは生まれながらにして戦闘が好きなその身に、様々な鉱物を使いどのような鎧にも引けを取らないほどの強度を
ギヴァンは、一呼吸し、右手を大きく振りかざし号令を兵にかけた。
「さあ、私の兵士たちよ、今こそ我らが
その声を聞いた昆虫のような兵士たちは、ギャーギャーと騒がしく土煙と共にいたるところで声を挙げ、広場の中心へと歩を進めていった。
ヴォーナは嫌そうに顔を
「あの騒音のような声をいつ聞いても、毎回ほんとに
それを聞きギヴァンは、嬉しそうに礼を言い。さあ私のかわいい兵士たちよ。やってください、と楽しそうに声をかけた。しかし、妖精たちとの半分の距離まできた時に、黄色い衣を着た妖精の手は前へと素早く動くと、石の
それを見てヴォーナは、楽し気にギヴァンに声をかけた。
「ギヴァンよ、どうした。お前は昨夜、己の兵はこれまでになく鎧の装甲には手間をかけ無双の域までになった、と我に
「いえいえ、ヴォーナ様、まだまだこれからで御座います。見てやってください。私目はこれも予想済みで、更に後方に一万の兵を布陣しております」
ギヴァンのかざす後方をヴォーナは目をやり、にやりと笑みを作った。
「そなたは根比べで勝機を作れると思ってか……でもいい、あの妖精らの力量もこれで見ることができるし、今回の戦いはこれでいい。そなたは、本当に我の思いをよくぞ
ギヴァンは、その言葉を聞き、にやりと笑い。戦いの場の後方へ手で合図を送り、総攻撃へとフェーズを変えた。しかし、その光景を目の当たりをしても妖精たちは表情をいっさい変えなかった。
水色の衣を着た妖精が手を頭上の少し前にかざすと、戦う敵の頭上に大きな水の塊ができ、手のひらをひろげ降り下ろすと、水はいくつにも分かれ、散らばる敵にむかい水は落ちてくると鎧の中やら口の中に入り込みその後、敵の体もろとも炸裂を起こし、いたるところで敵兵の鎧の
「もういい、あれを見いぃ、あの妖精らはギヴァン、己らの兵の半分以上をこのわずかな時間に、こうも
ヴォーナは、そう言いまだ戦いの続く戦場へと飛んで行った。それを見たギヴァンは、「何が
空高く飛んでくる大きな気を感じとった妖精たちは、攻撃の手を止めヴォーナが目の前に降りるのを待った。
「ふーん、こうも近くで見ればなおにそなたらはきれいな顔をしている。どうしても欲しくなった。どうだ、そなたらの考えは改めなくともよく、ただ我の傍に居てはくれぬか……やはりか、やはりそなたらはダームとエイムとの誓いか? いずれはあやつらを我はこの手で
ヴォーナは、そう言うと妖精たちの顔をしげしげと見まわし、「やはりなぁ」とぼやきながらも笑みを作った。妖精たちはヴォーナになにを言われても彼女に、無表情なままでただ視線をおくっていた。
ヴォーナは、後ろでギヴァン兵が後退してゆく足音を聞きながら更に大きく笑った。
「さあ、このまま我は帰るのが惜しい。そなたらの顔をずうと見ておりたく、名残惜しいのだ。されば、少しの
妖精たちは互いに顔を見回し頷くと、一斉に前に手を突き出し攻撃をし出した。
「どうした。それがうぬらの力か、我が
ヴォーナは、
妖精たちからの目を
「お嬢様たち、過ぎたオイタはいけませんわ」
右手をだらりとたらし、左手を腰にあて頬に笑みを作り、言葉ととみに右手で妖精たちにむけ彼女たちへの
「なかなかのものだ。そなたらは知らぬであろう。我の着ているものが、第九惑星に住む、そこに住む生き物どもの最強の頂点に君臨する邪竜と呼ばれている生き物を……そのものは恐怖をマナとし、その皮は鉄なら厚さ十センチほどの強度をもち、
そう言うと、ヴォーナは空を仰ぐとともにため息を吐いた。
「ところで、多分うぬらは良しとはしないだろうが、ひとつ提案なのだが、我とそなたらでの賭けをしようではないか、そなたらはその瀕死となっておるその男、キールというものを
「それはまたヴォーナ様、
そう言うと、なにやらにやにやとヴォーナに
「して、フェアリーたちよ、我は賭けと申したからには、こちら我にも得るものがあることは知っておろうが、それは納得してくれような。我の望むものは、もちろんその男キールだ。そしてそなたら全員だ。そのことをうぬら承知しようとしなであろうと我はそなたらを倒し、その
ヴォーナはそう言うと、楽しそうに目をほそめ四人の顔を
「さてフェアリーたちよ。そなたらどうするかな、まあどっちにしろそなたらは我と戦うことを
ヴォーナは話しながら、余程ダームやエイムに対しての積年の思いは強かったのだろう、
「さあ、どうなのだほんの少しだけ考える時間をあたえよう」
その言葉に四人は、同時に頷きをみせ、四人は顔をちかづけなにやら話し合った。それを眺めながら、ヴォーナはオヤッと何かを見つけたのか片頬をつりあげ微かな笑みをつくった。ヴォーナが見たものは、四人の話し合いのなかで水の妖精だけがたまに感情を微かだったが表に出て、何度か首を横に振り
「私たちも元々貴方のような方がくることは使命の中で想定内のこと、なれどまさかダーム様とエイム様を知っておらる方が来るとは思ってもおりませんでした。そこで二十年という思いをしておりましたが、三十年という時間を下されば、貴方様も少しは存分に満足のいく戦いを楽しめると思います……如何でしょうか」
ヴォーナはその答えに満足をしたのか、満面の笑みをつくり、ぷっくりとした胸の下で腕を組みながら胸とともに大きく頷きを見せた。
「よかろう。これから三十年という時が待ち遠しいくも楽しみだ……おっ、そうだ。あのな、そなたらのその顔はとても涼しげで余裕のあるように見受けるが、だが忠告をしておくが、先にも言ったが我はダームより強いと我は
ヴォーナは最後の答えを言うのと同時に動いた。その姿は妖精たちにも見えはするが、駆けてくるのを目で追うのがやっとで、常人なら一瞬で目の前にヴォーナがいるという感じだろう。水の妖精の前にヴォーナは顔を近づけ右腕で妖精の首にまきつけ頬に軽くキスをし、左手で妖精の胸を
「おう、なんと見た目に似合わずなものを持っておるな。そう固くなるでない、我はただそなたらに、我とそなたらとは次元が違うということを見せたかっただけだから、安心せい我はこれで帰るとするが、そなたらへの我の言う三十年というのはただの目安だ。三十年といわずそなたらの準備の出来ようで我にもわかるように合図を送れ。我も合図もなくその頃には気分次第ではまたそなたらの前に顔を出すやもしれぬ。その時はお互い旧友を迎えるような顔で笑えることを期待しておくぞ……それではな」
そう言うと、ヴォーナは残っていたギヴァンと後ろに
「うぬらか? うぬらが我の
レンの目には炎が見えるほどに妖精たちへの
「フェアリーたちよ。我は帰り際には
そう言い、ヴォーナは
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