第一章 - その七
その七
俺たちは、砂の上を飛ぶように疾走していた。俺は中学の頃、学校の牧場体験学習で少し乗馬体験をしたことがあるが、馬は走るたびに俺の体を上下に震わせあまりいい乗り心地はしなかった感じだった。しかし、今俺の乗るトカゲの背は快適だ。四つ足を使っての歩行は多少の振動はあるものの、まるで
俺は、このトカゲをサンドワームから隊を救ったお礼にと、あの左頬から肩にかけて火傷を負った隊長から感謝の気持ちとして、もらったものだ。その時、なぜ彼らはここを通ったのか訊くと、隊長の話だと、ゼーラン国の町
俺はその話を聞き、すぐに隊の姿が見えないところに行き、メルにそのことを、どおする? と訊いたら彼女は嫌だとつっぱねた。
「ダーリン、私と貴方はもう離れられない運命を持ているのよ。それに、日頃オアシスにいる私たちに対しての心がなく、五百年前に天魔を若き勇者様とメージュ様が倒して、それ以来ほんの数十年はたくさんの人々が
と言って、国がなくなっても自分には全く関係がないことだ、と言い彼らたちへの協力は少しもする気はないようだった。
俺はそのゼーラン国がどういった国なのかまったく分からないから、余り口を挟むのを
トカゲの走るスピードは速く風も頬にあたり気持ちい……頬にあたり? って、俺の前で風を受け、楽しそうにトカゲに乗るメルの青い髪の毛が俺の頬にあたり、たまに
「さあ行くわよ、ダーリン、レッツゴー」と楽しそうに、トカゲの首あたりにはチーたち精霊がいて、彼女らも楽し気にはしゃいでいた。
「メル様、こんなのもたまにはいいすねぇ。最近ずっとメル様のダーリンのやろうの臭い胸元の石の中でジッとしてましたが、こんなふうに風を感じながらの旅も、なかなか
「そうねぇ、私もこんな風にダーリンとハネムーンに砂漠を行くとはねぇ。早く暮れないのかしら、こんな砂漠を月に照らされダーリンとふたりだけ……アア、なんてロマンティックなの? アア、もうどうしましょう? 私たちこれから初夜を迎えるの? アア、もういやーん、ダーリン、やさしくしてね。お・ね・が・い」
って、なんでだよ。俺の心にはリーンがいるんだから、そんなことにはならないのは分かっているはずなのに……しかし、そん風に考えるが、前にいるメルがやたらと腰を振って俺に尻をあててくる。なんだか俺の理性っていうか、貞操意識の危機感がムクムクと頭を持ち上げる。俺は何のためにここに来たのか、俺の運命のひとの
「オイ、どうしたんだ、メルどこにいったんだ」
すると、胸のポケットの中からメルの声がした。
「ねえダーリン、私のお尻に当たってたのって、貴方のナニよね? 私まだその準備が出来ていないの、って言うか、私ね、本当は怖いの。だから今は待って、せめて陽が暮れて月が出て、とてもロマンティックな気分になれたら少しは出来るような……たぶん。だから、ダーリン、今は待ってね。貴方もそんな風に私への気持ちを形にして伝えてきたんだから、それに私は
何か、訳わかんないことになってるようで、またおかしなことになりつつある。俺のメルへの気持ちを形に、って俺がメルの尻での妙な刺激で硬くしたもので、一般成人の健康男子なら、つまりそうなるよね。って、それを愛の形にはならないけど、不覚にもそれをメルに感じ取らせてしまったのはやばい。やっぱメルも誤解しちゃうよね。って、もんで陽が暮れるのが、複雑な心境だ。
「オイ、メル様のダーリンやろう。なんで
「ほんとよね~。このひとバカなんじゃあないの? それにしても、とうとうメル様も女神に転身されるのかなぁ?」
「エッ、それどうこと? あちしはしらないんだけど」
「アア、やっぱ知らないんだ? チィーはまだお子ちゃまだからね~」
「なに言ってんだ。あちしはれっきとした
「まあいいわ、教えてあげる。あたいたち伝説の女神、メージュ様は、オアシスを出って行かれる寸前まではまだ今のメル様と同じ妖精だったらしいよ。でも、あの若い勇者と戦いに行かれる前の夜に女神に転身なされたそうだから、それはやはり……エヘヘ、
「フムフム、なるほどね。それも有りかもしれんな。ってことは、ムフフ……オイ、ダーリンやろう、メル様を女に変えたら、次はあちしと契りを交わせ。そして、あちしを立派な女にしてくれ」
「アア、やだ、チィー、あんたバカ? それに女になるんじゃあなく、あたいらが目指すのは最終的には女神だからね」
俺には到底わかることなんてないことだが、ようは妖精が人と結ばれれば女神に格上げってこと? そうなんだろうか、それでメルも俺と結ばれて早く女神になりたい、とそういうことか。手綱を握りながらそんなことを考えていたら、トカゲの前を走っていたシェリーが吠えながら立ち止っていた。そして、走っていたトカゲも止まった。また敵襲かと辺りを見回したが、何も見えなく、シェリーにどうした、と訊くとシェリーは
やっと俺たちは、賢者の森に辿り着いたようだ。トカゲの足をまた歩みださせると、段々その森が近づいてきた。そしてその森の入り口には何やら人影のような黒いものがたっている。
その人影を目印に向かっていくと、そこには黒髪の長い
「よくぞ、いらっしゃいました。貴方がマサキ様という勇者様ですね。さあさあ、こちらへどうぞ、それにお乗りなられているトカゲの方もどうぞ一緒に、こちらに置いておかれると夜のうちには骨になっておりますから。それとオアシスの妖精メル様もご一緒なのでしょう? そう隠れてないでお姿をお見せになられては下されませんか」
「エッ、なぜそれを知っているのですか。それに俺がここに来ることも知っていたようですけど」
「アア、それは、そのことでしたら、つい先ほど、ゼラス卿からの使い鷲が文を持ってきて、それを賢者様がお読みになられて、私に出迎えるようにと云われたものですから」
「でもまさかそれには妖精も同行しているとは書いてはいないはず。それをどうして、貴方は知っているのでしょうか」
「エエ、それは長い話になりますが、
「それがどうしたというのですか。貴方は伝説から読み知ったということは、俺にはどうしても分かり兼ねないのですが」
「アッ、エエ、そうでしょうね。実を申せば、私は貴方の来ることをずっと待っていたのです。私がこの森、賢者様に引き取られそれ以来五百年前の勇者と女神メージュ様の伝説を賢者様と語らいながら世の流れとこの地のマナの流れを読む勉強をしていまして、そこで賢者様と私の考えが
彼の言うことを
「そうです、私はダーリン、いえ、この方が勇者かどうか知りませんが、彼に付いてきました」
「アア、やはりそうでしたか、この方が勇者ということなど考えずに付いて参られた。それで十分でございます。なぜなら、私の考えでは勇者となられる方と妖精メル様は互いに
それを聞いたメルは何かご機嫌となり俺の腰に手をまわしてきた。
「ネッ、ダーリン、やはり運命なのよ。私、貴方を見た時ビビッと感じたもの、この方が
「ありがとうございます、メル様、私を信じてもらえてとても光栄です。マサキ様、それと貴方は知らないことと思いますが、貴方の傍にいるその
俺はそのことを聞いて、反論できずにただ黙っているしかなかった。
「ああ、そのことについては俄かには信じられようもないことでしょう。さあ、後の詳しいことなどは、賢者様のところへゆき、お話を聞かれるがいいと思います。ささ、さぁー、中へと参りましょう、賢者様も首を長くしてお待ちのことでしょう」
そう言い、俺たちを森の奥へと誘っていく。
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