第一章 - その八
その八
厚い城壁に囲まれ城の内部は王族とその関係者たちはなにも
その日も、誰もがみな
その恐ろしい光景を目の当たりした者たちは、ただただ胸元に手を組み合わせぶるぶると身を震わせるだけであった。それは王に
街中ではいたるところで絶望の悲鳴が鳴り響き、閉ざした窓や戸の内では外で鳴り響く
そんな恐ろしい時間は、夕暮れとともにぴたっと止み静けさが訪れた。この国を
「これはこれは、この国の王、お初にお目にかかる、我はヴォーナ様の使者として参りました」
その
目先の男に、日中の恐怖を忘れたのか、王はその男に声をかけた。
「して、そなたはなに用で、我の前に現れた」
王のその問いに、その男はかるく笑い、受け流すような素振りで王を
「ここに来るまでにけっこうな時間をついやし、何かのどを
と言い、その言葉を聞き王は、やっと聞けた使者の声にすぐさまベッド脇の天井からぶら下がっているロープを引き、部屋の外に待機している
ワインを目の前にし、男もメイドに笑みを返した。
「ほう、これはまた、とても美味そうな、
そう言うと、男はメイドの両肩に手を置いた。メイドは急なことに戸惑いの表情をみせたが、男がまた「いただきま~す」と言い、目の前で穏やかだった顔を一変させ、顔だけがまるでカマキリの頭のような形を作り、大きく口を左右に広げ、恐怖に
ベッドの縁に腰かけている王は、目の前で起きている
先ほどまで若くぷっくりとすべすべとしていたメイドの手は
「さあ私がヴォーナ様の
なにやらガサガサと変なノイズまじりの声で近づく化け物に王は次は自分がこれに喰われるのか、と怪物を視ることができずただ震えていたが「この国の王よ。昼間のこの国においての惨劇については、お耳に入られていると思われますが、如何で?」と、聞こえてきた穏やかな声に震えは止まり顔を上げると、そこには先ほどの紳士然とした男が立っており、口についたメイドの血をハンカチで拭いていた。
王はただ首を縦にふり
「はい、それならこれより交渉に入りましょう。よろしいですか、そちらの返答次第では、明日もまた今日のようなことが起きかねないので、お答えになるときにはくれぐれも
王の頷くのをみて、男は少し笑みを見せ、話を続けた。
「話は簡単なこと、ヴォーナ様はただある男を探して差し出して欲しい、ということだけ。どうでしょうとても簡単なことでしょう?……アッ、その男というのは黒々とした漆黒の目をして背中には四つの玉のような
それを言い、男は王の返事など聴く気などないかのようにすたすたとバルコニーへとつながる扉へと歩を進め始め、王はやっとこの時、災難から逃れることができると安心をしきった時、男はぴたっと歩みを止め振り返り思い出したかのように喋りはじめた。
「ああ、私としたことが、そういえば男を差し出すのをいつまでなのか、を言うのを忘れていました。期限は一ヶ月としましょう。これでも私は努力をしましたよ。ヴォーナ様はどうしても三日以内と言い張って、それでもう私は大変でしたよ。分かりますね? くれぐれも期限はきっちりとお忘れなく。さもなくば、ヴォーナ様は空より天空の扉を開け、腹をすかせた魔物たちを寄こすこととなるでしょから、それだけは
男はそう言い、バルコニーに出てばたばたと音と共に消え去った。
それから国中の男たちの素性調べが始まり、ほんの一週間内にある村の男が城内に連れてこられ王への
王としても男の
三日目にはなぜかヴォーナのあの使者が現れ、王に
そんな母の話の内容では、その女がひとり村のはずれの森に
そして、ヴォーナが来るという、その当日がきてまだ夜が明けて間もない時間だったが、城の広い中庭においてヴォーナを迎えるための場所が
王は、その客として来るはずのヴォーナのために
王は、ヴォーナのために中央の席を空け自分はその隣の右の席に座り、もう時間としては一時間は経っているだろうか、朝の風は涼しく冷ややかだったが、いつしか王の額には汗がにじみはじめ客はいつになれば姿を現すのだろう、と思いがよぎった刹那、空からばたばたと音がしてグリフォンのような怪物の背に乗った先日のヴォーナの使者が現れた。
使者は、乗物から飛び降り気楽に声をかけてきた。
「これはこれは、王よ、よい出迎えであるな。さぞかしボゥーナ様もご機嫌をよくされるであろう」
王は、使者の言葉に
「して、使者殿、そなたの主人のヴォーナ様はいつ頃こちらへお顔を出してもらえるのかな」
「はい、もちろんヴォーナ様は
使者は、王の肩越しに深々と頭を下げた。その様子を見、王はまさか、と後ろを振り返ると、そこに全身黒ずくめの薄い革の胸の大きく開いた服に、そのままつながったパンツ姿で、また服と同じ素材のものが頭にへばりつくようにあり、そのかぶった後頭部の途中までしかなく、切れ目からは長い髪が黒々としっとりと風をうけていた。その姿を見て王は思わず「おっおう」と声をもらし初めて見る完璧な美しいものに目を奪われたが、ちらりとのぞくヴォーナという女の鋭い眼光に
「ヴォーナ様、
ボゥーナは、その言葉に返事もせず、ただ付き添いの女に目をやり、早く着させろと
「さて、王よ、さぞ待たせたであろう。我が城を離れると言うとなんだかんだとまわりがこのように
彼女の声は
「王よ、そなたは我のどこに目をやっておるのだ。我にとって今日は大事な日で、幾百年ものあいだ待ちかねた願望の叶う時が来たのだ。そなたの
ボゥーナのその声を聞いた瞬時に、付き添いのメイドの女はどこに隠し持っていたのか目にも見えぬ速さで短剣を手にして王ののど元に切っ先を当てていた。
「おのれ下郎が、うぬはヴォーナ様に
「まあレン、そう早まるでない。今日は、こちらの王によって我の愛しき者がこの手に来るのだ。それくらいの
ボゥーナはそう言い、レンという女の王に向けていた短剣を握る手を
「さあ王よ、もうなにも
ヴォーナは、大きく手を広げた。その時、王は何をヴォーナという女は……ヴォーナと付き添いのレンという女の美しさを視れば、我らのこの国と美に関しての感覚は同じなように思えるのだが、なにもあんな薄汚い男など幾百年からなる思いなど笑わせるわ、との
そして、男はやっと兵士によって丁重に連れてこられ、庭の中央に設けられたひざ丈の高さと四方三メーター程の木でこしらえたスクエアなステージに立たされ、王たちの前で相変わらず背を曲げ俯き、黒い長い髪で顔は見えずにいたが、ヴォーナたちは話し込んでいたが、レンが男に気付き
男を見たヴォーナは
「王よ、なんだこれは……これは、なんなのだ? もしや、我が望んだ者はこの男ということなのか? 我は、そなたらの尽力にたいすることをどんなにうれしく思ったことか、それには我はどんな風に報えばいいのか、をそこにおるレンとギヴァンと共にこれからのこの国をどのような形で同盟国としてやっていこうか、を話していたとこだったのに、それをそなたらは、そのような我らの思いに泥を……嗚呼、もうよい。これよりはこの国を皮切りにこの星を我が手中に収めるため、第一の血祭りの
「おおう、ヴォーナ様、それはなにとぞ……なにとぞ、お許しください。我たちは、ヴォーナ様に望まれたとおり、その
王は、ヴォーナのその話を聞き終えた瞬間、
「この星の
ヴォーナは向こう端で緊張のあまり声を震わせていた男に目を向けていたが、少し笑みをつくり、そこに声をかけた。
「うむ、よいぞ。なれば、そのほうもう少し我の前に近づき、その男について我に話してもらおうか、そのほうに、
ヴォーナのもとへ近づく若い男は、名をアレンといい后の実兄の息子で、財務大臣より下の城での備蓄品を管理などを任されていた者で、日頃よりこの国を
「ヴォーナ様、この
「うむ、そなたのこの国を憂う忠義心に免じ許してやろう。心ゆくまで己の丈を述べるがよい。この国には、この者のように忠義の心を持つ
ヴォーナは、片手のひらを見せ、さあと若者に発言を
「おお、それは誠の話か? なれば、この我は一時の怒りのあまり取り返しのつかぬことをするところであった。それから、その男の母と申す者に話を聞きたい。今すぐここへ連れてくるのだ」
男の母は、この日も城門近くにいて、ヴォーナの前に差し出された。その母は、うつむきただ立たされている男を見て、「キール」と我が子の名を叫び近寄ろうと走り出したのを兵士よって
「おお、まさしくだ。まさしくそこにいる男は、我の探しもめとめる者に由縁のあることは確かなようだ。ダームとエイムよ、そなたらの隠したものは我が探し出し手に入れようぞ。ところで王よ、この場よりもっと広いとこはないか? そこにキールとかいわれるその男をそこの真っただ中へ連れてゆき、手足を縛り、どこからも見えるよう
それから数時間後、城から離れ、町の中央にこの国の威厳を示すためにと噴水を中心と置いた配置の公園計画に着手し始めた大きな平地のところへの真ん中に成人の背丈で胸元の高さに土を四メーター四方に固めた上に二本の木をクロスしてそこに打ち込まれた高台にキールを手には縄で磔にし立たせていた。国王たちはヴォーナたちが一時帰ったのを待っていた。時間は、日が昇り傾きかけていたころである。王たちは、朝と同様に真っ白な布をかけた長いテーブルに座り大きなテントで日差しをかわしていて、目の前には中心のステージから五十メーター離れていたが、その配置もヴォーナによる指示のままなのだが、それを王たちの周りには町の大衆の人々がこれからなにが始まるのか、サプライズイベントに大いに興味を持って集まってきていた。しかし、中央のステージに立つ男に、何をこの醜い男を立たせているのだ、という思惑に、これは側の二本のクロスされた棒からしてこれから公開処刑がが始まるのだ、と口々に好き勝手に話しだしていた。
王は、額に汗を浮かばせ側近に冷やさせておいた白ワインをグラスにいれ、そのワインを一口大きく口に入れ飲み込もうとした時、予期せね「またせたな」というヴォーナの声にどぎまりしながらも口のものをどうにかして飲み干した。
「おおよくぞやってくれた。大儀であるな、して我にもその冷たいものをくれないか。こから始まる大一番の見物だ。我もなにが始まるか楽しみにゆるりとことを視たいものだ」
ヴォーナの前にも王と同じワインが用意され、その傍ではレンが王に睨みを利かせ王と目の前のテーブルを交互に見ていて、王はまたも側近に早くそのお嬢様にも同じものを、と言い、いつの間にかギヴァンも座っていることに気づき二つを言い渡した。
ヴォーナは、グラスの中の冷たいワインを一気に飲み干し、席を立ちテーブルとステージの間までいき、それを見た聴衆たち、とくに男たちから「おお」という大きなどよめきとため息がその場でうずまいた。ヴォーナは大きく手を
「我に無駄口を使うものはそうなる。しかし我も無駄に殺生などはしない。ただみなはことのなりゆきだけを観ていただこう」
そうしてヴォーナは空に目をやり、四方を眺め、天に向け大きな声を発した。
「ダームとエイムにより、その子を守るよう命を受けたしこの地の者よ、聞いておるか? これよりそこにおる男を我は手にかける。救いたくばそなたらの姿を見せ、命乞いをせい。少しの
その声は、とても大きく空の彼方へも響き渡った。ヴォーナは、元の席に戻りながらギヴァンにそっと耳打ちした。
「これよりあの男を守るためこの地の使者たちが姿を現し、
「はっ、判りました。我はみなヴォーナ様の仰せのままに」
ギヴァンは立ち上がり、右手を腹に持っていき、深々とお辞儀をした後、姿をけした。ヴォーナが席につくとレンがよく冷やさていたワインのデキャンターを手にしてヴォーナのグラスにそれを注ぎ、
「ヴォーナ様、お疲れさまににございます。この地の使者らは、そのように用心のいる奴らなのでしょうか? 私にはまだ妖精などのような
ヴォーナを一心に見るレンの頭を
「アランと申したか、そのほうこちらへ参られ」
名指しされたアランは、なにごとか、と急いでヴォーナの前に片膝をついたが「アランよ。とりあえず、立て」そう言われすくっと立つと、アランの視線がヴォーナを
レンがヴォーナのもとに駆け寄り「ヴォーナ様、なぜにこの男をお
「おやまあ、レン殿はまだ
レンの後ろでいつ戻ってきていたのか、ギヴァンが、レンに声をかけてきた。
「ぬっ、ギヴァン、なにをそなたは、我を
「やれやれ、戦闘属の獣族の短気な気性は本当に私も手に負えないですが、わたしめも戦闘属に片足をおいた昆虫族の
ギヴァンは、急に声を低くしてレンの耳元に片手をつけ、ヴォーナがなぜアランを手にかけるようなことしたか説明をした。
「よいですかレン殿、この国にはこのような
「そうであったか、なればそやつを殺さず我らが仲間にしたが得策であろうに……」
レンの
「おお、その手があったか、我も
ギヴァンは先ほどと同じように腹に手をおき、先ほどと同じセリフを言い、アランの骸と共に消えた。ヴォーナが目をあげ、聴衆に目をやると、そこには聴衆の前には背丈が三メーターを優に超える鎧を着た者たち、十二機が広場を中心に居並んでいた。
「ほんに、ギヴァンは頼りになるやつよ。速やかに我の言うことを成し遂げ……んっ、レンよ、そなたも我は日頃より頼りにしておるぞ」
ヴォーナとレンは席に戻り、王にあの男、キールをこれから磔にした足元に火あぶりのための
「さあ、フェアリーズよ。もう時はきた、時効だ。これよりこの男に火を掛ける。救いたくば、その者が灰になる前に助けに来ることだ」
そう言うと王に
それを民衆の中で見ていたキールの母が、キールの命乞いの言葉を叫びながら、キールのもとに駆け寄ってきた。それを見たヴォーナは、王にまた目配せをし、この女をやれと命じ、母の近くにいた兵士が、母の背中に剣を振りおろし切った。母は、地にふれ伏しそれでも必死の思いでキールの元へ行こうと地を
「さあ、フェアリーズよ。これでもまだ来ぬか。この男のは肌はもうほとんど
その時、空から一陣の突風が吹きこんできて、キールの火を一瞬にして消し去った。ヴォーナはそれを見て大きく笑い。レンとそこに居並ぶ十二使徒に号令をかけた。
「さあ、来るぞ。この地とこの男の守護のための妖精たちが、気を
キールの足元で
十二使徒にたちが、きりきりと弓を満身を込め引くと同時に、キールを取り囲む水の壁の外に今度は地中から土がせせり出てきてさらに壁を作り十二使徒の放った矢を食い止めた。
「ふーん、やるな。しかし、
その言葉を聞き十二使徒は、走りだそうとした時、ヴォーナはその者たちに待て、と言い「来るぞ。やつらがこの場に姿をやっと現す。その容姿、拝む余裕をつくっても遅くはなかろう。しかし、なかなかなものだ。我に気配を感知できぬところよりこのような壁など作るのだから、是非にもその雄姿を早く見たものだ」言い終わるや否や空の四方からその者たちは飛んできて、キールのまわりに降り立った。
「ああ、もう本当に長い話じゃ、聞くのも疲れたじゃろう。しかし、この話には、まだまだ先があって、まだ序章というところか? それでも、まだ聞きたいかのう? その顔ではもっと話せ、といういう顔かのう?」
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