終
以上を持ちまして、当探偵小説【人格渦】の物語を閉幕とさせて頂きます。
これまでの話に渡って、幾つもの奇妙な事件や不可思議な謎が巻き起こって参りました。そして、それらの事件が起こる度に執筆者である私も読者の皆様と同様に、文字通り両手で頭を抱え、頭を悩ませ、事件や不可解な謎に関する矛盾を生まない様な解と言えるものを本文に慎重に、慎重にも慎重に考え、編み出し、記して参りました。
恐らくこの解を…いえ、この解に至る前に、隠しておいた仕掛けそのものに気付かれておられる読者の方は限りなく少ないことでありましょう。そうここで私は胸を張って言っても良い程に、私はこの仕掛けに自信があるのです。と、申しますのも、物語の中に登場した憂助、基い、怪人αの正体を本筋通りに読んで行って下されれば「第5話 怪人α(中)」の時点で勘の良い読者の方々は薄々かんずいて頂けるのではないかと存じているのでありますが。実は、この憂助が怪人αの正体であると言うことは「第5話 怪人α(中)」よりももっと前の噺、「第2話 推理作家a(上)」で何と知ることができて
読者の皆様は覚えていらっしゃるでありましょうか、憂助の内の人格の一人、彼の有名な小説家である推理作家a、基い、新田 考助の名乗っていた
ここで一つ、読者の皆様には「アナグラム」と言う言葉を御紹介したいと思います。「如何して今そのようなものを?」、「話が脱線しているのでは?」と、頭にクエスチョンマークを浮かべ、お考えになっている読者の方々もおられる事でありましょう。ですが御安心下さい、決してこれは「意味のない脱線話」や「全く関係のない事」と言う訳でもないのです。
さて、話を戻しまして。「アナグラム」と言うのは元ある言葉を入れ替えて元とは別の意味にする行為(若しくは、遊戯)を指します。ここで一つ、読者の皆様に少しでもお分かり頂け易い様に例えをあげて見る事と致しましょう。
みかん
ここに「みかん」(蜜柑)と言う三文字の平仮名があります。この何の変哲もない三つの平仮名、実は二番目の「か」を先頭に、一番目の「み」を二番目に、三番目の「ん」をそのままに入れ替えて読むと次の様になります。
かみん
もう御分かり頂けたことでしょう。そう、三つの文字を入れ替える事によって「みかん」(蜜柑)から「かみん」(仮眠)へと言葉の持つ意味を変えて
ここで、名前が漢字のままでは並び替える事が出来ぬ為、以前の例の様にルビの平仮名に変換しますと、次の様になります。
かじはれだいおん
さて、これで下準備は整いました。後は例えの際と同様に単語を並び替えるのみです。先ず最初に、一番目の「か」はそのままとして、二番目の「じ」は三番目に置きます、三番目の「は」は五番目、四番目の「れ」は七番目、五番目の「だ」は最後、六番目の「い」は二番目、七番目の「お」は六番目、八番目の「ん」は四番目に置き替えます。すると…
かいじんはおれだ
そう、かじはれだいおん(梶晴泰穏)から、かいじんはおれだ(怪人は俺だ)に意味を変えることができて
ミステリー作品における隠された謎と言うものは知ってしまえば実に簡単で呆気の無い事に感じてしまいます。ですが、それでこそ読者を騙すミステリーとなりえ、読者の皆様を「あっ!」と気付き、楽しませる事が出来る、私は初めて探偵小説と言う物を長編で書き綴ってみて、そう深くしみじみと感じました。これは、恐らく実際に筆を手に取り、「あれはどうだ?これはどうだ?」と試行錯誤し、最後まで挫折しつつも諦めずに挑み続けてきた者のみにしか分かり得ないことでしょう。
正直な所を申し上げますと、「当作を途中で投げ出してしまいたい」、「これ以上先、如何すれば良いのだ」と、何度も々々々繰り返して自問自答をし、唯々もんもんと思い続けることが度々ありました。と、申しますのも、何せ今まで江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」や坂口安吾の「不連続殺人事件」等の探偵小説や推理小説を読者側として楽しんで読んできただけで、執筆者側としては全く以て勝手の分からぬミステリーと言うジャンルの小説を比較的容易に書きやすい短編からでなく、いきなり長編から書き始めてしまったのですから。秋刀魚が鮫に立ち向かって行く様なものです。当然、長編の小説の構成には実に難儀し、途中で何度も々々々路線変更を繰り返して、物語を修正し追加して参りました。ですが、今こうして最後まで暮島と新田や岩井、篠村、芝浜、佐々木、州崎達の生きる物語を書き終える事が出来たと思うと何処かこう、晴天の青空の様に晴れて良い気持ちと心地の良い安心感と言うものを得る事が出来ました。どれもこれも、読者の皆様が【人格渦】をお読み続けて頂けたからこそ現実となったことです。
さて、少々話が長引いてしまいましたね。そろそろ、読者の皆様も私のまだまだ至らぬ所ばかりの文を読まれてお疲れになられてしまっている事でありましょう。
それでは改めまして、読者の皆様。当探偵小説【人格渦】をお読み頂き、ありがとうございました。
【人格渦】 文屋治 @258654
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